第33話 ワンダーフォーゲル同好会事件
第33話 ワンダーフォーゲル同好会事件
討伐隊と先遣隊と合流し、この町のハンターのほぼ全てがこの西野山に集結している。
ここにいないハンターは、ギルドにて、不測の事態に備えているといことだ。
蒼井やアニーも討伐隊に参加している。
巣穴までの所々に、見張りのゴブリンが立つようになった。
しかし、何故、見張りのゴブリン達は、ブラックベアに襲われないのだろうか?と疑問だったが、疑問は解消された。
オーガが、この辺りを徘徊して、ブラックベアを追い払っているようだ。
それでも、安全ではないだろうと思うのだが、その辺りは魔物の頭脳では、問題はないのだろう。
まあ、ゴブリンなんて消耗品として、サンダンスらも扱っているのだろう。
そうこう考えていると、オーガが去った後、ゴブリンがブラックベアにヤラれたでは……
「これは使えるのでは?」
と、ハンター達は閃いたようだ。
「うん、使えるね」
「でも、上手く行くかね?」
と話していると、ビリーという15歳のハンターが、不思議そうに、
「皆、どうしたの? 何が使えるの?」と、蒼井に尋ねてきた。
昨年、ハンターになり、Eランクになったばかりの若い、いや、蒼井からするとガキのハンターだ。
とはいえ、ファンタジー世界では15歳で成人なんだろう。
「熊にゴブリンを襲わせるんだ」と、蒼井は真顔で答える。
さらに、ビリーは、
「どうやって?」
「お前が!血の滴る生肉を熊の前で、振回せ! すると、」
「すると?」
「熊はお前を襲う!」
周りから笑いが漏れ、それが、さらにビリをムキにさせていた。
「それじゃあ、ダメだよぉ」
「いや、ダメじゃない」
「じゃあ、どうすんだよ?」
蒼井は、ひと呼吸おいて、
「走って逃げる(笑) 熊より早く走ればOKだ」と、ウインクをしてやる。
さて、熊の習性とやらは、
“取られたものは取り返すだ!”
自己の所有するものを、奪われると、何処までも襲い続けるというのだ。
貴殿は、福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件をご存知だろうか?
時は昭和45年、福岡大学ワンダーフォーゲル“同好会”が、北海道は日高山脈のカムイエクウチカウシ山にて、テントを張った際、羆がテントに侵入し、荷物をあさっていた。
同好会員は、動揺し、鍋を叩くなど音で威嚇し、羆を追いやった。
しかし、これら5人は、ここで大きなミスを犯してしまう。
羆が奪った荷物を、なんと取り返してしまったのだ。
このことが、こともあろうか、山の王者である羆の怒りをかってしまったのだ!?
怒りに燃える羆は、再度、深夜にテントを襲撃!テントに穴を開けた。
そこで、同好会員は交代で見張りを立てることにしたが、早朝、羆は三度、襲撃をする。この時、テントはなぎ倒された。
この事件の分かれ道、重要ポイントが、やって来た!
ワンダーフォーゲル同好会のリーダーは、会員2人を助けに下山させた。
つまり、登山続行である。
おそらく、同好会から部活に昇格するため、リーダーは功を焦っていたのかもしれない。
だが、誰も死んでいない、この時点で中止を決定していたなら……
この時、下山した2人は、幸いにも他大学のパーティと遭遇し、2パーティに救援要請を依頼することに成功する。
そして、2人は福岡大学のパーティに戻るのだったが、喜びもつかの間、夕方、4度目の羆の襲撃を受ける!
「もうダメだ」
誰もが、そう思ったたろうか?
リーダーは、夜間だが、移動を決めることにした。
しかし、夜間の移動は、獣の庭に入るようなものだった。
羆は5度目の襲撃でパーティの1人を殺害した。
この際、パニックになり、1人の会員が他の3人と逸れることなる。
会員達は、走るうちに、皆、逸れてしまい、仲間の悲鳴を暗闇で聞きながら、走ることになる。
この時、背中を向けて走ったことが、羆の本能が彼らを追わせたという。
次の朝、下山出来たのは、5人のうち2人だけだった。
翌日には討伐隊が組まれ、捜索にあたったが、さらに翌日、もう1人の遺体が見つかっり、下山した2人以外は死亡が判明した。
このパーティが羆に遭遇したのが、7月25日、最後の遺体が見つかったのが、7月30日とたった6日で3人が遺体となった。
リーダーは、あの世で、あのときの判断を悔いているのだろうか?
そして、解体された羆から、人肉を食べた形跡はなく、ただただ、羆は怒っていたのだ!
自分の荷物を奪われた怒りに任せて、若い同好会員を、5日間も襲い続けたのだ。
つまり、ブラックベアに荷物を与え、ゴブリン共が奪ったとブラックベアに思わせれば良いのだ。
出来れば、ゴブリン共には、ジム達のところまで、その荷物を運んでほしいよな!
と、考えていたことを、蒼井はビリーに教示してやると、ビリーが小躍りするかのように喜んでいた。
やはり、緑茶を飲むと頭が冴えるらしい。




