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10.フローリアナの待ち人



 ノックされた後、侍女の遠慮がちな声がする。


「ユーフェミア王女殿下。こちらに、フローリアナ王女殿下はいらっしゃいますか?」


「ええ、いるわよ?」

「フローリアナ王女殿下がお約束をしていたとかで、お客様がおいでです」


 ユーフェミアとアルメルティアは顔を見合わせた後、頷き合い、許可を出す。



「いいわ、入ってもらって」



 あまり音を立てずにゆっくりと開かれた扉の向こうから、真っ白なドレスシャツに空色のクラヴァット、濃い青色のトラウザーズ姿の青年が入ってくる。

 後ろには、リボンが巻かれた箱を4つ持った従僕が付き従っていた。


「ご機嫌麗しう」


「お久し振りですね、カルルデュワ様」


 まずは第四王子トーマストルに頭を下げ、ユーフェミアの前に片膝をついて手を取り、甲に軽く口づけをする。

 次にアルメルティアに、そして、まだ小さいフローリアナを縦抱きにかかえて頰に軽く触れる。


『カルル兄さま、今日は北の言葉勉強する、守る約束。ね?』

『そうだったね。フローリアナ。少し見ないうちに、立派なレディになったね』

『あ、あら、紅茶も淹れるもらえない、子供が泣く、まだよ』

『ふふふ、僕の小さなレディ。そうだね、まだ8歳の身体には、紅茶はダメだよ。それは仕方ないね』

「レディを気軽に抱き上げるものじゃないわ。下ろしてちょうだい?」

「これは失礼しました」


 朗らかに笑って、そっとフローリアナを床に立たせるカルルデュワ。


 そして、最後にシスティアーナに向き直ると、手を取ろうとする。

 が、なぜか、つい、システィアーナは手を引っ込めてしまった。


 なんとなく、この場で、カルルデュワに手に口づけられたくなかったのだ。


『これは失礼。直接お会いするのは初めてかな? レディ』


『夜会でお見かけしたことは⋯⋯ システィアーナ・リリアベル・アレナルハウディス=ハルヴァルヴィア侯爵令嬢ですわ』


『カルルデュワ・ソルティオ・ヤンセンハウナル。

 トーマストル王子殿下、フローリアナ王女殿下の母君エメルディア第二側妃殿下の実家タスカルトヴィア伯爵の三男坊です。以後よろしくお見知りおきを』





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