3.女公爵か女侯爵か
家に戻っても、システィアーナの心は晴れない。
システィアーナが、ドゥウェルヴィア公爵を継ぐ事が、限りなく確定になってしまったからだ。
父親のハルヴァルヴィア侯爵位は、妹のソニアリーナが継ぐことになるのか。
この国では女子であっても有能ならば爵位は継げるし、過去には女王陛下が立ったこともある。
リーナがいずれかの貴族の元へ嫁すためには、父親の親戚筋から養子を迎えて跡取りとして立てるか、システィアーナかリーナの子をロイエルドの養子にしなければならなくなってしまった。
「あら、別にいいんじゃないかしら?」
エルティーネはあっけらかんと答える。
「本当なら、私が婿をとって、お父さまの後を継ぐべきなのですもの。シスは、別に無理に継がなくても、継いでも、お好きになさって? お父さまのドゥウェルヴィア公爵位は、王弟だからいただいたもので、領地やお邸はともかく、公爵位は王族でなくなるあなたの子孫には受け継がれないものよ? 侯爵以下に降爵するのだし、別に返上したっていいのだから。ね?」
エルティーネ自身は本気で言っているのだが、王弟の孫として公務も交えながら、侯爵家の跡取りとして学び育てられたシスティアーナには、慰めのために言わせた、本心からの言葉ではないように思えた。
そして、何より憂鬱なのは、オルギュストとの破局はいずれ来る未来と割り切っていたはずが意外に傷ついている自分に気づいたばかりなのに、その傷も癒えぬうちから、女公爵になるにしても、ハルヴァルヴィア侯爵を継ぐにしても、新たな婿を探さねばならない事にあった。
しかも、父ロイエルドの手元には、すでに釣り書きと共に婚姻の申し込み書が、山のように届いているらしい。
高位貴族の集まる侯爵家の夜会で、あれだけ派手にやらかしてくれたオルギュスト。
噂はわざわざ広めずとも殆どの家に知れているし、適齢期の子息をもつ貴族達にとっては、王族と繫がりを持つ絶好の機会なのだ。