14.なんと呼べば?
なんてこと!!
システィアーナははっきりと赤面した。
幼児だったとは言え、侯爵家の子供が年上の王子を愛称呼び。しかも女名風に。
「アレク」よりは「サンディ」の方が言いやすいかもしれないが、それはないだろうと当時の自分に言ってやりたい。
「思い出した、の?」
同じカウチに座っているアレクサンドルが、システィアーナの羞恥に火照る顔を覗き込む。
「すみませんでした。もうしませんから、子供の頃のことは許し⋯⋯」
「怒ってなんかいないよ。あの頃のティアは可愛かったし、子供だから、素直に呼びやすく呼んでいただけでしょう?」
「それはそうです。他意なんかありませんわ。ですが」
「成人男性を、揶揄するように女性の名で呼んだ訳ではないのだから、そう縮こまらないで。言ったよね、誰も名を呼んでくれないのは寂しいから、呼んでくれるなら、愛称でも構わないと」
困ったように眉を寄せて笑う姿は、本当に怒ってはいないらしい。
(て言うか、近い!!)
ダンスを踊る時はともかくとして、王太子とこんなに近く、肩が触れるほど寄り、息づかいが聴こえるほど間近に顔を寄せて向かい合っているなど、初めてに近い──シルベスターの花火を見たテラスの事は数に入らないらしい──ので、最近では国王陛下との接見に次ぐ緊張ではないだろうか。
「だから、公務で会っても、王城ですれ違っても、まわりに人目がなければ、肩書きではなく名前を呼んでくれないかな。これは、命令ではないよ。親戚で幼馴染みからの、再従叔母へのお願いだよ」
(本当に、ズルいですわ。そんな言い方をされたら、拒否しづらいではないですか)
とはいえ、今更「サンディ」とは呼べまい。なんと呼べばいいのか。
システィアーナには、ユーヴェルフィオのように気軽く「アレク」呼びは無理だった。




