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2-D100-02 愛の神2 ガレオン

前回転生した際には、イケメンロジャース艦長のスパロー号と運命の出会いをしたマリヴェラ。

今度も転生後すぐに、ガレオンと言う少しオールドスクールな帆船と出会うのだが?!


 俺は門を抜け、数メートル落下し、華麗に着地した。

 5.9点位はもらってもいいだろう。


 『転生の門』は、俺の背後ですぐに消えた。

 俺は深呼吸して、辺りを見回す。

 そこは大きなサンゴ環礁にある島の一つだった。

 灼熱の太陽、雲一つ無い青い空。

 エメラルドブルーの海。

 ヤシの木の生えた白い砂浜。


 そして怪魚人の群れ。


 真夏の無人島の素晴らしい風景が、全て台無しである。


 そいつらは、


「ぎょぎょ! ぎょぎょお!」


 等と口々に喚いている。

 半裸の肉体は赤銅色に焼けた人間なのだが、首から上が魚なのだ。

 首の上に、鯛やサバ、タコ等が無造作に乗っかっている。

 

 かなりふざけた造形だ。

 

 タコなんかは某神話のキャラに似て居なくはないが、何か邪悪な力を有しているようには見えない。

 どう思い返しても、「アンガーワールド」にはこういう種族はいないはずだ。

 何処かのアホGMか、この世界のマッドマジシャンが作ったに相違ない。


「ぎょぎょ!」


「ぎょぎょぎょ!!」


 怪魚人たちが一斉に声を上げると、ヤシの木の下で寝ころんでいた背の低い男が腰を上げた。


 「言霊」の「知る」はほぼ自動で継続されている。

 それによると、その男の名は「ダニエル」という。

 普通の人間だ。


 年齢は40歳程だろう。

 日焼けと顔に刻まれた皺、白いものが混じった髭のせいで、パッと見はもっと年を取っているように見える。


 頭にはテンガロンハット。そして古びた黒い吊りズボンと白いシャツを着ている。

 どれも古びてはいるが、不潔ではない。

 蓄えたひげに埋もれた口に使い古したパイプを突っ込み、煙を漂わせている。


 ダニエルは俺の身体を舐めるように上から下へと、下から上へ眺めた。

 言うまでもなく俺は全裸であり、巨乳とまでは言わないが形のいい胸を隠すこともしていない。


「おう、お嬢さん。ようやく出てきおったな。ワシの名はダニエル」


 彼は本名を名乗った。

 ちょっと意外だった。

 海賊なんじゃないかと思ってたからだ。

 普通、本名で活動する海賊なんていない。


 俺は会釈を返し、本名の方を名乗った。


「ナカムラです」


「ナカムラさん、だね? うむ、怖がらなくていい。

 こいつらは変わった格好をしているが、ワシの命令が無ければ何もしない」


 つまり、命令が有れば一斉に襲ってくるわけだ。

 ダニエルはパイプを持つ手で、礁湖に停泊している船を指した。


「あれがワシの船。リヴェンジ号だ」


 それはガレオンだった。

 俺も視界の端に居るそれが気になっていたのだ。

 ガレオンは、スマートなスパロー号と比べると、ゴツく、ふっくらした船体を持っている。

 全長約40メートル弱。


 今は錨泊しているので全ての帆を畳んでいるが、三本マストの帆船で、基本横帆だけの艤装である。

 唯一、一番後ろのミズンマストのみ、ドライバーと呼ばれるガフセイルが取り付けられているようだ。


 甲板の上には、船首楼と船尾楼がそれぞれ建っていた。

 その点も、スパロー号とは全く違う。

 スパロー号の場合は、一応艦尾甲板はあったものの、横から見る限りではほぼ平坦な甲板なのであった。


 スパロー号が大体19世紀前半に使用された後期型のスクーナーに属するのに対し、あの種のガレオンが使用されたのは、精々18世紀までである。

 この世界の帆船事情から見ても、ガレオンは時代遅れの船と言わざるを得ない。


 石巻市に「サン・ファン・バウティスタ号」というガレオンのレプリカがある。

 もし機会が有れば、ご覧いただきたい。

 ガレオンがどういう船なのかがわかるであろう。

 ただし、現在は乗船見学をできない状況となっているらしい。

(2019年8月現在。資料館やVR見学は可能です。行きたい……)

 ※後書きに続報アリ

 

 ダニエルが続けた。

「あんた、状況は分かっておるか?

