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2-D100-07 愛の神7 香織

愛の神マリヴェラの分身、チュートリアル人格である『ありんす』は、圧倒的な攻撃力で二頭の甲種を一蹴した。

ダニエルの船団ウイング オブ ヒュブリスを救ったマリヴェラは、ダニエルに報酬を要求したのだった。

 

 ひとまず、2つ目の報酬の可否は後回しにして、一番重要な報酬を頂く事にした。


 「最下層甲板の部屋に閉じ込められている人魚の身柄」


 である。


 沙織によれば妹の香織であるという。


「アンタ、人魚一匹で得られる報酬、何億円だと思ってるんだ?」


 などとブツブツ言うダニエルの顔は引きつっていたが、副官に「キャビンまで連れてくるよう」命じた。


 少しして、副官が一人の女性を連れてきた。

 沙織とよく似たエメラルドブルーの長い髪の毛。

 お転婆な沙織と違い、若干垂れ目で挙動の端々に上品さが垣間見れる。


 ……この娘が香織なんだろう。


 ただ、シーツにくるまれた今は、怯えた目で俺達を見るだけだ。

 シーツからはみ出る白い肌の手足には、ミミズ腫れや擦り傷が見受けられる。


 俺がダニエルを見ると、彼は頷いた。

 俺は香織に優しく問いかけた。


「香織さん、だね?」


 香織は微かに頷いた。


「今から君は俺のモノだ。俺の名はナカムラ」


 香織の目がまん丸に見開かれた。

 そこで思わぬ横やりが入った。


「船長。この人魚をこの女男に渡すのは反対です」


 副官だった。


 ちょっと驚いた。

 初めから俺に対して余り良い感情を持っていなかったが、こう来るか?


 ダニエルが尋ねた。


「何故かね?」


「人魚は貴重な商品です。取引できる金貨よりも、です」


「そうかね。しかし、ナカムラ殿のお陰で、我らは我らの命を拾った。確かに痛いが、ワシは対価として妥当だと思う」


 と、ダニエルは俺の方を見た。


「それに、この取引でワシらはもしかしたら更に得る物が有るかもしれんしな」


 うんうん。


 俺といると色々面倒毎に巻きこまれて、人生の経験値が爆上がりするかもしれないもんな。

 苦労は買ってでもしろっていうじゃん?


「それに、だ。副官よ。その貴重な商品を毎日非直の時間に思いのままにしておる不届き者がいる」


 副官の身体がぶるっと震えた。


「ワシは知っているぞ。そろそろ懲罰を与えんといかんと思って居った。

 船団合流まで待つ……つもりだったのだがな」


「いえ! 濡れ衣です! そんな事、自分は全くしておりません!」


「自ら最下層甲板の部屋へ行くか、それとも……」


 副官の手が動いた。


「きゃあ!」


 副官は左手で香織の身体を抱え、右手でナイフを取り出し、香織につきつけた。


「クソ、ジジイめ。お前ら動くな! この女は俺の嫁だ! 俺の嫁だ!!」


 もう目の色がおかしい。


 芽生えてしまった愛ゆえか、いやむしろ独占欲のなせる業か。


 ダニエルが頭を振って大きなため息をついた。


「ナカムラ殿にはまた借りを作ってしまうなあ」


「困ったもんですね」


 俺もダニエルも、全く動じない。

 そりゃそうだ。

 このバカの存在なんて、甲種に比べればナンて事は無いのだ。


 所で、ここで俺が使いたい技はもう決まっていた。

 ネタ的にも効果の面でも素晴らしい結果となる筈だ。

 その為に、火属性のエネルギーを体内で練っている。

 大体、着物姿なので動きたくないんだよね。


 俺は副官に視線を向けた。

 先ずはあのナイフを持つ手からだ。


 3……2……1。


 食らえ!


 シュゴァァァ!


「うぎゃあっ」


 出来た! 目からビーーーム!!!


 口から怪光線! 目からビーム!

 これで俺には死角が無くなったぜ!


