2-D100-09 船の神1 ロンドール
ダニエルに話を聞いた『愛の神』マリヴェラ。ダニエルが語る「人魚族を狩り商品として輸出する」という極悪非道を成す者達を、必ず成敗すると誓ったのであった。
時は前後して。
ロンドールに1人の女の姿があった。
その女は港に立つと、懐かしそうに周囲を見渡した。
外海の西の海上、誰もいない無人島へと二度目の転生を果たした俺は、すぐさま懐かしきロンドールへと向かった。
満を持して取得した「言霊」の「操作」が非常に使い勝手の悪い「言霊」であったがために、狙っていた「万能神」とはなれなかったのだが、その代わり「船の女神」なるネタ女神に転生したのであった。
更に残念な事に、風属性も継続して空を飛べるほどには高くなく、やむを得ず「水化」を使い続けで何日もかかってようやく第二の故郷へとたどり着いたのだった。
ロンドールの首都イルトゥリルは寂れていた。
人の賑わいも無い。
少しでも繁栄の芽吹きを感じていた頃とは雲泥の差だ。
思わず泣きそうになる。
商用港のそばに上陸し「服を着ているように見える」姿に変身するという新技を使い、何食わぬ顔をして街に入った。
白いワンピース姿になったのだが、ある意味ストリーキングなんだよな。
ま、バレなきゃいいさ。
しかしざっと見て、1年以上は建物や施設の修復もメンテもしていないように見える。
それに、なんでまたフォルカーサ帝国の旗を揚げた軍艦が港にいくつもいるんだ?
いや、勿論ウチの旗を掲げた船の方が多いから、ロンドールが無くなったわけではないんだろうけど。
よし、兎に角ユキやユウカに会おう。
ていうか、会いたい!
知らず知らずのうちに、つい早足になる。
政府の入った建物に向かったが、その隣の「居酒屋マリ公」は閉まっていた。
閉まっているだけではなく、ここ最近開いていた形跡もない。
ユキとカミラだけでも運営できるように教え込んでいたんだけれど……非常に嫌な予感がする。
俺は政府庁舎へと入っていった。
――――
入り口では衛兵が2人立っていた。
2年前にも衛兵の仕事をしていた連中だ。少し安心した。
「いよう、コモネ! サクラカワ! 2年ぶり! 元気だった?」
と声をかけたが、2人は困惑した顔をしているだけだ。
駄目だなあ。
衛兵なら初見さんにはもっと厳しく当たらなきゃ。
俺がテロリストだったらどうすんの。
大体、今の俺はあの運命神の時とはまるで見た目が違う。
背丈は少し高くなった。
見た目に関して言うと、前回が小悪魔系だとすると、今回は大和撫子とでもいおうか。
若干ウェーブしたぬばたま色の髪は、腰まである。
うりざね顔に広い額、柳葉の眉。
目はパッチリしているものの、鼻は高くなく、口の造形も控えめだ。
昭和の日本美人って感じだね。
それなのに、コモネもサクラカワも、
「あ……もしかしてマリヴェラ様?!」
「おお、お、おーい! マリヴェラ様がお帰りなされたぞー!」
と気付きやがった。
ありゃあ?? 皆を驚かしてやろうと思ったのに。
つまんないの。
――――
直ぐに会えたのはユウカだけだった。
高揚したまま再会を喜んだのだったが、執務室でこの2年の話を聞くにつれ、俺の心も沈んでいった。
西の大陸の祥州に母がいると分かり、訪ねて行ったユキが襲われて行方不明。
随行したクーコも重傷で未だに出歩けない状態。
俺はそれだけでもう頭を抱えて何も言えなくなった。
「勿論、姉上の行方を捜すべく、冒険者を雇いましたが何も……。
何分資金も無く……。申し訳ありません」
「いや、謝る事じゃない。……フロインのおっさんは?」
フロインは悪魔族の乙種で、転生者である。
武装海運会社を乗っ取ってワクワク含め内海の覇権をとりかけたが、身内であるはずの帝国海軍に後ろから襲われて没落した男だ。
それを、俺が2年の契約で宰相として雇ったのだった。
「もちろんいましたよ。でも先日丁度2年が過ぎて契約が切れ、アレハンドロさん達と一緒に去りました」
「まあ、延長はしないだろうと思ってたけどな。しかし、フロインのおっさんが仕事してたって、その割にゃさびれてね?」
「いえ、マリさん。彼がいなかったら国は無くなっていたでしょう」
「ふうん。港に帝国の船が居るよね? アレのせい?」
「あっ、いえ、それもありますが……」
ウチの宗主国であるホーブロ王国も、予想通りっちゃなんだが分裂して抗争中なんだとか。
そこに付け入る形で帝国海軍がここに押し寄せ、不平等条約を結ばされたのだそうだ。
「ですので、今は逆にいい形とは言えない物の、安定はしています」
「……そうか」
俺はユウカの顔を見つめた。
両目の下にクマがある。
大人っぽくなったが、そういやこいつ、幾つだっけ? まだハタチ位だよな?
