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2-D100-11 船の神3 『船の神』

ナルコーに赴きユキを探す決意をした『船の神』マリヴェラ。

大きな怪我の為に動けない盟友クーコを回復させた。

準備はよし。

マリヴェラが用意したスループ船に、本人とクーコ、それに何故か魔王の三人が乗り、順調にイルトゥリルを出航したのであったが――――?!



 善は急げと言う。

 翌日、日が昇ると共に早速出発だ。


 港に停泊しているのは、ミュリエル号と瓜二つのスループ船である。

 大人数で行くわけでもないし、小さい方が取り回しが楽だからだ。


 船上で待ち構えていた俺に、ユウカら見送りの連中と一緒に来たクーコが言った。


「あら? マリさん、乗組員は? 艦長は誰がするの?」


 自分の荷物を背負ったクーコは、甲板に飛び移るときょきょろと周りを見回している。

 そりゃ疑問だろう。

 桟橋にはユウカら数人の見送りは居るものの、船には俺とクーコ、それに既に乗船してキャビンに居る魔王しか乗っていない。


「ロジャースも風間も任務でいないしね。だからこのままいくのさ!」


 ドッキリ大作戦である。

 俺が『船の女神』だとは、ユウカには言ってあったのだが、クーコにはまだだ。


「じゃ、行ってくるぜ!」


 と、ユウカたちに手を振った。


「マリさん、クーコさん、お気をつけて」


「おう!」


「姫様、ユウカ様、行ってまいります!」


 桟橋から(もや)い綱が解き放たれると、船は滑らかな港内の海面を、スルスルと滑り出した。


「え? 何? 勝手に帆が上がって……!」


 見送りに手を振っていたクーコが、驚いている。

 猫目の瞳孔が思いっきり開いてるもんな。


「え? 水兵さんは? 何これ?」


 その間にも、船の帆は勝手に上がる。

 索具は透明人間が多数いるかのように引き込まれ、巻きつき、固定された。

 帆は朝の風を捉え、独りでに回っていた舵輪も、ほとんど動かなくなった。


 俺はクーコの半ばうろたえる姿に、ニヤニヤして見せているだけだった。 

 そうこうしているうちに「ミュリエルⅡ号」は港を抜け、あっという間に沖へ到達した。


 クーコはまだ何が起こっているのか信じられないようだ。

 目を見開いて、勝手に動く索具や舵輪を睨んでいる。

 やがて彼女は俺に向けて両手を上げた。


「降参。何がどうなっているのかまるで分らないわ。どういう仕組みなの?」


「えへへ。すげーだろ。俺、今回は『船の神』になったんだよね」


「『船の神』?」


「そそ。船玉様なんて目じゃねーぞ! この船、俺その物なんだぜ!」


 そう。これが「船の神」の変化体なワケ。


 全部試したわけじゃないけれど、多分俺が人生で乗った事のある船全てに変身できる面白能力だ。

 しかも操船だって半自動だし、進路変更だってちょっと考えるだけでオッケーさ!


 ただね、もし船の事を全く知らない人が『船の神』になったとしたら、一から勉強しなきゃいけなかったはず。

 それとも、呼びかけても出てこないけれど『オレサマ』のような『チュートリアル』が存在していてそういう人をサポートするのかしら?


