43.王太子と王太子子息
隣あわせの国の第二王子同士が笑みを浮かべ合っていると、マリアンナのために設えた茶席──庭園に面したサンルームに、アレクサンドルが入ってきた。
マリアンナがユーンフェイルを見て「お兄さま!?」と立ち上がった時点で、侍女や従僕を使わず自らユーフェミアが呼びに行ったのである。
「おお! なるほど納得だなぁ。いかにもマリアンナが好みそうな、一幅の絵画から抜け出て来たような美男子だ。
⋯⋯失礼ですが、貴殿がアレクサンドル王太子殿下で間違いないでしょうか?」
アレクサンドルが頷くと、ユーンフェイルは片膝をつき、利き腕を床に拳でついて上体を支え、空いた手で膝を抑えて頭を下げる。
騎士が身分ある人物に挨拶をする時の、武器は手にしない、害意はないと武装解除を示す姿勢だ。
「面を上げられよ、ユーンフェイル殿下。友好国の王子同士、ましてや非公式訪問ならば身分に上下はつけなくとも良かろう」
「いいえ。非公式訪問だからこそ、非礼を詫びる意味でも、妹のかけた迷惑への謝罪の意味でも、礼は尽くさねばなりません。
まして、私は王太子の次男でただの一王族。アレクサンドル殿下は王太子で、未来のコンスタンティノーヴェル王にあらせられます」
そう言って譲らず、一通り挨拶の口上を述べる。
そこで改めてアレクサンドルに促されて立ち上がる。
「お兄さま、殿下もああ言ってくださってるのに、何も臣下の礼を取らなくても⋯⋯」
「マリアンナ、解らないのかい? ⋯⋯これは、帰ったら、どこかに嫁ぐまで勉強漬けだね。
いいかい? 殿下は、王太子なんだよ?」
「知ってますわ。王子同士仲良く出来ませんの?」
小首を傾げて、兄に問うマリアンナ。
「解ってないね。王太子なんだ、国同士の話し合いになった時、彼は同じ王太子である父上と同格なんだよ? 例え、僕より年下でもね」
やれやれ、と、ユーンフェイルは肩をすくめてため息をついた。