 恐らくだが、あんたはあんたが住んでいた世界から、違う世界へ来てしまったのだよ」


 そして、パイプを持った右手を横に振った。


「御覧の通り、ここは無人島だ。

 しかも、周辺にはだれも住んではおらぬ。

 あんたは運が良かったな。

 少なくとも、ワシが人間のいる場所まで送って行ってやれる」


 俺はただ頷く。

 確かに、サイコロの出目によって普通の種族として転生してきた場合、ここで飢え死にしかねなかった。

 しかし、この男が言う「人間の居る場所」に送ってもらったとして、それが幸運かどうかは判らないよな。

 そこがフォルカーサ帝国だったりしたら目も当てられない。ネジとして生きるが如く、一生搾取されて終わるだけだ。


 「知る」によると、ここは北緯10度、西経100度の地点。


 この世界の大陸の配置は、概ね現世と似ている。

 大雑把に言うと、ここはメキシコ南岸沖だ。グアテマラ南西でもいい。

 この世界で言うと「西の大陸『ナルコー』の西岸沖」となる。

 あの危険だと恐れられる外海の真っただ中だ。


 ナルコーに覇を唱えているのは魔人や神族、それに亜人たち。

 人間もいるモノの、下級階層か奴隷身分でしかない。

 そういう場所なのである。


 今の俺は空を飛べる……はず。

 風属性値が18あるからだ。

 おさらいすると、属性値は、10まで達すると「無効」、12は「同化」、14は「操作」、16は「吸収」、18に達すると「神化」という効果がつく。

 簡単に言うと「風になれる」のだ

 あのエルフの公爵様グリーンや、ヴァンパイア提督クローリスが空を飛んでいるのを見て、いつも羨ましいと思っていたのだが、俺もその能力を手に入れたと思われる。


 そうだな。


 どれ位のスピードを出せるかにもよるけれど、俺の国「ロンドール侯爵領首都イルトゥリル」までは、偏西風も加味すると、ぶっ続けで飛んで1日か2日程度で帰れるだろう。


 直ぐに帰りたいが……。


 いや、ていうか、あのガレオン乗ってみたい。

 現役のガレオンだぜ?


 結局好奇心が勝り、ダニエルについてゆく事にした。



――――――



 ダニエルや怪魚人らと共に、ボートでリヴェンジ号に渡った。


 怪魚人らはアホな見てくれに反し、ボートのオールをきちんと操った。

 訓練次第で、操船位なら問題無くこなせるのかもしれない。


 ボートがガレオンの舷側に横付けし、上からバラバラっと縄梯子が下りて来た。

 俺は促され、登った。


 甲板に降りたつと、更に大勢の怪魚人と20名弱の人間が俺を出迎えた。


 怪魚人はやはり、俺を見ても何も感じていないようだ。

 人間はそうでもない。

 俺の姿に目が釘付けになっている者もいるし、下品な笑いを仲間と交し合っている連中もいる。


 まあ、当然といえば当然だ。

 むさい男所帯の中に、裸の超絶美女がやって来たのだから。


 彼らはそれでも、ダニエルが登って来たのを見ると、態度を変えてパシッと敬礼をした。


 俺は構わず、ガレオンの船上を見回した。


 この「リヴェンジ号」と名付けられたガレオンは、スクーナーなどよりも幅が広く、ずんぐりしている。

 船首楼と船尾楼とが、まるで家屋の様に聳え、前後の視界を遮っている。

 船の中央に立っていると、前も後ろも碌に海が見えない。


 こういったガレオンは空力や重心に問題があって、船首楼や船尾楼を取り外したら取り扱いやすくなったって話があるけれど、さもありなんである。


 上を見上げると、巨大なマスト、ヤードが聳え、畳まれた帆や索具がひしめき合っている。

 マストの上部には、スクーナーの物などとは比べ物にならないほどの大きさの見張り台が据え付けてあり、船と言うよりも、巨大な建築物の中にいるかのような錯覚に陥る。


「よし、お前ら!任務に戻れや!」


 とダニエルが叫ぶと、乗組員が一斉に「イエス、サー!」と答えた。

 ただし、怪魚人たちは「ぎょ!」と言っただけだ。


 船が錨を上げて展帆する間、俺はダニエルに手招かれ、キャビンに向かった。



※続報。2021年3月に一旦解体が決まったそうです。産経新聞より。

存続してくれたらいいなあ。でもお金も技術も不足だそうで……。


再開直後からPV多い! ブクマもしていただきまして感謝感激。ありがとうございます!

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