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20.紹介   



「ずいぶんと親しくされてましたのね?」


 王子達の去った後を少し見送って、スコーンにでも手を伸ばそうとした時だった。


 背後から、苛立ちを感じる声がする。勿論、マリアンナである。少し距離を空けているとは言え、隣のテーブルなのだ。

 途中からか全部かは判らないが見ていたのだろう、口許を扇で隠して眉を顰め、やや反り加減に見下ろしていた。


「ええ。幼少からのお付き合いですから、他の方々よりかはそれなりに」


 祖父が出仕する日数の大半は、システィアーナも連れられて来ていた。

 最初は、うさぎのぬいぐるみを抱いていたが、王城で遭う子供達の誰もが、人形やおもちゃを手にしていなかった。

 それに気づいてからは、祖父に贈られた装飾の刻印が綺麗な児童書を手にして来た。『太陽のきらきら王子さまと月のつやつやお姫さま』である。

 中の挿絵を見なければ普通の本なので、王子さまとお姫さまは ~ めでたしめでたしで締め括られる幼児向けお伽噺(とぎばなし)のような物語だとは気づかれなかった。


 どこへ行くにも持ち歩き、たまに暇を持て余すと、王城で預けられる子供達のための子守(ナニー)家庭教師(ガヴァネス)に読み聞かせをねだったりもした。

 そこにユーフェミアが加わり、やがて集められた貴族女児の中から更にアナファリテなど数名が共に学ぶようになると、お気に入りの王子さまの本は、自室の本棚に収めておかれるようになった。


 学友に選ばれた令嬢の殆どが、王家の名に恥じぬ厳しめの淑女教育や手習い、教養の授業について行けなくなり、婚約者も得て王城を離れ、今では、最後まで残った友人数人も、たまのお茶会でしか会えなくなってしまったが。

 当時も今も、一般職の文官や出仕貴族の誰と比べても、システィアーナが王城で王子王女らと過ごす時間は長いだろう。


 だが、それがなんだというのだろうか。

 マリアンナの世話役の一人として選出され、王女達の公務にも付き従っていたのは、今までも見てきただろうに、敢えて聞き直すことだろうか?


「そちらの方々は、初めて見る顔ね? 紹介していただいても?」

「ええ勿論ですわ。こちらはサラディナヴィオ公爵家のユーヴェルフィオ様。シーファークでも紹介しました、こちらフレキシヴァルト殿下の護衛官エルネスト様の兄君ですわ」

「目元にご兄弟らしい類似点が見られますわね。リングバルド王国王太子が息女マリアンナですわ」

「サラディナヴィオ公爵家嫡男ユーヴェルフィオ・J・(ジャスティン)ニールセントルフィオです。お見知り置きを」


 あまり、お見知り置きにならない方がいいよ? エルネストが視線だけで兄に語りかけるが、通じているのかいないのか、ユーヴェは柔和な笑顔でマリアンナに会釈した。


 次いでファヴィアンを紹介する。


「エルネスタヴィオ公爵家のファヴィアン・メイスーフ・コンスタンティノス。アレクサンドル王太子殿下の執務室主任をされていらっしゃいます」


 今は、オルギュストの醜聞に出仕回数を最低限に抑えているため、王宮で見たことはなかったのだろう。


「コンスタンティノス! 王族ですの?」

「⋯⋯祖父が王弟の一人なので。今となっては名ばかりですよ」


 白っぽくても手入れがよく白髪には見えない金髪をまっすぐに肩甲骨まで伸ばして垂らし、同色の糸で刺した刺繍が見事な乳白色のジュストコールに白いクラヴァットと、全体的に淡い色合いのファヴィアンは、オルギュストよりも凛とした、整った王家傍流らしい顔立ちで、怜悧さを湛えた榛色(ヘーゼル)の双眸は、チラともマリアンナを映さない。


 が、そんな事はどうでもいいのか、マリアンナは、デュバルディオやトーマストルよりよほど『王子』然とした高貴な佇まいに見惚れていた。




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