 転がったナイフはジムが拾った。

 悲鳴を聞きつけて、乗組員が駆け付けた。


「何事ですか船長!」


「ああ、大したことは無い。お前ら、副官……いや、元副官を最下層甲板の部屋へ。

 反抗の罪だ。厳重に見張りを付けよ。

 それに従って、次席士官を副長へと昇格させる。

 命令は現時刻を持って効力を持つ。

 航海日誌にも記入される」


「え……あ、アイアイサー!」


 騒ぎがようやく収まった。

 香織がその場にくたくたと崩れ落ちた。


 ここで『ありんす』が出動した。


 『ありんす』は香織を優しく助け起こすと、全く熱のない幻影の炎で包み込んだ。


 ……成程、コレがこの「愛の神」の化身なのか。


 幻影の炎は香織の全身を舐めるように広がり、体内にまで及んで行った。

 つまり、あの「金の雨」と似たような事ができるのだと、『ありんす』はやって見せてくれているのだ。

 そして超高聖属性でもって使用される「ヒール」と「なおす」の回復系最強コンボ。


「……『愛の炎』でありんす」


 『ありんす』が呟いた。


(なあ、コレ、精神的な傷には効かないんだろう?)


「あい。しかし、それをこゆるものを与えんす」


(超える?)


 そこで『ありんす』は引っ込んだ。

 ホント内気な性格だよな。


 香織が目を開けた。


「大丈夫か? 香織さん」


「……はい」


「良かった。近くでお姉さんが待ってるよ」


「姉が?!」


「俺は沙織の知り合いでね」


 本当は主君様と下僕なんだけどな。

 こういうのを優しい嘘って言うんだろ?


「ダニエルさん、ちょっと香織さんを外まで送ってきます」


「どうぞ、好きにしたらいい」



――――



 香織は海中へと戻り、その後沙織と合流したようだ。

 ようだ、というのも、俺は直ぐにキャビンへと戻ったからだ。

 その頃には、島の錨泊地周辺の調査報告がぼちぼち上がってきていたのである。


 生存者は発見できなかった。

 甲種だけではなく、肉食の大型鳥類や普通の海棲魔獣らが、すっかりきれいにしてしまったらしい。

 島へも上陸して捜索したが、徒労に終わった。

 ただ、レジスタンス号は錨泊地で錨を下している最中に襲われたらしく、破砕された船体の多くは、水深の浅い海底で主に俺によって発見された。


 残骸を見つけて何の意味があるのかって?

 お得意のサルベージだ。

 何を?

 甲種が見向きもしなかった、大砲や武器その他をだ。

 推測通り、ダニエルにとって大砲は帝国からの預かりモノだったのだ。

 一基で船一艘買えてしまう代物を、「沈没しました」で失って済むわけがない。


 レジスタンス号が積んでいた大砲は、6基。

 他にも、マスケット銃や細々したものを合わせてリヴェンジ号とカウンター号へと戻したのであった。


 かかった時間は、丸一日。

 着実に「貸し」が増えてゆくのであった。



――――



 真夜中のキャビン。


 ダニエルのおっさんは仏頂面だ。

 自分で物事をコントロールできない事が度重なっているからだろう。

 島の近くで獲れた『アザラシのような動物』のステーキをナイフで切り、口に放り込んではラム酒で流し込んでいる。


「どうしてもご一緒に」


 とダニエルが言うので、俺もご相伴に預かっているのだが……。


 肉、硬くね?

 

 靴底食ってるんじゃないんだから。

 もしかして、それがわかっていて俺に食わせてるんじゃないのか??


