31.平身低頭
アレクサンドルやユーフェミアの父親ではあるが二人のように一幅の耽美絵画のような美貌ではないものの、代々受け継がれてきた緑味を強めに帯びた碧にも紫紺にも橙にも変わる宝石のようなヘーゼルの瞳と輝く太陽のような金髪の美丈夫エスタヴィオ。
二人との血のつながりも感じられる整った尊顔、知性の覗える眼を改めてマリアンナに向ける。
「さて、改めて訊こうか。我が従堂妹姫システィアーナが、リングバルド王太子息女マリアンナ王女に数々の失礼をしたのだったかな?」
グッと喉の奥を詰まらせ、拳を握り込んで震えるマリアンナ。
システィアーナを貶める仕掛けを手伝うよりなかった侍女の呼吸は浅く、卒倒したくても出来ない恐慌状態手前であった。
一伯爵令嬢にとって、他国の王ではあっても、否、他国の王だからこそより一層、勘気を蒙る事は、斬首されるにも等しい恐怖を感じることだろう。また、逃げ帰りたくても国にも帰りづらくなったに違いない。
マリアンナは、何かを言おうとしては飲み込み、浅く呼吸を繰り返してまた、発言をしようとして吐き出せず苦しげに呼吸するのを幾度か反復した。
「マリアンナ王女?」
エスタヴィオの柔らかいはずの声を低く冷たく放たれた促しの言葉に、ぎゅっと目を閉じて、屈辱感を露わに応えた。
「⋯⋯私の勘違いにございました。エスタヴィオ国王の温情に縋り、非礼を詫びさせていただきたく存じます」
深々と頭を下げる。
「わたしに、ではなく、システィアーナ本人と、そこにいる宰相ハルヴァルヴィア侯爵に、ではないかな? 名誉毀損で国に厳重抗議を受けたくはあるまい?」
ひっ
いつの間にか、エスタヴィオの後ろに控え目に立っていたロイエルド。
先々代王弟の孫娘で国王の又従妹というだけでなく、宰相の娘だった!?
如何に、特使としての役目を疎かにしていたかが身に染みる瞬間である。
血の涙を流す心地で、システィアーナとロイエルドに頭を下げるマリアンナ。
「勘違いであったとは言え、人前で王族が頭を下げずとも、謝罪の方法はあったろうに。国の代表として他国を訪問するに当たっての儀礼や社交手段をもう少し勉強した方がよかろう」
ロイエルドのひと言に、赤面するしかなかった。




