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21.襲撃者たち   


 彼らは、元は勤勉な漁夫(いさりお)であった。


 美しくも厳しい海に恵みを得て、家族を養う父であり夫であった。


 十年ほど前に、王都から王族が来て、南海の島国連邦を纏め上げ、交易を始めた。


 そのせいで彼らの食い扶持が激減したのだ。


 何人かは、小舟での売り渡りを止め、港の卸売業者に売るようになったが、彼らは納得できなかった。



「だからと言って、貴族令嬢を掠って、それでどうするんだい?」


 ユーフェミアとシスティアーナを両手に支えながらデュバルディオが訊き返すが、男達は興奮しており話にならなかった。


「お前達が、王族がこの町を交易場にしたせいデ、お貴族連中ガ牧場や農園を造って人ヲ集めたせいで! 俺たちは食っていくノモようようになったんだ!!」

「食えなくなったやつモ居るんだゾ」

「大きな船が通るようになって、獲れる魚も減ったンダ!!」


「「「王族と貴族のせいで!!」」」


 多くの人の利便性や生活の豊かさを向上させる一方で、その影で苦境を強いられる者がいる。


 システィアーナの胸が苦しかった。


「そんな⋯⋯ お祖父さまは、民のためを、国の繁栄を思って⋯⋯」


 祖父が、シーファークの民の生活が良くなり、国の利益になるとしたことが、誰かの生活を脅かしたというのだ。


 興奮した男達の大振りの剣や槍(よく見ると漁銛)を払いながら、エルネストと護衛騎士が相手をしているが、彼らも譲れないものがあるのだろう、令嬢を掠うのに失敗したというのに逃げ出す雰囲気はない。


「その娘を人質に、倍賞金と生活の保障を交渉するンダから、退いてくれ」


「⋯⋯やめた方がいいと思うがなぁ。ミアを傷つけたら後には引けなくなるだろうし、シスを掠ったりしたら、父上が漁村ごと世界地図から消し去るんじゃないかな。曾祖叔父上(ドゥウェルヴィア公爵)の逆鱗にも触れそうだし、この先、この町の住民とも和解できなくなるぞ? どのみちそのやり方では暮らしていけなくなるんじゃないか?」


 正論である。正論であるからといって、聞けるものでもないし、多くの場合却って反発心を生むものでもある。

 もっとも、男達はディオの言葉を聞いていなかったが。


 聞いていたならシスティアーナが真っ先に標的になったであろうから、良かったのかもしれないが。


 護衛騎士に、一人、二人と無力化されていき、地に伏せる男達。

 どの漁夫達も、命に別状はなさそうだった。


 が、ふと見ると、最初に背を斬られて倒れていた男の姿が消えている。


 その時、システィアーナの目の端に、刃毀れの酷い古びた剣が、エルネストの肩に振り下ろされるのが見えた。


「エル従兄(にい)さま、後ろ!!」


 気を失っているとばかり思い、エルネストも騎士達も意識の外に追いやっていた男が、突然背後から襲いかかったのである。


 ユーフェミアの絹を裂くような悲鳴が上がる。


 騎士はコートの下に鎖帷子と石綿服を着込んでいるが、エルネストは従騎士(スクワイア)の制服だけである。


 どんなに小さくとも、観衆の沸く闘技場にいてもシスティアーナの応援する声は聴き取るエルネスト。


 今の喚起の声も聴き取っていた。



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