16.祖父との遊びは学びと共に
登城した貴族の馬車が待ち並ぶ停車場に、予定より早い時間に戻るシスティアーナのために、ユーヴェルフィオが先行して報せに行く。
疲れと緊張となぜこうなった感にぐるぐるしているシスティアーナを支え、それでも必要以上には触れないよう、細心の注意を払ってゆっくりと歩きながら、アレクサンドルは、己に身を寄せる再従叔母をさりげなく観察した。
システィアーナは、王女達とは日々交流もあるし、第二王子妃アナファリテとも年も近い侯爵令嬢同士、プライベートでは『アナ』『シス』と呼び合うほど仲もよく、その繋がりでフレックとも親しくしている。
が、王太子アレクサンドルは、国王エスタヴィオや宰相ロイエルドらと共に公務で忙しくしており、教師として勉強部屋に来るとき以外、あまり交流はない。
ただの侯爵令嬢としては雲の上の人のように感じていた。
故に、今。粗相をしでかしそうに緊張していた。手足が少し震えている。
アレクサンドルには、体調不良からの震えであると思われている、と信じていた。
「それにしても、体調管理にはいつも気をつけているのに、珍しいね?」
「お恥ずかしいですわ。長年の婚約者との関係解消の運びに力が抜けたのもあると思いますし、カルルデュワ様に間近にお目にかかって、緊張したのもあると思いますの」
「カルルに会ったの?」
「はい。語学の授業に合わせて、リアナ様がお呼びになったそうです」
「なるほど。語学力なら、カルルは間違いないね」
「はい。とても流暢に、母国語のようにお話しでした」
「それが解る君も、たいしたものだと思うけれどね」
「⋯⋯ありがとうございます」
システィアーナは、優秀な弟が生まれない限り侯爵家の跡取りであるとして育てられたため、幼少の折から、遊びを通じてたくさんのことを学ばされていた。
先々代王弟である祖父との面会には、常に他国の言葉で、ボードゲームをしたり、他国のこと、王家のこと、まだ見ぬ動物や植物、お菓子やいろんな事を話すのが楽しみだった。
それが当たり前で育っているので、デビュタントして他の令嬢と話をするようになって初めて、それが普通ではないことを識ったのだ。
「わたくしの語学の教師はお祖父様でしたから、いろんな言葉を日常的に話してましたので」
「さすが曾祖叔父、外交に関してとても優秀であったと聞いているよ。なんなら、今でも、諸国と対等に語らえるんじゃないかな」
今でも、領地内の特産品の貿易や、近隣諸国との技術提携など、個人的な外交は行っていて、成功を収めている祖父が誇らしく、システィアーナははにかむような愛らしい微笑みを見せた。
いつの間にか、緊張からの震えは止まっていた。




