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3 大森林で焼肉

「腹減ったー」


 この世界に転生してからはや5年。

 今日も今日とて、腹ペコ状態で過ごしている、俺ことアーヴィン・ド・ノーウェンだ。


 今は夜中で、家の人間はすでに全員寝ている。


 俺と弟のクリスは5歳になってからそれぞれ個室が与えられ、親とは別の部屋で眠るようになった。

 今までは幼過ぎたせいで、両親と同じ部屋で寝ないといけなかった。

 そのせいで、夜にこっそり家を抜け出すことができなかった。



 だが両親が側にいないなら、家からこっそり抜け出しても、気づかれないだろう。



「よし、家を抜け出して食糧確保(モンスターハント)だ」


 今の俺は子供になっているせいで一種の弱体化状況にあり、体力や魔力などが、異世界転生する前と比べてかなり低下している。

 そのせいで強力な魔法やスキルが、ほとんど使えない状態になっている。

 RPG的に言うと、最大HPやMPが下がっているので、魔法を使うだけのMPがないといったところだ。


 それでも3歳の頃より成長したことで、転生以前のステータスをやや回復している。


 おかげで今までは魔力量が足りなくて使えなかった魔法も、いくつか使えるようになっていた。



 てわけで、まずは”次元魔法ストレージ”を使い、今までに飛ばされたことがある異世界で手に入れてきた装備品と武器を、適当に見繕って装備していく。


 まずは黒竜王の皮と鱗を用いた革鎧。

 これは魔法の効果によって、装備者の体に合わせて自動でサイズ調整される機能が付いていて、ガキの俺でも装備できる品だ。


 同じく黒竜王の皮製のマントに、アンダーシャツとズボン。

 全身黒一色という、中二病を拗らせた装備だが、黒竜王シリーズは強度と動きやすさが抜群で、困ったときにはこれさえ身に着ければ万事解決という代物だ。


 ミスリル製の剣程度なら、この装備で防ぐことができる。



「武器は何にするかなー?とりあえずこれでいいか?」


 取り出したのは銀色の刀身に、青と金の線が入った剣。

 剣の各所には様々な宝石が施され、一目見ただけでやばい金額がすることが分かる。


 しかもこの剣、ただのお高い剣ではない。

 各部に施された宝石が、剣に刻まれた魔術的な刻印との組み合わせによって、装備者のステータスを底上げする効果を持っている。


 “天空王の剣”と呼ばれる代物で、以前アホの邪神大帝のせいで飛ばされたゲーム世界で、天空王になった俺が身に着けていた武器だ。



「儀礼用の剣だけど、切れ味がいいからこれでいいか」

 天空王時代の臣下たちが、食糧確保(モンスターハント)のために使うと知ったら、確実に怒るだろう。

 この剣は、そんなことのために使っていいレベルのものでない。

 だが、あの頃の臣下はすでにいないので、気にする必要がない。


 子供の俺が持つには少々大きい気もするが、身体能力に関しては既に通常の人間の枠にないので、大きさに振り回されて不覚を取るなんてこともない。


 宇宙人式改造人間(エイリアンテクノロジー)の体様々だ。

 未来からやってきて、カリフォルニア州の元知事にもなっていた殺人マシーン並みの力はあるぞ。



 あとはサブの武器として、”火吹き蜥蜴の短剣”を2本、腰に下げておく。

 これは火吹き蜥蜴の牙を素材に使った短剣で、炎エンチャントが最初からついている武器だ。

 エンチャント効果によって、攻撃した相手が全身炎に包まれて転げまわる事になる魔法効果がある。


 だが重要なのは相手を炎で包むことでなく、その際ちょうどいい火加減で焼けるので、モンスターの焼き肉をするのに、とても便利な調理用具なのだ。

 モンスター専用焼肉包丁といっていいだろう。



「次元魔法短距離空間転移(ショートテレポート)


 それらの装備をして、俺は魔法を構築して家の外へ瞬間移動した。

 短距離空間転移(ショートテレポート)は短距離を転移できる魔法で、壁の向こう側に飛ぶなんてこともできる便利魔法だ。

 家の扉を開け閉めすることなく外に出られるので、音で家族に気づかれる心配がなくなる。


 なお俺の知っている異世界では、風呂場での覗き魔法として、なぜか女魔導士たちに大人気の魔法だった。


『女のロマン』とか言って、男湯を覗こうとする変態女ばかり。

 あの世界の女どもは、頭がどうかしていた。




 それはともかく、俺は家の中から外へ出て、この世界の夜を満喫することにした。



「目指すは村の近くにある大森林。俺の飯にしてくれる」

 そこには魔物(メシ)たちが巣くっているのだ。


 俺は天空王の剣を肩に担ぎ、大森林(メシ)目指して短距離空間転移(ショートテレポート)での跳躍を繰り返しながら、移動していく。


 ただ、途中村の周囲に貼られた結界が邪魔になる。

 この結界には低位の魔物が近づかないようにする効果があるのだが、それ以外にも、結界に誰かが引っ掛かると術者に感知される効果や、結界外から俺の住んでいるノーウェン騎士爵が認識されにくくなるなどの効果があった。


