49.馬車はどこ?
ユーフェミアとアルメルティアは晩餐前に少し用があると、刺繍道具を侍女に持たせてサロンを出て行き、アナファリテも侍女を伴って退室した。
デュバルディオはお茶の時間より早くに職務に戻り、この場にはいない。
今度こそ、システィアーナはメリアに刺繍道具を半分持ってもらい、帰宅する事にした。
ファヴィアンとアレクサンドルも廊下に出て、フレキシヴァルトが戸締まりを確認するのを待つ。
エルネストに書類を持たせ伝令を伝えて先に執務室に戻し、アスヴェルと共に廊下に出ると、サロンに鍵をかける。
「まあ、鍵かけなくてもどうせこの後、メイド達が開けて掃除をするんだろうけどね」
その殆どの部分が王族のプライベートゾーンとも言える奥宮から本殿を通って、上位貴族専用の馬車留めに出るが、なぜかハルヴァルヴィア侯爵家の馬車が居ない。
システィアーナがメリアを振り返るが、メリアも首を振る。
アスヴェルが、他家の馬丁が待機している小屋に行って確認をしてくると、侯爵の仕事の都合で、一時ほど前に出たのだという。
「書状を預かっております」
それによると、ロイエルド自身は、ハルヴァルヴィア領で急を要する仕事が出来、しばらく王都の邸にも王宮にも戻らない事、その関連で必要なものを取りに、執事の一人を邸に遣わした事。
その際、ロイエルドは今朝自身が乗って来た侯爵家の小型のクーペを使った事、執事には、申し訳ないがシスティアーナが乗って来たコーチを使わせたので、もし夕刻までに執事の戻りが間に合わなければ、ユーフェミア殿下に頼んで、泊めてもらいなさい、とある。
「なら、王太子宮に泊まるかい? 殆ど誰も使わないから、部屋だけはたくさんあるよ」
「えっ!?」
「勿論、ユーフェミアやアルメルティアも一緒にだよ。よく、別荘扱いで泊まるんだよ。彼女達」
「あ、ああ、ええ、そうね⋯⋯」
「明日の婦人活動法人への支援に行くのは、ここから三人で行けばいいだろう」
「あ⋯⋯」
泊めてもらうしかないかと考えていたが、そうもいかない事情を思い出す。
「とても残念なのですが、明日の活動に必要な物が邸にありますし、明日着る予定のドレスも邸に残してきておりますの。ここから直接というのは⋯⋯」
元々泊まる予定でなければ、当然のこと必要物品が手元にない。
活動内容に合わせた装いを整えるための準備も、当然邸にあるのだ。
「姫さま、僭越ながら、私が、取りに行って参りましょうか?」
「執事がいつ戻るか解らないのに、もしかしたら夜中になってしまうかもしれないわ。そんなの危険よ。ダメよ、メリア」
「なら、取るべき道はひとつだね。僕が二人を侯爵家まで送っていこう」
「「えっ!?」」
システィアーナとメリアが驚いてアレクサンドルを見る。
王太子は爽やかに微笑んでいた。