13.歩み寄る努力
深夜に帰宅した侯爵夫妻は、やや疲れた顔をしていた。
「お帰りなさいませ、お父さま、お母さま」
「ああ。少々疲れたよ」
「申し訳ありません」
「いや、お前のせいではないよ」
そうは言っても、自分が婚約者を繋ぎ留めておけなかったのが原因だ。
もっとも、婚約者として引き合わされた時から、愛想もない相手ではあるが、それなりに歩み寄ろうとはしたのだ。
オルギュストが夜会で話す令嬢はたいてい可愛らしいタイプが多かったので、自分も可愛らしい格好をしてみた。
薄桃やクリーム色の、広がるドレスを着てみたり、髪はきっちり結い上げずに幼い雰囲気を出してみたり。
だが、元々薄桃色がかった淡い金髪であるため、パパラチアサファイア(朱がかった濃いピンク)の瞳も相まって、全体的にボヤけた印象になってしまった。
宝飾品も、宝石の特色を活かした輝きを魅せるデザイン的なものではなく、花や果物、小動物を模したりイメージしたものに替えてみたり。
それでも気をひく事はできず、それらの愛らしい小物は今は、ソニアリーナのドレッサーにしまわれている。
可愛らしく映る仕草を研究してみたり、莫迦に見えない程度に可愛らしい話し方を真似てみても不発。
形から入るのがいけなかったのかと、オルギュストが好みそうな菓子を作って、定期的に決められた顔合わせの茶会に持っていって手渡してみたり。食べてもらえるどころか、捨てられたのだが。
13歳になる頃には、好かれる事は諦めた。
結局、何をしても、システィアーナである事が、オルギュストには気に食わないのだ。
この婚姻契約が王命であるにもかかわらず、夜会や各種行事でのエスコートすらしたくない程に。
顔合わせの茶会にも来なくなり、顔も見たくないのだと、寄り添う事は無理なのだと、諦めたのだ。
そんな彼女を知っている学友達は、時にシスティアーナを力づけ、時に悪意ある陰口から護り、婚約者としての義務も果たさずそんな目に合わせるオルギュストを、心底嫌っていた。