ユキもおらず、俺もいない中、孤軍奮闘だったわけだ。
「ユウカ、ちょっと立て」
「え? はい」
そんなユウカの前に俺も立つ。
俺自身、5センチメートル程背が伸びたが、こいつも少し伸びたな。
「2年間、良くやった。お前、最高の男だな」
と、強く抱いた。
「あ……」
何秒か経ち、背中をポンと一叩きして離れた。
こういうのをやりすぎると、冷やかしたり嫉妬したりするやつらがいるからな。
「……で、その姫様とオレサマは?」
「『で、その』って何ですか? 姫様なら軍港の監視を。オレサマさんは……」
ユウカが言いよどんだ。
「なんかあったのか?」
「数日前に、突然……どこかに行ってしまいました」
「おいおい。どこかってお前……」
「今の所、ホーブロへの定期船に乗った所までは確認できていますが……澪とカミラも一緒です」
「なんだ。カミラもいるのか。じゃあ、誘拐とかじゃないんだな?」
「はい。そのようです」
俺は首をひねった。
「処で、澪って誰だ?」
全く聞いた事の無い名前だ。
「私の子供です。……オレサマさんとの」
俺は目を丸くした。
「おま……子供? マジ?」
「マジですよ。女の子です。マリさんが居なくなってから直ぐできて……。
澪って名前は姫様が名付けてくださいました。
昔、姫様が名乗っていた事のある名前だそうですよ」
「へええ……」
まあ、俺が居なくなる前、ユウカとオレサマは付き合ってたようなもんだからな。
しかしオレサマは俺の一部と言える存在だったわけで、つまり俺とユウカとの子供でもあると……。
いや、その考えは忘れよう。
「いい名前じゃないか」
「ありがとうございます」
しかし、あのバカは何やってんだろうね。
数日前と言ったら、もしかして俺がこっちに来たのを察知したからか?
ありうるなー。
俺の一部だったのだから。
しかし何でだ?
俺と会うのが照れくさいってのは理由にならんよな?
コンコン、と執政室のドアがノックされた。
ユウカの返事も待たずにドアが開く。
そんな事をする者はイルトゥリルには1人しかいない。
「おー、ユウカ。で、そいつが……何だお主、本当にマリヴェラか? 今度は何だ?」
予想通りだ。
ミツチヒメ。
元ワクワクの守護神様。
転生者でもない生粋の海神姫。
って、おかしいな。
未だにちっこいままだ。
神族なんだから、ダメージを受けて縮んだのなら2年もすればもう少し成長……もとい、回復しててしかるべしなのに。
しかしそれは本人も気にしている筈なので口にしない。
「お久しぶりです。姫様。今回は船の女神です」
「ふむ。面妖な……」
と、ミツチヒメは俺の横に座った。
そこで、俺との視線がからんだ。
らしくも無く、ミツチヒメは顔を逸らし、うつむいた。
「久しぶりに会えて嬉しい。のだがな、合わせる顔も無いとも思ってる」
何とした事か、しおらしいミツチヒメだ。
胸がきゅんとなる。
俺はその横に居る神族を、上から身体をかぶせるように抱きしめた。
「そんなことありません。姫様もユウカも、皆できる事をしてくださいました」
「そうか、そう言ってくれるか」
「大体、俺があの隕石を完璧に抑えられていれば、2年のブランクを作らずに済んだのですから」
それは事実だ。
想定していた最高の結果は「隕石をこの星の内部に送り込み、俺自身は生還する」だったのだ。
前半については大成功だったのだが、後半に関しては残念ながら失敗した。
とは言え、後で魔王から聞いた条件を聞くに、とてもじゃないがぶっつけ本番で出来るような条件では無かったのだ。
しかしミツチヒメが聞きとがめた。
「なぬ? そうなのか? お主が悪いと?」
「え、いや、そこまでは……」
「ふむふむそうか、お主のせいか。ならばお主が何とかせよ」
ユウカがニヤニヤ笑っている。
「やる事がありすぎですよね」
「ああ、しょうがないね……あの姫様、痛いんで頬っぺた抓るのやめてくださいませんか?」
☆が有るので押してください。m(__)m
このへん。あ、もうちょい下。
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