第38話 無敵
第38話 無敵
カートが、オーガを弓で射る事を考えていたところ、ブラックベアがゴブリンの焦げる匂いに釣られて、戻ってきてしまった。
このまま、オーガを倒してくれれば、有り難いのだが、ブラックベアでは、オーガは倒せないことは、先程の闘いで実証済みだ。
ブラックベアは、こともあろうことか、ゴブリンを襲った後、ハンター達の隠れている木に登ってきたのだ。
弓手は毒矢を射るも、効き始めるまで、時間があるし、倒れるほどの十分な毒が回るには、何本か射る必要がある。
その時、ハンターのうちの誰かが、「トオー」という掛け声とともに、木から飛び降りた。
その際、ブラックベアの身体を蹴ったようだが、ブラックベアには、ダメージ無く、平然としている。
「さて、クマ公は上か下か、どちらに来るか?」と、呟き地面に着地した男は、蒼井だった。
そして、クマ公は下を選んだ。熊という生き物は、プライドが高いようで、身体を蹴った奴を、無事で済ます気はないのだ。
さて、話は変わり、クマ科の特徴は、牙と爪という点ではネコ科と変わらないが、針金の様な体毛、分厚い皮下脂肪、硬い筋肉、しっかりとした骨格である。
同じ身長と体重なら、圧倒的にヒト科より強力な生物だ。
ましてや、身長も体重も上回るのなら、ヒト科では話にもならないのだ。
更に分析をすると、四足動物は体当たり、噛みつきが攻撃の主体だ。熊は立ち上がり、爪で攻撃が出来るが、手が短い。
手が短ければ横殴りしか出来ない。
しかし、熊は威嚇のため、身体を大きく見せるため、立ち上がる習性がある。
この時が、ヒト科最大のチャンスが訪れる!
蒼井の前にブラックベアは、四足で駆け寄ってきた。
体当たりは不味い! 止めさせる必要がある。
ブーツで地面の土を高く舞い上げた。上手く行けば、視覚を奪える。
その時、ブラックベアは立ち上がってしまった。
その瞬間、蒼井にはハッキリとブラックベアの急所が見えた。
筋肉に覆われていない喉。
無防備な股間。
正中線が、がら空きだが、人間の突きで鳩尾を叩いたところで、殺せないだろう。
ここは喉を砕き、頚椎を打つ!
蒼井は、自身の身体に倒木法を掛けた。
そして、常歩となり、ブラックベアに向かい駆け出した。
高速上段突き!?
ドォーンという音とともに、蒼井の右拳が、ブラックベアの喉を砕いているのがわかった。
さらに、奥へ奥へと拳は進んでいく。
頚椎へ、衝撃が伝わり、骨が破裂した。
頚椎の骨が砕け、首から飛び出しているのだ。
ブラックベアは絶命した。
毒矢が刺さってはいたが、そんなものが関係する次元ではなかった。
蒼井の足元にブラックベアが横たわり、蒼井は足刀で、しっかりブラックベアの頚椎を踏みつけ、骨が粉砕したことを確認した。
すると、ゴブリンを探していたオーガが草むらから出現した。
オーガは怒りを抑えられないようで、向かってきた。
「ゴブリンを殺したのはクマ公なんだがね。まあ、攫ったのはオレたちだ」
オーガは、棍棒を捨てて、蒼井に襲ってきた。
しかし、蒼井はクマ公より、オーガはやり易いと思っていた。
なぜなら、立ち上がっているので、正中線がよく見えるのだ。
つまり、急所のラインが丸見えなのだ。
オーガは、先制パンチを繰り出してきた。巨体から右拳を振り下ろしてきた。
蒼井は、大きく下がりたくないので、空手でいう“猫足立ち”になり、拳を交わした。
その際、“掛手”という、受け技でオーガの右拳を掴み、腕を捻りあげていた。
その捻られている右腕の肘関節の上、数センチをブーツで蹴り上げた。
「ぎぃやあーーー」
なんと巨体のオーガが、大きな悲鳴を上げたのだ。
しかし、オーガには、『まだは左腕がある』とでも思ったのだろうか、バカなことにも、左拳で蒼井を殴ろうとしたが、空手でいう“落とし受け”で、軽く拳は落とされてしまった。
それは、蝶が優雅に舞うかのようで美しく、左右の手が舞った。
次の瞬間、オーガは気が付いた。殴った左腕が、予想だにしていなかった方向にあることに!
オーガの腕は、右斜め下に抑えられていたのだ。
これにより、オーガの首から上、武道でいう“上段”がノーガードになっていたのだ。
ドォーン!
地面が泣き叫ぶかのような音が響く。
蒼井の高速上段突きが、オーガの首を捉え、オーガは口から血を流していた。
そして、どのような術を使ったのか、蒼井はオーガの後ろに立っていた。
膝まづくオーガに背後から、顔面へ巻き付くような左の回し蹴りを放ち、オーガの顔面は粉砕された。
それを見ていた、もう2体のオーガは、一目散に逃げてしまった。
静寂の時が訪れた。
ナニの後の賢者タイムのように、闘いの後は、心に静寂が訪れるものだ。
しばらくして、
「隼人!スゲーな、今のは何なの?」と、ビリーが興奮して、駆け寄ってきた。
「空手だ!」
「空手って、マジでスゲーなぁ」
木の上で見ていたアニーは、「何なの? あの超出鱈目な技は?」と言うも、やや引き気味だっ。
蒼井が自分と闘った時、あの技は使ってなかったからだ。
アニーの言葉を聞いたカートも、「信じられない」と顔に書いてあった。
そんな中、水筒の緑茶を飲む蒼井だったが、今日のお茶は、Q右衛門の“宇治茶”だった。




