8.勉強会のあとに
アレクサンドルの実地経験が活かされた、世界情勢と地理の勉強は、システィアーナにとっても楽しいものであった。
何より、アレクサンドルが巧みに話すので、自分も現地に行ったような気になるのだ。
時折ジョークも交えて、ちょっとした小話でも楽しませてくれる。
授業が終わるまで、昨夜の夜会での出来事や、オルギュストに蔑ろにされて来たつらさなどは、一度も思い出さなかった。
「シス。帰るのなら、送るよ」
「ありがとうございます。でも、この後、まだ御用があるのよ。お気持ちだけ、頂いておくわ。またね」
送るという申し出を断り、エルネストがユーヴェルフィオと共に帰るのを見送ったあと、アレクサンドルと連れ立って王宮の上層階に進む。
ユーフェミアとアルメルティアは、茶会の用意をしておくからと、用が済んだら戻ってくる事を約束させて、庭園へとふたりで楽しげに話しながら向かった。
王家と一部の王族が過ごすプライベート区画で、婚約破棄を宣言されたとはいえ、まだ正式には解消しておらず、まだオルギュストの婚約者であるにもかかわらず、アレクサンドルのエスコートで歩むのは、気恥ずかしいのと後ろめたさで複雑だった。
「あ、の、殿下? 手を取っていただくのは光栄なのですけども、わたくしはまだ、オルギュスト様の婚約者で、その、他のだ⋯ん⋯⋯」
「他の男の手を取る事に後ろめたさがあるのかい?」
「はい」
「まあまあ。先々代の王である私のひいお祖父様の、時の王弟が君のお爺様なのだから、全くの他人ではないだろう。そう固くならないで。
僕からしたら、君のお爺様は曽祖叔父だよ」
いや、それは殆ど他人なのでは? 口には出せず、緊張しながら進むしかないシスティアーナ。
アレクサンドルから見た祖父は、遠い関係のようにも思えるが、自分から見れば、アレクサンドルは母方の又従兄の息子である。
同じく母方の親戚の、祖父の奥方筋の又従兄であるユーヴェルフィオやエルネストが子を持てば、その子供との関係性はアレクサンドルと同じで、会えばやはり可愛がるだろうと思う。
が、アレクサンドルは成人した男性であり、王太子である。立場が違った。
アレクサンドルは、呼び出しを受けた目的の部屋まで、始終ご機嫌であった。