12.ソニアリーナ
「お姉さま? 今日は随分とお早いお戻りですね」
廊下を自室へ進むシスティアーナに、まだ10歳の妹ソニアリーナが駆け寄って来た。
──今日は随分とお早いお戻りですね
勿論、嫌味ではない。それは理解している。
いつもなら、夜会に参加した日は、まだ10歳のソニアリーナが眠った後の、日付が変わる頃の深夜に帰宅するのである。
だが、オルギュストに恥をかかされたと神経が尖っていたので、多少イラッと来た。が、悪気はないのはわかっているので、堪える。
「ええ。ちょっと気分が優れなくてね。先にエルネストお兄さまに送っていただいたのよ」
「エル兄さまが!? どちらに?」
「もう夜だし、お父さまがいらっしゃらないので、女ばかりの邸には上がれないと、お帰りになられたわ」
「ええ~」
おしゃまなソニアリーナは、キラキラ笑顔で優しく紳士的なエルネストが大好きなのである。憧れのお兄様と言うやつだ。
ので、あからさまにガッカリした顔をする。
「家人が未婚の女性しかいないお家に、若い男性が上がり込むのは、礼儀としていけないことなのよ。それでも、一応、送っていただいた礼も兼ねて、お茶には誘ったのよ? サロンでメイドや執事がいる状態で、お茶を一杯くらいなら、親戚ですもの、くだらない噂にもならないかと思ったのだけれど、やはりエルネストお兄さまは弁えてらっしゃるわ」
「クダラナイ噂?」
「⋯⋯⋯⋯」
まだ10歳のソニアリーナに、なんと説明しようか、少し迷って、誤魔化さずちゃんと解くことにした。
「わたくしには婚約者がいるわ」
「⋯⋯オー? オーギュ、スト様ね?」
「そうよ。彼がそばに居ないのに、別の男性と仲良くしたら、悪い噂を立てられるのよ」
「どーして? エルお兄さまは、悪い人じゃないわ」
「そうね。でも、例えばよ? お父さまがお仕事でいない日に、別の男性がやって来て、お母さまのお部屋に来てお話をしたら、ど⋯⋯」
「ダメ! お母さまはお父さまとしか仲良くしちゃダメなの」
小さな手で拳を作り、振り回して声を上げる小さな妹に苦笑して、頭を撫でる。
「ね? お母さまはただお話を聞いているだけで悪い事をしてなくても、周りの人は、ダメな事をしていると思うでしょう?」
「解った! 悪いのは、勝手に押しかけてきた男の人よ!」
「お父さまがいらっしゃらない今、エルネストお兄さまが邸に入って、もう夜なのに私達とお茶をしたら、悪い事をしていると言われるのよ」
「エルお兄さまは悪くないわ! ⋯⋯夜で、お父さまがいないから、だめなのね?」
「そうよ。わかったら、もうお休みの時間でしょう」
「うん。もう寝ます。おやすみなさい、お姉さま」
「おやすみなさい、ソニア」
可愛い妹の額に口付けて、後ろで見守っていたソニアリーナ付きの侍女に後を任せる。
深夜に、ハルヴェルヴィア侯爵夫妻が帰宅した。