42.闖入者は王子さま
波打つ黄金色の髪は肩にかかる程度に梳いて揃えられ、柔らかな前髪は秀でた額を半分隠してサイドに流されているのが清潔感が感じられ、その整った相貌を損ねることはない。
ロイヤルブルーの瞳が、システィアーナの薄紅の髪をとらえる。
「女王ブランカ陛下のお血筋の姫君とお見受け致します。コンスタンティノーヴェルにとっても友好国であるリングバルド王太子が第二子ユーンフェイル・スカイアと申します。以後、お見知りおきを」
跪いてシスティアーナの手を取り、白く柔らかな甲にそっと口づける。
「お兄さま!! その娘はただの侯爵令嬢ですわ! 従妹のアルメルティアは隣の花刺繍のドレスよ」
マリアンナが苛立ちに上気して怒鳴り立てる。
「おや、そうなのかい? 一度も直接会ったことがないとはいえ、さすがにアルメルティア殿下を間違えはしないさ。クリスティーナ叔母上の面影があるしね。
赤毛とも微妙に違う、美しい薔薇色の髪をしていたというブランカ陛下を思わせる薄紅の髪と稀少なパパラチアサファイアの瞳が、王家の血筋だと思ったのだけどなぁ」
「祖母が、ブランカ陛下の王妹殿下の興した女公爵家の者です。髪はそのせいでしょう」
ほら、やっぱり。五代も前の王家の傍流なんじゃない。それも祖母が。
マリアンナは内心、ホッとした。周りが彼女を丁寧に扱うので、臣籍降下した王家の娘である可能性も危惧していたのだ。
ユーンフェイルは、アルメルティアにも同様に丁寧に挨拶をする。
「直接会うのは初めまして、だね? 叔母上の自慢のゴールドブロンドと我がリングバルドのロイヤルブルーの瞳が美しく、薔薇色の頰と唇がとても愛らしい。今に求婚者が列を成すね」
「ありがとうございます。そんなこと言われたの初めてです」
はにかみ、俯きたくなるのを堪え、礼を述べるメルティ。
「ちょっと。突然やって来て、流れるようにうちの妹を口説かないでくれる?」
「やあ、ディオ。ひと月ぶり。君が帰国して、我が国の美姫達は皆気落ちしているよ」
「人を色事師みたいに言わないでよね。僕が外ではユンフェみたいに美女を見たら誉め称えたりしてると、妹達が誤解したらどうするのさ」
「「あら、違いますの?」」「違うのかい?」
メルティの疑問の声に、それまで静観していたフレック夫妻の声が重なる。
「フレック兄さんまで疑うの?」
「これはこれは。順番が前後して申し訳ない。非公式訪問と言うことで、初回のみお見逃しください。
初にお目にかかります、リングバルド王太子が第二子ユーンフェイル・スカイアにございます。
フレキシヴァルト殿下夫妻にはご機嫌麗しく⋯⋯」
上質だが装飾もないシンプルな衣装で礼をとるユーンフェイル。
王族らしい華美な服装でないからこそ、その熟れた正しいスマートな姿勢がよく解る。
「それで、用向きは、妹君を迎えに来ただけかな?」
柔和に微笑むフレックと懐っこい笑みを浮かべ姿勢を正すユーンフェイル。
友好的かつ妃を迎え入れた外戚でもある隣国の王子同士ながら、これが初顔合わせであった。