 クーコは軽く頷いて難しい顔をした。


「へえ……。と言う事は、ここ、マリさんの体内って訳? 気味が悪いわね」


「し、失礼な!」


「確かに船としてはスピードが有るけど、もしかして『風化』や『水化』して進んだ方が速くない?」


「仰る通りです。ロンドールに来る時には『水化』使ってました。すみません」


「あの『金の雨』と同じ理屈よね。それじゃ、この船とマリさんは離れ離れになれないって事?」


「仰る通りです。精々100メートルまでしか離れられません。すみません」


「物資だって、大量でなければ収納魔法が有るし……」


「仰る通りです。でも、俺のパンドラボックスの容量が減ってしまっていますので、物資はこれで運ばないといけないんです。その点は勘弁してください。すみません」


「メリットって、有る? マリさんの趣味だけ? ……強いて言えば、大勢を迅速に移動させるなら……か」


「流石ご明察でございます。クーコ様」


 一で十を知る子はこれだから……。

 ドヤ顔で解説させてくれよ。


 久しぶりの船旅だというのに、思いっきりテンションが下がってしまった。


 仕方がないので、魔王に挨拶。


 ナンで魔王がこの船に乗り込んだのか、そもそもナンで未だにロンドールに居たのかは魔王が何も言わないので分からない。

 明け方に港で準備していたら、何処からともなく現れやがったのだ。

 堂々とキャビンを占領して、自分で持ち込んだ茶器でお茶を飲んで寛いでいる。


「魔王様。改めてご挨拶を。ご無沙汰しておりました。その節は有難うございました」


 感謝したのは、今のこの世界が「俺へのご褒美で存在することになった」世界だからだ。

 言うなればこの世界の創造主だ。

 魔王は昔と変わらず、相変わらず奇抜な衣装とピンクの茶筅結び。

 重々しく頷いた。


「うむ。……礼は無用。しかし、中々奇妙な神族となったようだな。貴様らしいといえばらしい」


「はい」


「『船の神』か。それでこの船と?」


「はい」


「たわけ。遅い。もっと速度を上げよ」


「畏まりました」


「下がれ」


「はっ」


 俺はキャビンから追い出されたのであった。


 ( ゜д゜)、ペッ



――――



 行先は祥州。


 西の大陸ナルコーの北部に位置する国である。


 王は狐の系統の『神獣人』。

 ユキの母親は、その一族であったのだ。


 彼女は何を思ったのか、内海を遍歴して廻り、ある時にワクワク王国の王と子供を作った。

 それがユキだ。


 その後、ユキの母親はワクワクを去ったのだが、丁度俺がこの世界を去った直後に彼女が祥州に居ると判明、何度か便りを交わし、その上でユキが祥州を訪ねる事になったのだそうな。


 ユキとクーコ、随行の数人は、スループに乗って西の大陸の北東に位置するコバルトという国に上陸、陸路を2日進んだ地点で襲われたらしい。


 相手は軍隊、しかも妖魔や亜人で構成された中隊規模であり、逃げる事すら難しかったと言う。

 実際、攫われたユキの他は、逃げ伸びたのはクーコだけだった。


 ホント、良くクーコは逃げられたよな……。


 軍隊は、ユキ以外には目もくれず、随行員は切り捨てだったらしい。

 つまり、軍の目的はユキの略取。

 とは言え、それがどこの軍かは全く分からないという。

 紋章などは一つもついていなかったのだそうだ。


 俺は頭を掻いた。

 手がかりが少なすぎる。


 第一、ユキを誘拐したならば、ロンドールに身代金の要求なんかが有ってもいいのに、それも無い。


 となれば、ユキの母親がらみだよなあ。

 何にせよ祥州へ行かねばなるまい。


 コバルトまでは海路3000キロメートル超。

 ミュリエルⅡ号は飛ぶように走り、4日かけて「無事」走破したのであった。



――――



 船の女神様も万能では無いのですよ。

 いや、むしろゴミですから。

 マジゴミ。ほんとゴミ。


 属性の月と日の値が余り高くない屑なので、生意気にも一日あたり数時間は眠らなくてはいけないのですな。

 大間抜けなんで、ソコんところすっかり忘れてたんですよ。

 それなのに、クソったれなミュリエルⅡ号の上でうっかり居眠りなんぞしたもんですから、どうなったと思います?

 すっぱりと船が消えてしまい、海に落下した魔王とクーコに殺されかけ……じゃない。


 「教育」されたりしたのですよ。


 有難いじゃありませんか。


 いやもう、それ以降の俺の社会的地位と言ったら、なんでしょうね、最低ですよね。

 もうカスですか。フナ虫ですか。


 大体さ、唯一ともいえる利点の「人員の大量高速輸送」ですら、俺が睡眠必須なんだとしたら、「沿岸航行」必須でかつ「休憩」必須なんだもん。


 普通の船に乗った方が良いよね? 

 そんで船に「憑依」して操っておけば良かったんだよね?

 やった事ないので検証要るけれど。

 でも、それが正解な気がしてならないんだよね。


 フナ虫並みの脳みそしかない大阿呆の俺が、何かを考えちゃいけなかったんですよ。

 頭の良いクーコさんに色々お伺い立てておけばよかったんですよ。


「マジバカでしょ。頭の中にフナ虫が詰まってるんじゃないの」


 と言う有難いお言葉も頂戴しました。

 座右の銘にしたいと思う金言ですよね?


 お陰で俺は、新たな身分相応の自己認識を得ることができたのです!

 目が覚めたような素晴らしい経験でした! 皆様もぜひ!


 ……と、このように、2人による罰というか調教の後遺症に苛まされながら、何とか乗り切った。

 いやあ、きつかった。


 空、自由に飛びたいよね(泣)



※ フナ虫 フナムシ。等脚目に属する甲殻類の一種。ワラジムシやダンゴムシの仲間。港や磯にいっぱいいるアレ。ちなみにマズいらしい。

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