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47.精巧なビスクドール?  


 あれこれ訊きたそうなアルメルティアの覗うような眼が気にはなったが、次の婦人活動法人への支援に行くまでにやり終えていなければならない課題が終わっていない彼女のために、刺繍の指導をしている内に、アフタヌーンティーの時間を過ぎていた。


「そろそろ兄上がいらっしゃる頃合いだ。シス、疲れにいいハーブティーを淹れてくれるかな」

「はい」


 侍女のメリアが暖炉に鉄瓶をかけて湯を沸かし、システィアーナは、戸棚の前に立ち、王子達の集うサロンに常備されているハーブから、効能の合ったものを探していく。


 アルメルティアの刺繍のために、馬車で待つメリアも呼んだのだ。

 伯爵夫人となった彼女も友人としてお茶を淹れたかったが、ここは王族のプライベートゾーンの一室。自宅と同じようには出来ない。

 だが、フレックの私設秘書を兼任しているエルネストや、アレクサンドルの執務室主任であるファヴィアンには淹れることは赦されている。

 また、フレキシヴァルト護衛官主任のアスヴェルは、公爵家の嫡男で近衛騎士の小隊長でもあり、壁際で置物になっている事が多いが、時と場合で皆と共にテーブルに着く事も許されている。


 メリアも、メルティの刺繍の仕上げや縫い物などを手伝ってくれるのに、お茶くらい⋯⋯


 王家所蔵の高級白磁の茶器ではなく、上級女官や王妃付き侍女達が使う、そこそこいいものだが最高級品ではない無地のシンプルなものを拝借し、メリアの分もハーブティーを淹れて、暖炉上の飾り棚の(マントルピース )隅に置いた。


 メリアはその行動を理解し、使用済みの茶道具を下げるついでに自分の為に淹れられた茶を片手に、壁際までさがる。

 更に衝立の向こうのメイドや侍女が下拵えなどをする空間にまで下がって、ハーブティーを啜るメリア。


 その様子を見ていたシスティアーナは、アレクサンドルのためにポットにティーコゼ(ポットカバー)を被せるが、ちょうどサロンの扉のノッカーが鳴り、ファヴィアンが開けた扉から、眩しいほどの笑顔でアレクサンドルが入って来た。


「フレック、お茶のお誘いありがとう」


(別にお茶会に誘った訳じゃないんだけど)

 無言の笑顔で迎えるフレキシヴァルト。


「ティアが疲労回復に効くお茶を淹れてくれるときいて、楽しみで午後の仕事が捗ったよ。これを」


 整った容姿が多い王家でも指折りの美貌を、輝く笑顔にして一直線にサロン中ほどに居るシスティアーナに向かって進むアレクサンドル。

 (ほころ)び開き始めたばかりの(つぼみ)、王家秘匿の白薔薇を(クイーンブランカ )一輪、システィアーナに差し出す。


 王家秘匿ゆえに許可なく手折ることを許されていない薔薇だが、剪定のため摘み取る事はある。

 また、国王エスタヴィオから、システィアーナの為になら、白薔薇を(クイーンブランカ )()り、贈る事は許可されている。


「王太子殿下手ずからの花、お心遣いありがたく存じます⋯⋯」


 何やら機嫌がよさそうなアレクサンドルの前に、ティーコゼをつけたままのポットと温められたカップを並べる。

 眼でも楽しめる花茶やハーブティーのために作られた、ガラス製のティーポットである。

 色合いやハーブの開き具合を見て、カップに注いでいく。


 が、アレクサンドルの視線がうるさくて頰に熱が集まっていき、また逃げ出したくなる。


「大丈夫、落ち着いて。あれはちょっと精巧なビスクドール。気にしないでいつも通りやればいいんだよ」


 いつの間にか隣に立っていたフレキシヴァルトが、耳元で(ささや)く。


 ──精巧なビスクドール?


 なるほど、整った白い顔、絹糸のような金の髪。ユーフェミアと並べば尚のこと、人形めいて見えるかもしれない。


 一度そう思うと、おかしくて笑いが漏れそうになるが、肩の力は抜けた。



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