表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/260

22.何ものにも代え難い素晴らしいもの 



「兄上?」


 フレックは、自分の手元を見る姿勢で顔を伏せたまま、目だけで向かいに座る長兄を見やる。


「何かな?」


 話し掛けられたのにフレックを見ずに、窓の外を眺め、鼻唄でも始めそうな機嫌の良さを見せるアレクサンドル。

 フレックは、迷ったが訊ねてみる事にした。


「何か、いいことでもあったの?」

「なぜそう思う?」

「このところ、調子が悪そうだったのに、急に調子が良くなって、それ自体は喜ばしいことだけど、変化というか、いつになく楽しそうにしてるよね」


 ああ。そうかも。


 アレクサンドルは納得する。


「いいことがあった、のかな? 確かに、たった一度で調子は良くなったね。感謝しなくてはね」


 システィアーナに。


 とは続けられなかったが、フレックにはそう続けられたように感じた。

 フレックには確かめる事は出来ないが、その通りである。


「本当に、些細なことでも、驚くような効果があることは有るんだね」


「わかるような気はします。兄上が何に対してそう言っているのかは量りかねますが、自分にも覚えはある⋯⋯から」


 それまでのいつもの同腹の兄弟ならではの気安い口調を変えて、アレクサンドルに答えるでなく、自分に言い聞かせるように呟いた。


 誰に対しても公平な態度で接し、いい加減さや不誠実を嫌い、真面目で勤勉、公正な『王太子』の陰で、人当たりの良い、快活で優しい第二王子を演じ、魑魅魍魎が跳梁跋扈する政界に於いて、己の利権を濫用し王家を欺こうとする不忠者の貴族どもや、この国の豊かさを食い物にしようと虎視眈々とチャンスを狙う諸外国の使者を見極め、時には裏から手を回して、国と父王と兄王太子を守って来たのだ。


 その役目は重く、肉体だけではなく精神的にも負担は大きい。


 その苦しみを軽減し、分け合って支えてくれる新妻アナファリテ。

 交際当時から、彼女が心身共に癒やしてくれ、時に叱り飛ばし、時に甘やかし、共に闘ってくれるからこそ、これまでやってこられたのだ。



「兄上。早く、心の支えを、心から信頼し総てを預けられる伴侶を得てください。その恩恵は、何ものにも代え難い素晴らしいものですよ」


「⋯⋯ああ、そうだな。お前達を見ていると、本当にそう思うよ」


 柔らかい微笑みを返すアレクサンドルに、フレックも笑顔で応えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