6.商店街を歩く
王太子だとまわりにバレないようにか、肩に少しかかる黄金色の髪を首の後ろでひとつに括り、華美な装飾はないが質の良いシャツに天鵞絨のジャケットが、シンプルながら品の良さを出しているので、貴族らしい雰囲気は隠せないアレクサンドル。
システィアーナはこの町ではドゥウェルヴィア公爵の孫娘として知られているので、注目を浴びないようユーフェミアがアレクサンドルの腕に寄り添って歩いている。
その代わりデュバルディオが、ジャケットと揃えのラパンフェルトハットの鐔を広げ深めに被って、整った貴族らしい顔を目立たなくしてシスティアーナの手を取り、仲のよい兄妹を装って歩いていた。
冬でも温暖で、海岸沿いの陽射しは強めなので、帽子を目深に被っていても特に違和感はない。
システィアーナやユーフェミアも、日焼け防止と目立たないように、上流階級の女性に人気の、鐔が広くリボンやコサージュなどで装飾された帽子を被っている。
商家の娘や女教師なども多く着用しているものなので、重くなるほど鐔に飾りを盛り立てたそれらに比べると、そこまで貴族らしさは出ていない、とシスティアーナは思っている。が、質の良さ、ふたりの育ちの良さは隠せない。
「ディオさ⋯⋯は、この町にどんな印象を持たれましたか?」
「活気があって、気候も人も温かくて、食べ物も美味しいし、いいところだね」
「ありがとうございます」
この町を他国に向けて開いたのが、自慢の祖父であるという自負から、デュバルディオにいい印象を持たれたことは素直に嬉しかった。
「ティアさま、久し振りですね」
通りがかった、茶葉を扱う商店の店先で接客中だった中年女性が声をかける。
最初は相手に思い当たらなかったシスティアーナであったが、内装や調度品、ショーケースの茶葉などに見覚えがあり、小さい頃に何度か祖父と茶葉を買いに来た店だと気がつく。
「キーファーのお茶屋さん? お祖父さまが青茶や白茶をよく購入なさっていた⋯⋯」
「私の腰辺りまでしか背のなかった小さなお嬢さんが、すっかりいい娘さんになって⋯⋯
こちらは? ティアさまのいい方?」
にこにことデュバルディオを見る女性は、時々、柔らかく握りこまれ繋がれた手を気にしているようだ。
「そんなんじゃありません。こちらは、お祖父さまの縁の、親戚のお兄さまですわ」
嘘ではない。祖父の兄の、曾孫である。
「そうかい? 仲よさそうだったから」
「シス? お知り合い?」
後をついてこないふたりを探して、先を進んでいたユーフェミアが戻ってくる。
「お祖父さまの馴染みのお店ですわ。お茶屋さんなんですけど、試飲についてくる焼き菓子がとても美味しくて、わたくしが菓子をつくるようになったきっかけですのよ」
「まあ、嬉しいこと言ってくれるね」
店にとって、システィアーナの言葉『祖父の馴染みの店』『提供された菓子が美味で菓子づくりを始めるきっかけだ』などと言われれば、嬉しいはずで、その焼き菓子と試飲用の茶を用意して店内に招き入れた。
「ティア」
帽子を目深に被ったデュバルディオやユーフェミアには気づかなかった店員達も、さすがにアレクサンドルが入ってくると気がついた。
国王夫妻と王太子の姿絵は、それなりに出回っている。
信仰の対象のように、店内に飾られている大店もある。
この店にも、ドゥウェルヴィア公爵に抱かれた幼いシスティアーナの姿絵が、店内奥に飾られている。
「おっ、王⋯⋯太子殿下!?」




