表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/114

2-D100-17 船の神5 祥州連邦

オークの盗賊団を一蹴した『船の神』マリヴェラ。

祥州の都についた彼らは、ユキの祖父に当たるムーア王に意外な事を聞かされた。


 祥州への道は、特に何事も無かった。

 手間がかかるので関所は超えなかったが、人口密度も低いこの地域の事だ。

 とがめられることも無い。


 祥州は、冷涼とした湿地と岩場の入り混じった、まるでロンドール内陸部のような気候である。

 畑は少なく、あって放牧地。

 しかも、獣だけではなく魔獣も出るので、どちらも石を積んだ壁でぐるりと囲っている。


「いやあ、ここも見事なまでに何にもない土地で、親近感沸くよね」


「別に……」


 畑や放牧地があると言う事は、人はいるのだ。

 人間では無く、主に獣人たちの村が点在している。


 それにしても、国力って点ではぶっちゃけ大したことないよな……。

 かなり北に位置するので、冬季は氷と雪に閉ざされるんだし、おまけに海に面している訳でもない。

 狐の神獣人を中心とした、獣人やその上位種族の連合国家って言っても、天使族のマグヘイレンのような裕福な国家に対抗できるとは……。


「マリさん。あれ……」


 クーコが前方を指さした。

 今歩いている道の先。

 砂塵だ。

 いや、分かってる。アレは騎馬隊だ。


「俺たちを迎えに来てくれたんじゃね?」


「ならいいけど。でも誰がアタシたちが来るのを知ってるの?」


「さあな?」


 別に恐れる理由が無いのでそのまま歩く。

 騎馬隊が近づいた。

 数えて20騎。


 従者も連れていないが、貴族か騎士階級なんだろう。

 纏っている軽騎兵用の鎧は中々良いモノが揃っている。

 全員、獣人……いや、神獣人か?

 雰囲気がユキに似ている。


 例によって「知る」は抵抗された。

 いや、毎回コレだけれど、お約束と言うよりは基本中の基本なんで……。


 俺たちは取り囲まれた。

 クーコが声を張り上げた。


「何か御用ですか? こちらにいらっしゃるのはかの魔王様とロンドールの太守、マリヴェラです」


 それを聞くと、全員が下馬して片膝をついた。

 隊長格らしいのが簡略な兜をとって頭を下げた。

 ちょっとクールな顔立ちの女性だった。


「我々は祥州連邦の者です。私は近衛連隊長のアルバ。王の命により、皆様をお迎えに上がりました」


 魔王が答えた。


「大儀である」


「恐悦にございます。馬をお持ちしました」


 言われてみると、空馬が3頭いる。

 小声でクーコに訊く。


「ねえクーコ、馬、乗れる?」


「アタシ、乗った事ないよ……」


 流石の彼女も不安を隠せない。


 アルバが言った。


「もし乗り慣れておられぬなら、私らと同乗されるとよいですぞ。幸い、半数が女性隊員です」


 俺たちの代わりに魔王が答えた。


「無用。行くぞ」


 魔王は空馬に近づくと、鞍に取りつき、ひらりと乗った。

 ……力では無く「風化」とかをさりげなく使って登ったんだろうけど。

 和装だってのに大股広げてハシタナイ……。

 あ、レギンスみたいなの履いてやがるのか。用意良いな……。


 しょうがない。

 クーコ1人では危険かもしれない。


「じゃ、俺が手綱をとるから、クーコは懐か後ろに乗りな」


「うーん。じゃあ渋々」


 あからさまに嫌がられたけれどここは割り切ろう。

 さあ、出発だ!



――――



 道中、アルバから事情を聴かされた。

 俺たちの動きは、逐一祥州上層部へと知らされていたらしい。


 へえ。


 尾行なんかは感じなかったけれどな。

 正体が知れれば、目的もおのずと決まっている。

 王は即座に迎えを出した。

 それがアルバ達だったのだ。

 まあ、普通に考えて魔王と神族と化け猫なんだから、万が一が有っても平気ではあるのだが、彼らはそう考えていないらしい。


「ええ? 盗賊だろうが魔物だろうが大丈夫ですよ。嫌だな~アルバ隊長」


「しかし、お言葉ではありますが、監視からの報告では、盗賊のオーク如きにあろう事か船を持ち出して振り回したとか」


「ああ……。はい。仰る通りです。ぶん回しました」


 アルバは一瞬絶句した。


「まさか、本当だとは。船を振り回したなど、一体どういう……」


 そして、向こうの方へと数秒間、顔を逸らした。

 ……絶対今笑ってるよな?


