17.園遊会──王子の挨拶
甲高い声は、マリアンナだった。
青いAラインドレスの少女に何か怒鳴っていた。
テーブル付きの女官が取りなし、少女は頭を下げながら去って行く。
「何かしら」
「まあ、朝から機嫌よくなかったからね、なにかしら癇癪起こしたんだろうね。ほら、ユンフェ従兄さんに窘められてる。ユンフェ従兄さんがいるから、よほどのことでない限り大丈夫でしょ」
「ディオ⋯⋯殿下、王太子殿下」
挨拶廻りで来たのだろう、空色のジュストコールとモスグリーンのベストのデュバルディオが近くに立っていて、アレクサンドルも数歩下がった位置にいた。
「シス、今日はまた一段と綺麗だね。エスコート出来る果報者に妬けちゃうな」
「もう、ディオまでそんな冗談言うの? 髪はいつもとそう変わらないし、ドレスはエル従兄さまの衣装に合わせたのよ」
「確かに、お揃いで、一対の人形みたいだね」
「それ、フレックにも陛下にも言われたわ」
ディオが、まずチラとエルネストを見て、背後のアレクサンドルを覗う様子も見せた後、システィアーナの左の人差し指と中指と薬指を掬うようにとり、そっと口をつける。
貴族子息や騎士が、家格の高い令嬢や王女に忠誠を誓ったり挨拶の一つではあるが、システィアーナは、今、ここで? と思った。
「こないだの話、考えてくれた?」
「城下町へ遊びに行く話?」
「それもだけど。婿入りするってヤツ」
「⋯⋯ほ、本気だったの?」
この場にいる誰もがそう思うだろう。今までデュバルディオがそういった素振りを見せたことはない。
「悪い話じゃないだろ? お互い諸外国に縁のある公務を行って来た盟友でもあるし、ドゥウェルヴィア公爵の跡継ぎになれそうなのは、今の所シスしかいないんでしょ? 僕ならお手伝い出来ると思うけどなあ」
エルネストが過呼吸を起こしそうなほど動揺した。
ユーヴェルフィオがそっと背を擦り、肩を摑んで落ち着かせようとする。
「ディオ? 本気なのかい?」
「兄上も名乗りを上げるかい? なんなら、エルネストやファヴィアンもどう?」
「莫迦を言うな。俺は長男だ。それにオルギュストが廃嫡同然だから、後がない。婿入りは出来ん。まあ、あと一つ父上が何かやらかしたら、降爵するか褫爵されそうな、家名を守る価値が低くなった家だが」
オルギュストの教育を失敗した責任と、当主セルディオの不勉強さが、エスタヴィオの不興を買っている今、公爵家の面目を保つのにギリギリの状態なのだ。
ファヴィアンがアレクサンドルの片腕として優秀と認められているから保っているに過ぎない。
もし、ファヴィアンが後を継がなかったり、今後も妻帯しなければ、家名コンスタンティノスは名乗れなくなり、エルネスタヴィオ領公爵の爵位も返上する事になるだろう。
当然、そうなれば領地替え──どころか、王家直轄地として接収か新領主に明け渡す事になり、今までと同じ生活は送れなくなる。
「あ、そ。なら、兄上やユーヴェも同様の理由で辞退だね?
シス。取り敢えず、今度の水晶の日は、ミアやメルティに付き合う予定もなく休みだろ? きっと、陽光の日より混雑してないよ。僕も空けるから、城下町デート行こうか」




