28.代わりのいる役目
システィアーナは、ずっと、長くユーフェミア第一王女の公務に、ドゥウェルヴィア公爵の名代として付き添い、通訳をしたり(ユーフェミアが語学に明るくない訳ではなく、王族は間に人を挟み、直接は対話しないものだから)接待交渉に同席したりして来た。
だがそれらは、春の園遊会でエスタヴィオがマリアンナに自慢したように、王命や宰相・父ロイエルドが振ったり指示した訳ではない。
共に遊び共に学んだユーフェミアのために、システィアーナが自ら、誰に言われるでもなく始めた事だ。
最初の内は、ユーフェミアの側に居たがる子供の依存心や友情のような物と思われていた。
が、子供ゆえの染みこむように自然に身につけた祖父譲りの語学と、祖父の外交の場に同席していてなんとなく聞きかじって覚えた外交手腕を、ここぞという時に、驚くほど的確に使い分けてきた。
これには、ロイエルドもエスタヴィオも驚いた。
習わぬ門前の小僧ならぬ令嬢である。
問題が生じそうになればロイエルドが間に入って取り成すよう待機しながら見てきたが、今の所、ロイエルドが補助に入ったり修正したりするような事態にはなっていなかった。
むしろ、子供の愛らしさや、大人顔負けの知識を使っての交渉術など、控えていた外交官達よりもうまく事が運ぶことも少なくなかった。
結果、システィアーナのしたいようにさせているのが、自然とユーフェミアのサポートのようになっているのである。
ゆえに、長期休暇を取りたいので、しばらくお手伝いできませんと言ったところで、誰も責められない。
むしろ、自分達大人の仕事をシスティアーナに振り分けて楽していたという後ろ暗さもあって、彼女に強く出られないというのもある。
まして、王家と親しく自らも王族の末端でもある、王族(王家と公爵家)を除く貴族の最高位の筆頭侯爵家でもある宰相の娘に、誰が文句を言えようか。
システィアーナの自発的な、よく言えば進んでしている政務協力、悪く言えば無許可の勝手に参加している語り公務なのである。
(本来なら、この初夏にオルギュスト様を婿に迎え入れ、王宮のサポート業務を辞して、領地に帰っている予定だったのだから、王宮の業務はお休みして、アナの予定に付き合うのもいいかもしれない)
──わたくしの代わりは幾らでもいるのだから
誰も口に出してシスティアーナを大袈裟に労ったり態々褒めたりしないので自信には繋がらず勘違いして自己評価を低くしているが、実際は、多くの外務官達よりも優秀なのに、まだまだ足りないと思っているのである。
(シーファークでも、ゆったり景色を眺めるような時間を持ちたいと思ったばかりだし、いい機会なのかもしれない)
システィアーナは、夏の社交シーズンオフの間、アナファリテに付き合う方向で気持ちが傾いていた。