48.疲労に効くハーブティーをあなたに
何かを期待した目で茶を淹れるシスティアーナを見つめるアレクサンドルに、説明をしていく。
「ハイビスカスはビタミンや酸味が疲労回復によいとされるハーブで、こちらの赤や紫の色が濃い花びらやドライベリーは、眼の疲れにも良いものですの。書類仕事が多いと、眼精疲労や脳自体も疲れますでしょう? 今回は花やベリーをベースに目に良い色素群糖質も摂れるようにしました。
レモンバームはストレスや不眠にもいいですし、ジンジャーは身体を温めて自律神経の乱れや血行促進に効果があって、慢性的な疲れに効く成分が認められていますの」
「なるほど、これはよさそうだね。いただくよ」
嬉しそうに口に含むアレクサンドルを見届けると、ユーフェミアに向き直り、
「お肌にもいいのよ? 美肌効果が高くて、過去の女王や王妃達も常用していたと聞いてますわ」
とおかわりを促していく。
アナファリテは黙って優雅に飲んでいたが、ユーフェミアとアルメルティアは何やら話し込んでいた。
「しかし、そんな知識、いつどこで学ぶんだい? 王宮の学者たちはそんな事は教えないだろう?」
「ええ。王宮の図書室での独学と、各国の大使夫人達との会話からですわ」
「なるほど。お茶会での情報交換は、ご婦人方の得意分野だね」
フレキシヴァルトも、王太子補佐として内政に係わっているし、情報収集は必須事項だ。表には公表していないが、裏で国内外の貴族や王族の動向などの調査や情報の管理、操作にも携わっている。
朝議の後の情報交換の為の茶会や、あまり王家は参加しないが上位貴族の開く夜会、王宮での各国の大使や使節団を招いての晩餐会などで、ただ笑っているように見せかけて彼らを観察し、それまでに得た情報と摺り合わせ調査をしている。
が、こういった日常生活に密着した雑学などはあまり伝わってこない。
もっと貴族達の夜会や、街の紳士倶楽部やサロンに行けば、みな雑談しているだろうし誰かしら蘊蓄を披露しているだろうが、迂闊に王子が参加すると、王家公認だの、誰々名士や何々家は王室と交流があるだの、貴族達の勢力争いに知らず知らず加担するハメになるので、滅多には気軽に行く事も出来ない。
特定の人物との交流や、少数でも行きつけなどを持つ訳にはいかないのが、王子のつらいところだ。
システィアーナは慣れた手つきで、ファヴィアン、アスヴェル、エルネストにもハーブティーを淹れ、戸棚にしまってあった固焼きの焼き菓子を盛り皿に並べて、アレクサンドルから順にテーブルごとに置いていく。
二杯目を勧める頃、メリアとユーフェミアの侍女達が、厨房から軽食と菓子を盛り付けたアフタヌーンティースタンドを受け取って来て、ただのお茶で休憩だったはずが、本当にアフタヌーンティーとなった。