「失礼いたしました……王もそれで心配が募りまして、我々を遣わした次第です」


「ホント、バカで済みませんね」


「いえいえ。それに、皆様の動向は、敵にも伝わっている筈ですので」


「ふうん。敵ねえ。マグヘイレンかな?」


「詳しい事情は、王から直接説明させていただきます」


「分かりました」



――――



「アレが王都か。ナンか、あそこだけ大都市って感じだねえ」


 そこは、見渡す限りの荒野の中に聳える摩天楼。

 超高層ビルは無いけれど、ホーブロですら見た事の無い10階建て以上あるビルが幾つも並んでいる。

 モノの本によると、祥州に限らず西の大陸では、転生者の知識がより活かされているらしい。

 ちょっとしたビルなんかは(資金がありさえすれば)よく見られるのだとか。


 奇麗な石垣で出来た城壁が延々と続き、それらを十分に守っている。

 マグヘイレンの主力は天使による空軍と、数で圧倒する魔法生物部隊なのだそうだが、後者の勢いを止められるだけでも、お金をかける価値が有るのだとか。


 ってか、魔法生物の軍隊ってナニ?

 もしかして餌だけやっておけば給料払わなくて済むやつ?

 欲しいんだけど。


 立派な城門をくぐり、大通りを行く。

 人通りはそこそこ。

 無論、ド田舎のイルトゥリルより大都会だが、懐かしのソレイェレには及ばないだろう。


 ただし、人間の姿は見られず、全員獣人か人狼・人猫のライカンスロープ系か、それとも神獣人か、だ。

 神獣人なんて、下手すれば神族に近い能力を有するわけで、そんな彼らが集まっているのだから、人口が少なくても何とかやれている訳だ。


 ただ……どうかな。

 集まっているというより、集まらざるを得なかった、のかもしれないけれど。


 王が住む内城の門についた。

 連隊の連中は手を振って去り、アルバだけが残る。

 全員下馬し、中へと進む。


 そして応接間。


 そこには、背は高いモノの華奢な体躯をした男がいた。

 髪も色はきれいな銀色で、ふさふさな尻尾も同じく銀色だ。

 俺たちを見ると笑顔で出迎えた。


「やあ、これはこれは魔王様。100年ぶりでございますな。事前にお知らせいただければ、コバルトまで迎えに上がりましたものを」


「よい。苦しゅうない。此度は余の個人的な用事である」


「左様でしたか。自分の家とも思い、どうぞご存分に」


「うむ」


 と、下へも置かぬ歓待ぶりだ。

 もちろん俺は後回し。

 まあ、俺なんぞ陪臣だしな。

 何だかんだ言って、魔王と俺の序列は格段に違う訳で。


 祥州連邦の王……名はムーア。150年以上生きているらしい。

 ユキの母親のフロールは彼の娘。

 つまり、このおっさんはユキの祖父なのだ。


 おじい様!


 ナンて呼んでしまいたくなるが、そこは我慢。


 結局ユキとはキスまでしか済ませてないからな……。

 いや、純愛路線もアリだし、今のうちに外堀を埋めとくってのもアリかな??


「マリヴェラ殿」


「おほう!」


 妄想に浸っていたら、いつの間にかムーア王の怜悧そうな眼差しが俺の目の前にあった。


「いや失礼……。あなたがマリヴェラ殿で間違いないですか?」


 ん?


 変な事を訊く。


「ええ。間違いないですかって、他にマリヴェラなんて変な名前の人なんていませんよね?」


「それなら良いのですが。確かに、魔王様のお供をされているのなら、間違いないのでしょうが」


「まあ、見た目も能力も2年前からは全然違いますからね。キンキラの可愛い子からお淑やかな子になってるし……」


 ムーアが苦笑した。


「いえ、勿論、神族の方々が容姿を変えるのは

 良くある事と聞き及んでおりますので。

 しかし、今回はそうでは無いのです。

 むしろ、魔王様とマリヴェラ殿がお越しなのは、

 我が孫の事よりもあの件でいらしたのだと思っていたのですが」


「あの件?」


「ええ。現在、西の大陸の南西部、マグヘイレンより南の地域で、

 『ナカムラ』と名乗る炎の鬼神が猛威を振るっているのです。

 噂では『マリヴェラ』とも名乗っているとか」


「は……はあぁ?」


 な……なんだってー?!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