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43.緊張緩和のよりどころ  


 ああ、どうしよう。逃げ出してしまった。もしかしたら変に思われたんじゃないかしら。



 みんながいるサロンの方を振り返り、戻ろうかと考えて、それもおかしいような気がして、結局今日はもう帰る事にした。


 合わせる顔がないのだ。アレクサンドルに。


 そんなに気にする必要はない程度の事なのだが、自分だけが気にしているのが居心地悪くて、よけいに気になるのだ。


 幼い頃は女性めいた印象もあったが今はちゃんと男性に見えるのだと、女性と間違える事もないのに、繊細な美貌をアレクサンドルがコンプレックスにしている事を知り、自信をつけて欲しくて、ご自分のお顔を嫌がる必要などないと元気づけるために、ユーフェミアにも母君エルナリア妃にも似ている美貌を自分は好きだと、いつまでも見ていられると、正直に伝えただけ。


 アレクサンドルは正しく受けとったはずだ。

 王子として弱い印象ではないかと訊き返し、そんな事はないと答えたら嬉しそうにしていたから。


 ただ、自分ひとりで、ふとなんだかまるで恋情の告白のような台詞だったと思ったら、変に意識し過ぎているだけなのだ。


 気づかなければなんて事はない、ただの好意と事実を伝えただけなのに。


 勿論、恋情ではない。似てはいるかもしれないが、幼少からの親戚づきあいと、仕えるべき王家の敬愛できる王太子として慕ってはいるが、それだけだ。


 自分でも理解しているし、アレクサンドルもそれ以上の意味があるとは受けとっていないのに、どうしてこうなったのか。



 トス


 籠を抱えて俯いて歩いていたからだろう、誰かにぶつかってしまった。


「シス? どうかした? 顔が赤いし、少し、ほら、額も熱い。まさか、風邪でもひいた?」


 ぶつかったのではなく、その前に受け止められたのだと気がついて顔を上げる。

 優しい笑顔を心配に変えて、剣を持つ大きな手のひらをそっと額に当て、病を疑うエルネスト。


「エル従兄(にい)さま」

「ちゃんと前を見て歩かなきゃダメだろう、どうしたんだ?」


 病気ではなさそうだと判断し、笑みを浮かべて優しく訊ねるエルネストに、肩の力が抜けてほっとする。

 比較的背の高いエルネストの胸に額を寄せ、しばらく子供の頃のように甘える。昔からいつもこうしていれば、すぐに落ち着いたからだ。


「何でもないの。ちょっと、慌てただけ」

「そうか。でも、前は見た方がいいぞ」

「うん」



 少しの間そうしていると、背後でサロンの扉が開く音がして、ファヴィアンを伴ったアレクサンドルが出て来る。


 アレクサンドル達の姿を見て、一瞬声が出そうになるが飲み込むエルネスト。身を寄せて気を緩めているシスティアーナは気づかない。


「エルネスト。王宮の廊下では控えなさい」


 ファヴィアンの冷たい声が廊下で響き、システィアーナの身が再び固くなった。




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