6.王太子の臣下として
「と、まあ、冗談は置いといて、要件は、昨夜の馬鹿騒ぎかな?」
「知ってたのか」
「僕は参加してなかったけどね、フレックが、新妻に友人が集まるので参加したいと強請られてね」
それまでの巫山戯た笑みとは違った、面白がるような色も見せつつ真面目モードな王太子の表情を見せるアレクサンドル。
「相手は、シャンパンゴールドの髪がキラキラした、お人形のように可愛らしい美少女なんだって?」
「美少女と言うなら、シスの方が何倍も綺麗だと思うがね」
自分の心の声を代弁するかのような兄の言葉に、動揺を隠せないエルネスト。
「ふむ。確かに。システィアーナ嬢よりも、内面から輝くような美しい女性はそうそういないだろうがね。子爵令嬢なんだって?」
「らしいね」
「あの馬鹿は、彼女が平民だってわかってるのかな」
どうやら、アレクサンドルは、フレキシヴァルトから話を聞いて、ある程度は調べたようだった。昨夜の今朝で仕事が早い事だ。
「知らない、或いは理解してないんじゃないかな?」
「もしかしたら、自分も公爵家ではあるものの次男で爵位は継げないから、ちょうどいいと弁えている、とか?」
「あり得ないね。おそらく、父親が官僚爵位だと気づいてないよ」
ユーヴェルフィオのオルギュストを貶める言葉にも、エルネストの庇うようにも聞こえる貴族の一員として希望的な見解にも、アレクサンドルは一刀両断、一笑に付した。
公爵家の子息である以上、オルギュストも遠戚ながら王族である。オルギュストの兄ファヴィアンの代を最後に、その子以降は侯爵位に降爵してしまうが。
その公爵家の嫡出子でありながら、自国の貴族の家名や家族構成を把握していないなどということが、有り得るのか、それでいいのか。
王族として公爵位を保てるのは、最長三世代目までである。中には、高位貴族としての能力無しと見做され侯爵以下に降爵、或いは貴族としての資格なしと褫爵されてしまう場合もある。
「僕が国王で、あの馬鹿が公爵なら、間違いなく奪爵ものだね」
「王命をなんだと思っているのだか」
「無理やり上から女を押し付けられた、くらいに思っているのかな? 国王は女衒ではないのだがね」
不敬な言葉も含みながらどんどん言い募る二人に、エルネストは口を挟めない。
「で、アレク。友として⋯⋯いや、アレクサンドル王太子殿下。臣下としてのお願いに上がりました」
「うん、大体の想像はつくよ」
アレクサンドルの前に跪くユーヴェルフィオ。
それまでボーッとやりとりを見ていたエルネストは慌てた。
「愚か者が廃嫡された後、システィアーナの婚約者として、我が弟エルネストを推して、陛下に掛け合ってはもらえないだろうか?」