46.応援したい親友
「いいことあったみたいだね? エル」
「え?」
「なんか、表情がね、柔らかい。ファヴィアンの氷のような視線を受けてオロオロしてるのかと思えば、今は鼻唄でも歌い出しそうだ」
そうなのか? 頰を撫でるが、わからない。ニヤけてはいないと思うが、確かに叱られたようには見えないかもしれない。
「普通だと」
「思わないよ。シスとイチャイチャしちゃった?」
「んな訳っ」
「あ、図星? いやぁ、ファヴィアンが眼をつり上げて怖い顔してたからさぁ。公衆の面前で「エル従兄さま♡」とか甘えた声を聴いたり腕に縋られちゃったりしてない?」
「見てたんなら態々訊かなくても⋯⋯!!」
頰を染めて講義するエルネスト。
「あ、やっぱりそうなんだ? 兄上も驚いてたみたいだし、ファヴィアンが冷た〜い目で見てたからそうなんだろうなって、さ?」
鎌をかけられて墓穴を掘った事に気づき、苦い物を噛みつぶしたような表情になる。
「まあまあ、そう睨まないで。いいじゃん。エルには気を許してるって事でしょ」
頼られて悪い気はしない。甘えられると嬉しい。
そこに恋情や深い思慕がこもっていればもっと喜べただろうが、まだ親戚のお兄さんを超えられていない気がする。
「期限の二年で、本当にそういう関係になれるのかな。近過ぎて却って見えない存在とか、空気のように傍にいるのが当たり前すぎて特には意識しないとか、ないかな」
「そう言うな。アスヴェルの従騎士から正騎士になったら、シスの理想像を体現できるだろ」
システィアーナが四歳、エルネストが五歳、フレキシヴァルトは六歳。
ドゥウェルヴィア公爵に連れられて、毎日のように王宮に来ていたシスティアーナは、ユーフェミアの遊び相手に正式に決まるまでは白馬のぬいぐるみを抱いていた。
普通はウサギやクマではないのかとデュバルディオが訊ねると、大人になったら白馬に乗った騎士がお嫁さんにすると迎えに来るための願掛けなのだという。
「普通は、白馬の王子さまなんじゃないの?」
デュバルディオの質問にも首を横に振るシスティアーナ。
サラサラの金の髪と若葉色の瞳、優しい笑顔が素敵な、誠実で剣技が巧みな騎士の物語を、ユーフェミアと一緒に子守りに読んでもらって、どちらが先に騎士さまと結婚するか競争する事になったのだと言う。
その時、フレキシヴァルトは「なら、エルネストが騎士になれば、そのまんまだね」と言ったのを、今でも憶えている。
ヘーゼルかブルーの眼が一般的なコンスタンティノーヴェルにおいて、エルネストのペリドットの瞳は珍しい。
クセのないサラサラの金の髪も。
当時幼児だったシスティアーナは憶えていないようだし、エルネストも言われなければ思い出さないだろうが、確かに、最初は白馬の騎士が理想像だったのだ。
どんなに時間がなくても疲れていても、サラサラの金の髪と清潔感のある身嗜みを心掛けるエルネストは、システィアーナのために騎士になろうとしているのだと思った。
だから、最初は自分の発言に責任を持つために、応援しようと思っていたが、同じ歳のデュバルディオではなく自分の学友側近候補としてつくことになり、付き合う内に本心から応援したくなった。
譬え、どんな結果が待っていようとも──