 夜中に村の外に出ようとして結界に引っ掛かったら、村にいる術者にばれてしまう。

 そうなれば拳骨では済まない、大目玉を食らってしまう。



 だが俺の頭には現代地球でも解明できない、エイリアンテクノロジーの塊であるエイリアンチップが埋め込まれている。


 結界の魔法術式を解析し、結界を破壊することなく、最適解ですり抜ける方法を俺に教えてくれる。



「この程度の術式じゃ、俺に気づくことはできないぜ」

 俺は笑って結界を通り抜け、その向こうに広がる大森林へ向かっていった。





 森の中へ入ってみると、ほどなくして「ギャーギャー」「グワーグワー」と声を上げる、ファンタジー世界の定番モンスター、ゴブリンに遭遇した。


 人間の子供ほどの背丈をした人型モンスターだが、今の俺は5歳児にしては背がかなり高い方なので、自然とゴブリンを見下ろす形になる。

 同い年の弟のクリスだと、逆に年齢に比べて背が低いので、ゴブリンを下から見上げることになっただろう。




 さて遭遇したゴブリンだが、別の異世界で無人島生活させられた時に食料がなくて食ったことがある。


「ゴブリンってまずいんだよな」


 骨とスジばかりで、まともに食べられる肉がほとんどない。

 おまけに強烈な臭みがあって、とても食えたものじゃない。

 まるで何日も履き替えてない、靴下みたいな臭さだ。


 そんなゴブリンが数体、やかましく鳴きながら、口から尖った牙を見せて威嚇してくる。

 手にしたボロボロの剣を構えて、今にも攻撃してこようとしている。



「"ウエポンセレクト・バイオガン"」

 いちいち相手をするのが面倒なので、俺は人体改造された体を使い、腕をバイオガンへ変形させる。


 俺の腕が人間のものから、銀色の金属質な銃に変形し、銃口をゴブリンどもに向けて照準(セット)


 ――バシュ、バシュ、バシュッ

 水の塊が飛び出すような音を出し、バイオガンから緑色の液体を発射した。


 この液体をゴブリンは、何の警戒もなくまともに浴びた。

 途端シュワシュワと音を立てながら煙が上がり、見る見るうちにゴブリンの体が緑色に変色して溶け、崩れていく。


「グ、グアッ」

 ゴブリンの小さな断末魔が聞こえたが、体全体が瞬く間に緑色の液体に変わり果て、元の原型をとどめない姿となった。


 ただの緑色の水たまりだ。

 しかもこの水たまり、1時間もたたずに地面にしみこむか蒸発して、完全に消え去ってしまう。


 死体を完全消去してしまう暗殺用武器で、エイリアンテクノロジーの恐ろしさが理解できるだろう。


 あのグレイ型宇宙人どもは俺にこんな改造を施して、一体何をさせるつもりだったのか。



「まずい肉に用はない、次を探すか」

 とりあえず、この世界に来て初めての戦闘だったが、特に感慨深いものはない。


 今まで邪神大帝のせいで異世界経験は腐るほどしているので、いまさらの事だ。




 それよりも飯。

 まともに食えるモンスター肉の捜索だ。


「サーモグラフィー、生体スキャンセンサー起動」

 網膜に埋め込まれたエイリアンテクノロジーを起動させる。

 地球の技術にも存在している、周辺の温度を色で測ることができるサーモグラフィー。

 さらに生命反応を検出できる生体スキャンセンサー。


 今まで俺の視界はエイリアンテクノロジーの”ナイトビジョン”によって、夜でも真昼のように明るく鮮明に見えていた。

 そこに2つのテクノロジーを追加することで、周囲の温度が色になって表示され、さらに生物のいる場所が、自動で強調されて表示されるようになる。


 この2つを使えば、視界内にいる生き物をすぐに見つけることができる。

 だが、残念なことに近場に生き物はいないようだ。



「索敵魔法敵対的生物検知(サーチエネミー)

 ということで、今度は込めた魔力量によって、周辺の敵対的な生物を索敵できる魔法を使用する。

 視界外の広い範囲をカバーしてモンスターを探せ、こういう場合に重宝する魔法だ。



「あっちに何かいるな。うまい肉(モンスター)だといいな」

 異世界無人島での経験を生かし、俺は次なる獲物を求めて移動した。



 それから少しして、頭に巨大な角を持ったウサギを見つける。


 “一角兎”と呼ばれる兎型モンスターだ。

 体は地球の兎と同じ姿をしているが、頭にはドリルのような形をした巨大な角が付いている。

 しかも、それが自分の体よりも長い。


 兎のくせに、男のロマンを分かっているモンスターだ。


 兎なだけあって、強力な脚力から繰り出されるジャンプアタックが強力で、頭のドリル角で一突きされると、人間どころか馬の体でも貫通する攻撃力がある。


 一般人だと戦ってはいけない相手だが、もちろん俺にとってこの程度のモンスターなど、ただの(ザコ)



「飯発見!」

 俺は一角兎を発見すると同時に、腰に差した火吹き蜥蜴の短剣を投擲した。


 投擲した短剣は狙いたがわず、一角兎の右の眼を貫通し、そのまま頭に突き刺さる。


「ギャッ」

 一角兎が絶命の声を上げると同時に、短剣込められた炎のエンチャント効果が発動。

 全身が炎に包まれて燃え始める。


「いい匂いだ。やっとまともな肉が食える。それにしても腹の空く匂いだなー。早く焼けないかなー」


 これは戦闘ではなく、焼肉だ。

 俺に殺されたことに、一角兎は気づいていたのかさえ怪しい。


 ほどなくして一角兎の全身を包んでいた炎が消えると、そこには全身がこんがり焼かれた、一角兎の丸焼きが出来上がっていた。


 火吹き蜥蜴の短剣を使うと、ちょうどいい塩梅に焼けるのが素晴らしい。

 焚火や火魔法を使って焼かなくていいので、手間がかからなくていいな。

 さすがは焼肉専用短剣だ。



「それでは両手を合わせて、いただきまーす」


 実家のマズイ飯よ、さようなら。

 これからは毎晩大森林の肉をたらふく食って生きてくぞ。


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