13.ひと目のあるところでは背筋をピンと
王女達の勉強部屋から辞して廊下を進むと、少し肩の力が抜けた。
(人の目には慣れているはずだったのだけど⋯⋯)
やはり、オルギュストとの正式な婚約解消と、国王達との話し合いの場での緊張や、自分には過分にも思われる報償、王宮でたまにすれ違う宮廷人の好奇を含む視線などに、心が弱くなっているのかもしれない。
中堅どころの宮廷人には、自身や身内を婿に送り出したい腹づもりもあるだろう。
上位貴族には、誰がシスティアーナやロイエルドの目に留まるのか、興味がないはずがない。
先代国王の譲位に合わせて、年老いた前宰相から役目を引き継いだ父ロイエルドの、家督後継者であり、先々代王弟の孫娘として、代行で王女の公務に同行もする、侯爵令嬢でありながらも王族と同等の扱いをされるシスティアーナ。
彼女が誰と婚姻を結ぶかで、上位貴族達の力関係が大きく変わるかもしれないのだ。
人々の関心を引かない筈がなかった。
ふらふらと、貴族用の馬車止めに向かって歩いていると、背後から声をかけられる。
「シス? 具合が悪いのかい?」
「フレッ⋯⋯フレキシヴァルト様」
王家のプライベートエリアを出ていたのに、ふと親しげに愛称が出そうになるのを堪える。
愛称で呼びかけそうになるのもそうだが、具合悪そうに見えて心配で呼び止められるほど、気が抜けていただろうか。
(カルルデュワ大使様の視線に動揺して気が抜けるなんて。次期侯爵として、お祖父様の名代として、もっとシャキッとしなくては⋯⋯!!)
ちょっとした失態が、思わぬ足下をすくわれる事もある宮廷。
気を抜くのは、自室で一人になったときだけだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。少し、気分が優れないだけで、体調がひどく悪い訳ではありませんので、お気遣いなく。馬車に戻れば、侍女もいますし、簡単な介抱道具もありますから」
フレックの気遣いはありがたいが、体調管理もままならないのかと、まわりに嘗められる訳にもいかず、背筋を伸ばし、笑顔で返した。
「それでも、途中で何かあってはいけないよ。馬車まで送ろう」
フレックと一緒にいたのは、エルネストとユーヴェルフィオと、アレクサンドル。
朝議の後の事後作業を終えて、奥宮へ戻る途中だったらしい。