2.鰯の頭も信心
「ねえ、お兄さま、なんでシスを連れていったの?」
アルメルティアの疑問に、フレキシヴァルトは無反応、ユーフェミアはチラと妹を見ただけ、エルネストは僅かに肩を揺らした。
護衛騎士や侍女、従者も無表情無言であった。
もっとも、ファヴィアンもアレクサンドルに付き従って退室した今、この中で発言権を持つ者がいなかっただけであるが、譬え発言権を持ち理由を知っていても答えなかっただろう。
「殿下は、お忙しいから、執務室で仕事をしながら、ティアのお茶をいただきたいのですって」
にっこりと、妖艶という冠をつけたくなるような笑みで、アナファリテがアルメルティアに答えた。
「ふぅん? このところ、よくシスのお茶を飲むのね?」
「それなのよね」
「それって、どれ?」
姉のため息交じりの言葉に、アルメルティアが首を傾げる。
「シスのお茶のレシピで、お茶に詳しい女官に淹れさせたのだけれど、思うような効果は出なかったのよねぇ」
「そうなの?」
ユーフェミアは、読みかけの英雄譚をテーブルに置き、深めに息を吐き出すと、冷め始めたお茶を含んだ。
「元々、ハーブティーの効果なんて、即効性のあるものじゃないだろう?」
「それはそうなんだけど。でもなぜか、シスのお茶を飲むと、お肌がよくなった気がするし、スッキリ眠れたりするのよね」
「それは、アレだな、プラシーボ効果かもしれないな」
「ぷら、しーぼ? なぁに?それ」
フレキシヴァルトとユーフェミアのやりとりに、アルメルティアの知らない単語が入っていて、訊き返す。
「本当は、ただの飴玉でも、栄養剤だよとか喉の薬だよと言われて舐めたら、元気になったり、喉がスッキリした気になる事だな」
「嘘っこなの?」
「まぁ、半分は。ハーブティーにリラックス効果や美肌効果があることは本当だけど、飲み続けないと眼に見えた効果は出ない場合が多い。なのに凄く効いた気がしたり、本当に少しよくなったりするのは、これでよくなるはずだという思い込みが刺激になって、脳からのよくなるよという指令に体が本当に反応するのさ」
「それはそれで凄いのね」
「まあ、な。ミアや兄上には、シスのお茶に絶大な信頼があるんだろう」
この世界観で、プラシーボ効果なんて言葉があったのか、についてはツッコまないでいただけると幸いです <(_ _)>
現代的な言葉だな~とは思ったのですが、他にいい言葉が思いつきませんでした。
鰯の頭も信心を海外ではなんていうのかな、とか調べたんですけど、検索の仕方が悪かったのかヒットしなかったのです