20.花に囲まれる
システィアーナは、花に囲まれていた。
比喩ではなく、物理的に、公爵邸にある多くの花瓶に生けられた、ピンクを基調に、白や淡い黄色が差し色に使われている、美しい花々に取り囲まれていた。
その大半は薔薇で、色の濃いピンクもあるが、柔らかい色合いが殆どで、中にはサーモンピンクもある。
それだけだと豪奢で重い感じになるのを、早咲きのチューリップや、晩秋には終わるはずのガーベラ、ラナンキュラスも添えて可愛らしく整えられ、間に純白のかすみ草が入っているのもいい。
薔薇の花だけならそうでもないが、全体的に柔らかく可愛らしく纏められていて、実にシスティアーナの好みにぴったりだった。
「こんなにたくさん、どうしましょう」
どうしましょうもない。切り花である以上、花瓶に生けて、飾るしかない。
少し玄関ホールの左右に大きめに飾られ、正面階段を上がった左右にもうひとつづつ、廊下に幾つか小さめのものを点在させ、後は全てシスティアーナの部屋に飾られた。
「いい匂い⋯⋯」
システィアーナの手には、封書に入ったもの、カードタイプ、二つ折りにされたもの、形状の違うメッセージカードが、3枚。
『癒やしの風が届けば』
『薄紅の君へ』
『無聊の慰めに』
朝一番で届いたものは荷馬車を埋め尽くす薄紅の薔薇と、ラナンキュラスとかすみ草がほどよく差し込まれたもの。
王宮の温室で丁寧に育てられたものらしい。
アレクサンドルからだった。
戸惑ったものの、純粋に喜んで、花瓶に生け、昨日の不調と疲れはどこへやら、笑顔で朝食を摂ったシスティアーナに、家族は微笑ましく見守った。
どこに飾ろうかと話ながら、サロンで食後のお茶を楽しんでいると、第二波の荷馬車にいっぱいのこれまた薔薇の花が届いた。
濃いピンクも淡いピンクも白い薔薇もとりどりで、ブローチのようなガーベラもおちょぼ口のチューリップも愛らしかった。
慌てて、メイド達が予備の花瓶を用意して、なんとか収め、お礼状を書こうとしたころ、第三波が来た。
こちらは前のふたつに比べればささやかなもので、届けに来た園芸家が両手で抱えて前が見えなくなる程度だった。
普通で考えれば、これも花束にしては量が半端ではないのだが、前のふたつが凄すぎて、感覚が麻痺しかけていたようだ。むしろ、この程度でホッとしたという。
カードを確認したところ、第二波はタルカストヴィア伯爵家の三男カルルデュワで、やや良識的だが大きすぎる花束は、又従兄のエルネストだった。