1.園遊会のパートナー
この国では、晩夏から秋の収穫祭の後、狩り解禁の辺りから社交シーズンに入る。
領地での決算も納税も済ませ、領地のカントリーハウスから出て来て王都のタウンハウスに暮らし、当主は貴族院議員として朝の国会に出る。
奥方は娘を連れて散歩や茶会などに出向き、人脈の輪を広げ、夜は観劇の幕間のラウンジや、舞踏会や夜宴会などに参加したり自身も開催したり、情報交換をする。
年末のシルヴェスターや冬の退屈を紛らわすためか芸術祭や早春の冬の大祓いに合わせた祭りや行事が多く、王宮でも園遊会や年頃の未婚の貴族子女を集めた舞踏会なども定期的に行われ、次期当主や娘達の婚姻の相手を探すのも、主にこの時期である。
王宮の中庭にある広い芝生の庭園に天幕を張り、アフタヌーンティースタンドと数種のお茶を用意した、午後のお茶の時間に行われる園遊会。
基本的に貴族と、国に貢献した有識人や功労者も慰労も兼ねて呼ばれることもある。
夜会ほどの細かな礼儀作法やしきたり、ドレスコードはないが、それ故に尚一層、人品が見られる。
システィアーナも、婚約者が居なくなったことで、招待客の一人になってしまった。
シルヴェスターやシーファークでの祝賀会では、なし崩し的にアレクサンドルのパートナーをさせられたが、これ以上相手を務め続けると、あらぬ噂が立ってしまう。
それだけは避けなければ。
自分は侯爵家の跡取り娘で、場合によっては公爵家の当主代行も兼任するかもしれないのだ。
王家に輿入れする訳にはいかない。
そもそも、アレクサンドルからもエスタヴィオからも、父ロイエルドからもそういった話は聞かされていない。
誤解からの噂だけが真しやかに先走る感じになりつつあるのを感じていた。
マリアンナが自分に理不尽に当たるのも、アレクサンドルとの間柄を誤解しているからだろう。
夜会ではないので、見合いのセッティングもないしダンスもない。
堅苦しいものではないだけに、王家の面々と近しく立っていたら、挨拶に回ってくる宴客達にとって自分の存在は異質で目立つだろう。
(お父さまは宰相としてお母さまと出席なさるだろうから、今回は、ユーヴェ従兄さまかエル従兄さまに頼もうかしら?)
どちらも仲の良い又従兄で、互いに決まった相手はいない。
庭園に招待客として入場する時だけのパートナーでもいいのだ、彼らのお相手を探す邪魔をする気はない。
ラベンダーのエッセンスを染みこませた、花の香りのレターセットを使い、丁寧な字で、パートナーを頼む手紙を認め、執事に届けさせるよう預けた。




