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15.わかってるなら訊かないで欲しい



 システィアーナのくしゃみで、テラスのセディに座り町を見下ろしながらの会話は中断された。


 部屋に戻ると、何か言いたそうな、面白いものを見つけたような表情(かお)のユーフェミアが、覆いを広げた天蓋付きベッドの端に座っていた。


「シス、シルベスターの時も思ったけれど、いつもこんなに朝早いの?」

「ええ」

「それ、お兄さまの?」


 明らかに大きく、色もデザインも男物のカーデガンを羽織ったまま戻って来たので、言われるのではないかと思っていたが、やはり言われると返答に困った。


「わたくしは、一応辞退しようとは思ったのよ。でも、女性の身体を冷やしてはいけないと言われてかけられたら、突き返す訳にもいかなくて⋯⋯」

「別に、いい訳とか状況とかいいわよ。お兄さまじゃなくても、夜着にケープだけの女性を見たら、羽織り物を貸すでしょう」


 だったら態々(わざわざ)訊くなと言いたい。


「何を話してたの?」

「特にこれと言った事は。子供の頃のちょっとした恥ずかしいエピソードとか?」

「いいわね。お兄さまは4つ年上だから覚えてるんでしょうけれど、私は、いちいち覚えてないわ。いつまでも子供扱いするんだから」

「同じよ。わたくしも、覚えていた訳ではなくて、聞かされてなんとなく思い出したくらいよ」


 自分達が6歳になる頃、アレクサンドルは10歳。記憶の明確性はだいぶ違うだろう。


 翌年、当時の国王ウィリアハムの王命で引き合わされてもお互い覚えていなかったが、あの時、元気よく振り回すようなダンスで相手してくれたのはオルギュストだった事も思い出したが、あまりいい記憶ではない。


 あの時はまだ天真爛漫に振る舞っていたが、7つになる前、次に生まれたのも女児だったので、侯爵家を継ぐ者とされ、気を引き締め、ユーフェミアの学友としても令嬢としても相応しい教育も受け始め、オルギュストと顔合わせの時には、薄紅のお姫さまは、侯爵家の後継として姫君らしく振る舞うよう努めるようになっていた。


 まさか、そこが気に入られないとは思わないシスティアーナは、将来の女侯爵として頑張れば頑張るほど、オルギュストの間に溝が出来ていったのだが、当時は知るよしもない。


「気にする事ないわ。辺境伯の国境警備隊で絞られて、当分会うこともないでしようから」


 ユーフェミアが、サイドボードに置かれた小さな鈴を鳴らすと、続き部屋から侍女達が入ってきて、慣れた手つきで身支度を始めた。


 隣町で進水式を終えた船が港に入るまで、昨日と同じ町の視察がある。


 アレクサンドルはその進水式に参加するので同行はしないらしい。


 朝食時に、王都に置いてきた秘書官の代わりにユーヴェルフィオがスケジュールの確認をすると、マリアンナは、進水式に参加したがった。


「そうだね。隣国の姫君が興味を持ったと聞けば、船大工達も町の人達も喜ぶだろう」


 カルルと護衛騎士を伴って、アレクサンドルに随行することになったマリアンナは大喜びだ。


 対してユーフェミアもシスティアーナも、彼女が別行動するのはホッとした。


「カルルならそつなく(あしら)うわよ。任せましょう」


 システィアーナも反対はしなかった。







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