7.オルギュストの眠れない夜
俺の態度で、家格が下がってしまう?
祖父が先々代の王妹を娶った事で王戚となり、次代に侯爵に下がるのを免れたが、ファヴィアンかその子が王家と縁を結ばねば、再びその次は王戚から外れ、侯爵に降爵する。
だが、今、自分が貴族としての正しき行いを国王に認められなければ、次代を待たずして降爵するというのか?
「そんな、兄には関係ない話では⋯⋯」
「お前の教育に失敗したという連座責任だ。どうしてもその娘と婚姻したければ、事前に陛下に申し立てるべきであったし、そもそもが、お前は婚約当初から、システィアーナ嬢にはつれなかったな」
それは、そうだ。どうしても、気に入らなかった。
システィアーナが、でもあるし、遠戚とはいえ顔もよく知らない国王に、勝手に結婚相手を決められたのがまず気に入らなかった。
とても愛らしい少女だと聞かされていたので、ドキドキしながら実際に会ってみて、高価なビスクドールのような姿に、もっとふわっとした花のように笑う可愛い女の子を期待していたので、がっかりした。
また可愛いお嫁さんをもらうのではなく、自分が、この人形のように綺麗で、まだ7歳だというのに凛とした佇まいの娘のために、お婿にもらわれていくのだというのが、更に気に食わなかった。
どうせ僕は次男だ。兄さんのスペアでしかない。
だったら、自分で勇者と呼ばれるような騎士になって、花が似合う可愛らしい妖精のようなお姫様をお嫁にもらうんだ!!
アンタなんかお婿に要らない! そう言って破談になるかもしれない。
あんな、魔女の作った精巧な人形のような、紅い目の女のお婿になんかなるもんか!!
幸い、剣を習うにも馬術を習うにも、公爵家として恥ずかしくない師範が用意されたし、勇者と呼ばれるような名高い騎士になるという目標に向かって己を磨くのは楽しかった。
勿論、身体がついていくようになるまでは辛かったし、最初は食事も喉を通らなくなるほどボロボロにもなった。
それでも、名のある騎士になる、花のような嫁をもらうという、目標に向かって鍛錬するのは苦労ではなかった。
身体が出来てくると、疲れてもつらさは減り、才能も開花した。同年代の騎士見習いには、オルギュストに勝る者はいなくなるほどに。
父に習い、兄に勧められて形だけは、システィアーナに贈り物をしたり、茶の席に顔を出したりはしていたが、やがて従騎士の務めが忙しいと理由をつけて、それもしなくなった。
二年の兵役中に、隣国との小競り合いが起こり、戦争にまでは発展はしなかったものの死傷者も出る中、そこそこの手柄も立てた。
渋々参加した茶会で運命の出会いを果たし、花のような嫁も確保した。
後は、システィアーナに要らないと言われたらすぐにでも婚約を破棄して、いずれ騎士爵を授爵して独立してやる!!
子供の頃からの夢が叶うのは、目前かと思われたのに⋯⋯
どれだけ待っても、システィアーナは、自分など要らないと言ってこない。
運命の花のような恋人と睦まじくする姿を見せてもなお、別れようと言って来ない。
仕方ない、爵位はこちらが上だ。みんなの前で、お前とは結婚しないと言ってやれば諦めるだろうし、俺たちの仲も周知の既成事実となるはずだ。
さすがに年末の王家主催の夜宴会では、祝いの席に水を差す事になるから、ちょうどいい、次の高位貴族限定の夜会で宣言してやろう。
ただ、それだけだったのに⋯⋯
父に言われた事が頭の中をぐるぐると回り、なかなか寝つけない夜が続いた。