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5 お馬さんごっこと隠された村

 転生してから7年目。



 毎夜家を抜け出し、大森林で焼肉を食べるのを日課にしている俺だけど、最近家を抜け出そうとすると、両親の部屋が激しいことになっていた。


 ――ギシギシギシッ

 ベッドが激しく鳴っている。

 しかも可愛い顔したママンがマウントをとって、パパンを激しく攻め立てている。


 パパンが「ウッ」「クッ」と、苦しそうに呻いているけど、その上でママンがメチャクチャハッスルしている。


 なに、あの表情。

 いつも可愛い顔したママンの面影が、全くねえ。


 よ、夜の魔物だ。

 パパンはガタイがいいのに、夜の魔物と化したママンの前で、完全に形無しになっていた。

 もはや敗残兵のごとく、一方的に蹂躙されている。



 この前妹が欲しいと言ったらこれだよ。


 ヌフフッ、仕方ないなー。

 ド辺境の村では日本みたいに娯楽であふれていないから、夫婦の営みはとても貴重な娯楽。

 ドアの隙間から覗いている俺も、動画でないエロを見て、視線が逸らせなくなってしまった。


 ……ああ、なのに無常、俺の息子さんはこんな激しい光景を見ても、まったく反応してくれない。


「涙が出てきた」

 今夜は日課の焼肉止めて、部屋でおとなしくしておくか。


 ストレージに予備の肉を放り込んでいるし、それでも食って我慢しよう。



 しかし、独り身なのが無性に寂しいな。

 体は子供でも、中身はおっさんだからなぁ。





 ところで、翌日の食卓でのことだ。


「父上、母上、昨日お部屋がうるさかったですが、どうかしたんですか?」


 夜は別の部屋で寝ているクリスに、尋ねられてしまった。



 俺だけでなく、クリスにも気づいてしまったか。

 あれだけ激しくしてれば、仕方がないか。



 幼い息子に尋ねられたパパンとママンは、どう答えていいか分からなくて、顔が強張った。


 両親のあんな姿を知るのは、幼気な少年には早すぎるな。


「クリス、父上と母上は、夜中にお馬さんごっこをしていたんだ」

「お馬さんごっこ?」


 答えに困っている両親の代わりに、俺が助け舟を出しておいた。

 クリスは首をかしげて意味が分かってないようだが、7歳でエロに目覚めるのは早すぎるからな。


 けど、俺の答えを聞いたパパンとママンが、物凄く複雑な表情で俺を見る。



「アーヴィン、まさかお前昨日のを見て……ゴフッ」


 パパンが余計なことを言いかけたけど、ママンに肘でどつかれ、強制的に黙らされた。

 パパン、尻に敷かれてるな。


「アーヴィン、お腹が空いているでしょう。このパンも食べていいわよ」


 そんなパパンをよそに、ママンは誤魔化しに入った。

 いつもなら余計なパンはもらえないのに、ママンったら仕方がないなー。


「ワーイ、母上大好き」


 ここは腹ペコ少年らしく、喜んだふりをして誤魔化されておこう。






 その日の午後。

 ノーウェン騎士爵領に行商人のガズがやってきた。


 ガズはこのあたり一帯の街や村を行き来している行商人で、村に必要な衣類や雑貨、塩などを、荷馬車に積んで売りに来る。

 売るだけでなく、村で収穫された小麦や野菜、森林で取れたモンスターの素材の買取りもしてくれる。


 人口30人にもならないノーウェン騎士爵領という名の村は、ひどく閉鎖的で、外部との交流がない。

 そんな村で、行商人のガズは唯一外部と出入りしている人間だ。


 ここまで小さい村だと、商品を売る店から存在しない。

 そのため、ガズがやって来れば荷馬車いっぱいの商品が並び、ちょっとしたお祭りみたいになって、村の皆がガズの元へ集まってくる。


 単に買い物目当ての住人がいれば、外部の情報をガズを通して聞く者など。


 街での流行の服だとか、たわいもないうわさ話もあれば、王国と魔族の戦いの話、時に自然災害でどこの街や村が被害に遭ったなんてものもある。



「ガズ、最近の街での話を聞かせてくれよ」

「はいはい、若様……」


 騎士爵領の外に出たことがない俺には、外のことを話してくれるガズは貴重な情報源だ。

 この村の住人、あまりに閉鎖的過ぎて、街に行ったことがない連中ばかりだ。


 少なくとも、俺がこの村に来てから、誰一人街まで行ったことのある大人がいない。


 そんなド田舎とはいえ、騎士爵領の跡取りである俺の相手とあって、ガズは腰を低くしながら街でのことを話してくれた。


 もちろん、外のことが気になるのは俺だけでない。

 弟のクリスと、村にいる2人の女の子も、ガズの話には興味津々。


 子供にとって、この村は刺激が乏しすぎるからな。




 もっともこのガズ。

 ただの行商人でなく、正体は”王国の影”だったりする。


 こっそりステータスの魔法を使って調べた際に、称号欄に王国の影と普通に書いてあったので、あっさり見破ることができた。


 王国の影ということは、密偵。

 日本でいえば将軍家に秘密裏に使える、忍者のようなもの。

 ガズはこの国にとって、表に知られたくはないことを秘密裏に行っている人間なのだ。



 もっともガズどころか、この村の住人はパパンとママンを含めて、全員が国王直轄の人間だったりする。


 ステータスを覗くと、パパンの称号に”近衛騎士”ってあるんだよな。

 それも”元”近衛騎士でなく、”現役”の近衛騎士だ。


 近衛と言えば、王や王族を守護することを任務にした人間だ。

 そんな人間がなぜこの村にいるのかと言えば、やはり俺の正体がこの国の第二王子だからだろう。



 パパン以外の村の住人にも近衛騎士がかなりいて、近衛騎士でなくても王国の影だったりする。


 俺たち兄弟に勉強を教えてくれているマーフィン爺さんも、正体は”宮廷魔術師”だ。


 宮廷に使えている魔術師だから、高い知識と、国でも有数の魔法が使えるはずだ。


 現に村の周囲に敷かれている複雑な結界も、宮廷魔術師であるマーフィン爺さんの敷いたものだった。


 普通の村だと、あそこまで複雑な結界を展開しないだろうし、そもそも展開するだけの技術がないだろう。

 魔物避けはともかくとして、結界に触れた存在の感知に、外部から認識されにくくする、認識阻害の効果がかけられている。


 おかげで村の住人以外が、この場所の存在に気付くのは難しいだろう。


 そして村に必要な物資は、王国の影に所属しているガズが用意しているので、他の行商人がこの村に来ることがなかった。

 街にいる他の行商人たちは、この村が存在していることさえ、知らない可能性が高い。


 そこまでして、この村の存在は隠されている。



「いや、そこまでして隠したいのは、第二王子である俺の存在だな」


 さてはて、この国の王であるパパン陛下は、一体俺の将来をどうしたいのだろう?




 面倒事が、俺の将来に待ち構えている気しかしない。



 ああ、このまま平和に暮らしたい。

 でも村の生活が退屈過ぎるので、いい加減街にも行ってみたいな。


 夜中の両親の熱愛ぶりを眺めて、それを娯楽にするしかないくらいしか、この村では楽しめるものがないからな。


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