 ま……それは置いておこう。

 ナイフとフォークを置いたダニエルが質問してきた。


「それで、2つ目の報酬は決まりましたかね?」


「あ、オッケーなんだ」


 ダニエルが口をへの字にして首を振った。


「ここまでされて、嫌とは言えませんな」


「えへへ、悪いねえ」


「ですがね、非常に悪い予感がしますな」


「そう? 俺、物欲ないし」


「だからこそなんですがね」


 俺は心中ニヤニヤが止まらない。

 無理やり顔を「ニヤニヤしていない」ように見せているだけで。


 しかし、これからするつもりの事に関しては笑っていられない。


「その前に、人魚狩りについて聞きたいんだよね」


「……特に、あんたに言えることは無いのだがな。

 探し、見つけ、捕える、だ。

 装備は確かに普通では手に入らない物をそろえているが、それだけだ」


 装備ねえ。

 確かに、水中を自由に動ける人魚族を捕える事の出来るノウハウと装備は、ちょっと知っておきたいとは思う、が。


「いや、俺が聞きたいのはその先の事さ」


「先?」


「捕えた人魚をどうするのか。

 誰に渡し、そいつがどう管理して、どのような方法でどんな連中に売っているのか、だ」


 ダニエルが天井を仰いだ。


「あんた、何をしでかすつもりだ?」


「多分、船長の想像通りだぜ?」


「最悪だな」


「んで、どうなんだ?」


「そうだな……、ジム、皿を片付けてくれ」


 ジムがキッチンからキャビンへ入ってきて、食卓の上を片付けた。

 ダニエルは暫く何事か考えていたが、やがてぽつりぽつりと話し出した。


「……この後船団が目指すのは、西の大陸ナルコー。

 ま、それは内海から言えば、の話で、当然ここから見れば東だな。

 それで、マグヘイレンの南に、その属国でヘルザーツと言う国がある。

 今ワシらが目指しているのもそこだ」


「知らない国だね」


「まあ、小さいしな。人狼族が治める国さ。

 元々は鉱物を産出するだけの貧しい国だったが、

 輸出先のフォルカーサが人魚族の身柄を多数求めるようになって、

 そっちの仕事に精を出し始めたってわけだ」


「ふうん。そんなに金になるの?」


「ああ、さっきアンタが貰い受けた1匹だけで、

 5億円以上になる。

 人魚族を捕まえて来いって依頼は、昔からたまに

 あった程度だったのだが、

 この2年で帝国の王族や貴族達が目の色変えて求めるようになってな。

 それで、普段は魔獣狩りをしているワシらに

 常時人魚を探せという命令が下ったと言う訳だな」


「はあ。すげえな。でも、それって不老長寿の霊薬として求めているんでしょ?

 人魚の肉を食ってもそうはならず、単に伝説でしかないんだから、

 金払いのいい間抜けってやつだよな」


 ダニエルが不意に俺の目を覗き込んだ。


「……確かに、人魚の肉を食っても何も起こらない。

 が、我らが皇帝陛下は、既に100歳超えているんだぞ?

 あっちの方だって、未だお盛んだって言うじゃないか。

 その取り巻きの貴族連中だって、大体は長寿を保っている。

 アンタはどう思うね?」


「どうって……。ただの偶然か、妖精の血が混じってるとか、

 そういう魔法道具があるとかじゃないの?」


「有るかもしれん。しかしワシの考えでは、

 何かの工夫次第で、人魚の肉は人間の不老長寿に……なるとは言わないまでも、

 何らかの利益をもたらすのではないか、と思って居る」


「まさか」


 万が一、そういう外法が有ったとしても、

 たかが人間が、エルフや神族からすれば少しばかりの寿命を多く得る為だけに、人魚族を狩りつくすなんてあっちゃいけない。


 俺の意志は固まった。


「分かった。目的はどうあれ、人魚族を欲する連中がいる訳だ。

 ならば俺はそいつらを狩って、もし生きている人魚族がいるなら、解放する」


 ダニエルが再び薄暗い天井を仰いだ。


「やっぱりか。悪い事は言わん。やめておけ。

 人魚狩りに関与しているのは、帝国やヘルザーツだけではないんだぞ?

 ウチも魚人の仕入れ先はマグヘイレンだし……」


「ふん、勿論先ずは『話し合い』さ。平和的にいかなきゃね。

 でも、『話し合い』に応じなければ、誰がどうなろうと関係ないね」


「最悪だ……」


 俺は笑顔になった。


「最悪? 全然じゃん。最悪なのはここからじゃないか」


「もう聞く気にもなれん」


「まあ、そう言わずに。報酬の2つ目、決定した内容を教えてあげる。

 『今から1か月間、アンタらは俺に雇われる。給料は後払いな!』」


 ダニエルが天井を見上げた。3度目だ。


 クックック。このおっさん、よっぽど天井が好きなんだな~。



ちょっとお兄さん!

おやいい男だねえ。

あの俳優さんに似てるんじゃないかい?

ほら、名前なんて言ったっけね?

まあいいか。

さあさ、ちょっとでも「イイ!」と思ったなら、この下で☆入れておくれな!

感想も待ってるからさ!

はーい! 一名様ご案内だよ~!

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