37.王子王女達の、言葉の裏側
面と向かってアレクサンドルに色目を使うなと言った訳ではないが、自国で縁を結べと言われては、遠回しに存在を拒否られたも同然のように聴こえ、口と頬を引き攣らせる使節団特使。
柔やかではあっても実の従弟に拒否られたとあっては、マリアンナも立つ瀬がないが、特使は、自国で縁があるといいねというディオの言葉を、表面通りに受け取ることにしたようだ。
正直に言い過ぎだと呆れるユーフェミアと、兄のやり取りを見てポカーンと口を開けて何も言えないアルメルティア。
「メルティ。コツはね、表向き良い言葉を並べて耳障りはよく、裏に本音をチラ見せ程度に隠しておくことだよ」
(残念ですが、隠せてません、デュー兄さま)
にこにこと首を縦に振るが、心では呆れていた。
もっとも、ディオも、今は本音を堂々と表立って言わないために遠回しに言っただけで、隠す気はなかったのだが。
クリスティーナ妃の生んだ兄妹と正妃の生んだユーフェミアが特使と今後のスケジュールを調整している間、システィアーナは、フレキシヴァルト夫妻とその私設秘書兼任護衛官のエルネストと共に、件のマリアンナ王女の相手をしていた。
アレクサンドルの公務の最中にマリアンナが割り込まないためである。
アスヴェルを筆頭に見目のよい近衛騎士数人とエルネスト、休暇中だというのに登城しているカルルデュワを侍らせておけば、そこそこ大人しくしているので、そういう布陣になったのである。
近衛騎士の中でも王族の護衛官を務める者は、身体能力は勿論、社会情勢や学識・礼儀作法などの教養も持ち合わせた上位貴族出身が多く、上位貴族には血筋を守るためか親族婚姻のせいか、似たような整った風貌の者が多い。
マリアンナは複雑ではあったが。
見目のよい近衛騎士を並べ立てて見られている(気がしているだけかもしれない)のは気分がよいが、特使と揉めてまで滞在を引き延ばしたのにも拘わらず、アレクサンドルに会えないのだ。
しかもそのアレクサンドルは、国内の王族傍流の公爵家の子女を集めての茶会と称した、将来性の査定会に参加中なのである。
令嬢に群がられるアレクサンドルを想像して、気が気でない。
王城表宮の宮廷貴賓ホールでは、公爵家当主とエスタヴィオが茶と軽食をつまみながら閑談し、その子供達とアレクサンドルも、昼間なのでダンスはしないが、立食形式のオードブルなどをつまみつつ、将来の事業計画や国益になると思われる政策などについて話し合っていた。
茶会の体を取ったので皆気軽に話しているが、実の所、国王エスタヴィオと宰相ロイエルド、王太子アレクサンドルは、柔らかい表情で相槌を打っているものの、内心では膨大な情報と摺り合わせた査定が行われているのである。
令嬢はついでだが、従兄弟や又従兄弟など、エスタヴィオの弟妹の子や先代国王である祖父の弟妹の孫などの、教養や社交能力を見て、将来要職に取り立てるか静観するか、侯爵以下に降爵させるかを、本人には報せずに査定しているのである。




