15.さあ、おやすみください
上目遣いにシスティアーナを覗いながら、彼女の淹れたカモミールベースのハーブティーを啜る。
「お茶、美味しいよ。ありがとう」
飲みきるまで見守るシスティアーナ。
「さ、飲まれましたら、少し横になってください」
「いや、ここはベッドは置いてないんだ」
「そこの長ソファにで結構ですわ。眠れなくても、少し体を横にするだけでも違いますし、目の下のクマも薄れますから」
気づいてなかったのか、言われて目の下を押さえるアレクサンドル。
さぁと促され、渋々三人掛けソファに座り直す。
「座るだけでなく、少し横になってください」
足元に座り込み、アレクサンドルの手に自分の白く小さな手を重ねて、覗き込むように見上げるシスティアーナに負けて、体を傾ける。
何かを期待した子供のような、見守る姉のような、きらきらと見つめる目の力に負けて、完全に横になるが、安眠効果のハーブティーを飲んだからと言ってすぐに眠くなるものでもなく、見つめられているので落ち着かずもぞもぞと身動ぎする。
「あ、失念していました。枕がないと、肩や首が疲れますわね」
にこにこと、アレクサンドルの横になっているソファの端に座るシスティアーナ。
「ご安心くださいませ。わたくし、ミアに聞いて存じておりますわ。殿方は、膝枕なる枕が一番安らげるとのこと、初めてなのでわたくしでは不調法にて充分に安らげないかもしれませんが、どうぞ、遠慮なくお使いになってくださいませ」
ファヴィアンは真顔のまま微動だにしないが、アレクサンドルは激しく動揺した。
い、いや、家族でも配偶者でもない女性の膝を借りるとか、罰ゲームなのか?
内心焦るアレクサンドルを見下ろして、頰にかかる横髪をさらりと除けるシスティアーナの指先の微かな感触に、寝不足も手伝って頭の芯が痺れたように、もそりと上体を伸ばし、アレクサンドルは柔らかなシスティアーナの膝に頭を乗せた。