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38.光を失った太陽  


 アルトゥール・エスタクィア・コンスタンティノス=ドゥウェルヴィア公爵。


 臣下たる一王族でありながら、王宮で誰よりも威風堂々とした輝きを放つ傑物で、アレクサンドルにとって理想の(ヒーロー)像を体現している偉丈夫。



 その、ドゥウェルヴィア公爵が溺愛する掌中の珠、薄紅の姫君システィアーナ。


 エスタヴィオをして、妹の、母の違う双子と言わしめた、多くの人に愛される少女。世が世なら彼女が王女であったのに。


 初めて会った頃は、ドゥウェルヴィア公爵の大事な孫姫だから、ユーフェミアと仲がいいから、数いる妹の一人のような気持ちで接してきた。   


 だが、彼女の屈託のない笑みと、遠慮のない甘えは、心地良かった。

 将来は国を背負って立つ存在だからと周りから見えない壁を建てられ、口は笑っているのに目はまだ子供であると頭の上から下目で見たり、持ち上げるような言葉と軽んじる視線の真逆の有り様に、人に酔う事も少なくなかった中、システィアーナの真っ直ぐな目と舌足らずの甘く軽やかな(さえず)りは、周りの悪意を祓ってくれる光のようにさえ感じた。


 だから、可能な限り手元に置いて、彼女を構うことで、自分を癒して来た。

 実の妹(ユーフェミア)よりも本当の妹のように大切にしていたあの頃。



 だが、それも11歳のあの日に終わってしまった。



 祖父ウィリアハムの詔勅(しょうちょく)によって、自分が手元に置くことを許されなくなってしまった。




『エルネスタヴィオ公爵セルディオ・コンスタンティノスは、第二子オルギュストをハルヴァルヴィア侯爵家へ婿養子に出し、王族の務めを果たせ』


 祖父ウィリアハム曰わく、ハルヴァルヴィア侯爵家の領地や財力、権威を狙った他の貴族家からシスティアーナを護るために、釣り合った家系の中で、覇権争いから遠い地位にいてかつ家名を保てる程度は勤勉で財力もある王系傍流家の、権力や財産に欲を出さなそうな次男以下を選んでシスティアーナに差し出すように命じたという。


 侯爵家ではあるが公爵家(王系傍流)よりも永く続く名門血族で、王家の盾と呼ばれるハルヴァルヴィア侯爵家。


 確かに、オルギュストは政治家として立身したいとか金持ちになって遊び暮らしたいなどという俗な野望は持たない、ただの愚かな体育会系の騎士志望者だ。

 だが、俗な欲望を持たぬ王系傍流の騎士志望次男以下なら、エルネストでもよかったのではないのか。

 人が善いだけの叔父達の息子でも、十歳に満たないうちからなら幾らでも軌道修正出来ただろうに、なぜシスティアーナを見ようともしないアレをあてがったのか。

 僅か十歳のわんぱく盛りの少年が、7つになったばかりの少女と引き合わされて、将来はこの子の婿になり、家を守り彼女を守っていくのだと言われて、いきなり恋愛感情が芽生えるものでもないのも解らないでもない。

 だが、アレクサンドルやフレキシヴァルトのように、妹の一人のような気持ちで大事にすることくらいは出来ただろうに。


 それでも、システィアーナを大事にしないオルギュストでも、ハルヴァルヴィア侯爵家を繋ぐ為の配偶者((種馬))


 もうアレクサンドルには、実の妹よりもそばに置いて本当の妹であるかのように(いつく)しんだ、可愛く甘えてきて癒やしてくれる光の中の天使のようなシスティアーナを部屋に招き入れ、二人きりで本を読んだり菓子を食べたり、午睡を共寝したりすることは許されなくなってしまった。


 光を失った太陽の王子は、自らも光を放てなくなった。



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