2-D100-01 愛の神1 再誕
巨大隕石回避と引き換えに命を落としたかに思われた運命神マリヴェラこと中村賢。
所が彼は死んでいなかった――――。
そして2年後の現実世界。
彼は今度こそ晴れて死んだのであった。
俺はまたしても、あの懐かしき暗闇の中に居た。
何かの間違いかと四方を見回したが、有るのはすぐそこで光るサイコロ3つだけ。
あーあ。
ナンだよ。
これはアレか。
また死んだか。
昨晩、普通に飯食ってテレビ見て寝たじゃんかよ。
あ、いや、「また」は正確じゃないな。
前回は車にはねられて死線をさまよったモノの、ギリセーフだった。
しかし、だ。
あの胡散臭い魔王ちゃんは「適当に死んで来い」と言ってたけど、早くね?
まだ2年しか経ってねえぞ?
俺はため息をついた。
ま、良いか。
ユキやユウカの事が気になっていたのも確かだ。
死体がチーズ状になる前に見つかってくれれば、思い残すことはないや。
ナムアミダブツ!
早速、3つの六面体のサイコロの上方に、カウントダウンの数字が光り出した。
はいはい。
種族決定のサイコロですよね。振らせていただきますよ。
でもね、その前にやる事が。
俺は大声で叫んだ。
「魂に『言霊』『操作』を刻む!」
即座に俺の中の何処かに変化が有った。
これで良し。
「言霊」ってのは、そこらのラノベに於ける「スキル」のようなモノと思ってもらっていい。
とは言え、まだこの時点では、種族決定もしていない俺が有する「言霊」スロットは1つしかないのだ。
この辺りの微妙なルールの知識は、大怪我で動けない間に、例のテーブルトークロールプレイングゲーム(以下TPRG)「アンガーワールド」のリプレイ集を読み漁って得た成果である。
転生後の世界は、そのTRPGの世界に良く似ている。
地理や国の配置はもちろん、魔法もそうだし、「言霊」の存在もそう。
この世界を創造した魔王が「そうした」のだから、そうなんだとしか言えない。
で、「操作」と言う名の「言霊」。
これにより、俺はこの「アンガーワールド」に於いてあらゆる場面で行われていると思われる、サイコロによる判定の目を自由に「操作」できるようになった!
……はず!
もう無敵確定。
生じる判定全てで「完全成功」しか生じなくなるもんな。
何もかもうまく行き過ぎて、生きるのが退屈になったらどうしよう?
俺は暗闇で身体をクネクネさせた。
おっと。サイコロのカウントダウンが進んでいる。
では、お待ちかねといこう。
「6のゾロ目になーれ!!」
俺は祈りつつ、サイコロを地面に放った。
カラカラっと乾いた音を立て、3つのサイコロは踊り、止まった。
6が3つ。
ガッツポーズ!
よしよし、よーし! 予定通り!!
これで種族は神族に確定!
次いで、十面体のサイコロ2つが現れた。
いわゆる「D100」である。
1つが十の位、もう1つが一の位を決定する。
ゼロが2つ出たら、それは100を表現するのだ。
今度のサイコロは、神族の「系統」を決定する。
「火の神」とか、「死神」だとか、そういうのだ。
前回は9と6の出目で、「運命神♀」と言う結果だった。
今回目指すのは、1か100。
ずばり万能神だ。
1が♂、100は♀となる。
この「アンガーワールド」では、万能神と言えども無敵では無い。
とはいえ、プレイヤーがなる事のできる最強の存在ではある。
だからこそ、GMはそういう存在を嫌うのだ。
逆に「おいしい役回りの神族」は、何と言っても性愛の神と貧乏神。次点で運命神だ。
そんなのがパーティに居ると想像してみて欲しい。
18禁シナリオ製造マシンと貧乏神とトラブルメーカーだ。
「じゃあ振るか……1か100になあれ!!」
カツン、コロコロ……。
1と2だ!
合わせて12!
12?
は? 12?
出目を二度見した俺は固まった。
何で?
あ?
「1か100」なんて言ったからか?
嘘だろ?
無し! 無し!!
今のチャイ!!!
振りなおそうとサイコロに手を伸ばしたが、サイコロは無情にも闇に溶け込んで消えた。
12だと……?
うっそ……マジ?
偶数=女子なのはもう慣れてるし良いとして……。
TSって最近業界じゃ流行りらしいしな。
ナンなら百合路線でもいい。
尊いよな。
しかし、12って何の神だ?
やめろ~。
貧乏神とかもっての他だし、牛の神とか微妙なのも嫌だ。
そう言えば決定テーブルには、何でか知らんがトイレの神ってのもあったよな……。
頭を抱えていた俺の頭上の一点が赤く燃え始めた。
濃厚な炎はゆっくりと渦巻き、まるで生き物の様に宙を舞った。
やがて炎は音も無く降り立ち、俺の目の前で人の形をとった。
背の高い、黒と赤の入り混じった色の髪を持つ女。
その髪は、赤く光る不思議な残像を闇に描き、風も無いのにひとりでにさらさらと靡いた。
見開いた切れ長の目で光る瞳が、炎よりも赤く光っている。
筆でさっと描いたような眉毛は、少々怒っているかのよう。
人によっては、美しい彼女の顔を「険が有る」とも形容するだろう。
前回の運命神の時は「可愛い小悪魔系(自称)」だったのだが、コイツは全くの逆の雰囲気を持っている。
体つきもそう。
すげえナイスバディだ。
ツルペタのミツチヒメや、まな板のユキらが絶対に嫉妬するやつね。
いやあ、いい女だな~。
背中には、申し訳程度の一対の羽がついていた。
まるでおもちゃの天使の羽みたいである。
なるほど。
で、こいつは俺ってわけだ。
何の神だろうか?
流石に系統決定テーブルの全て迄記憶しちゃあいない。
幸い、どう見ても貧乏神には見えない。
賽の目からして運命神でもない。
あの炎は、この神族の象徴であり化身なはずだ。
炎の神だろうか?
もしそうなら、変な設定もないはずだからネタキャラにならずに済む。
女が姿を消した。
俺が自分の身体を見ると、あのナイスバディが正に俺の身体となって暗闇に浮かんでいる。
暗視能力が有るので見える事は見えるのではあるが、はっきり見えるとは言えぬ。
ただ、髪や皮膚の表面がうっすらと赤い光を発し、残像をも残している。
他の者がこれを見たら、さぞや美しく、また不気味な光景なのではないか。
運命神の時にも慣れるまでに時間がかかったのだが、今回も同じだろう。
今回は特に、下を見る時に。
乳が邪魔して足元が見えにくいんだよな。
空中には、いつの間にか6面体のサイコロが2つ出現していた。
その上には、「月」の文字が輝く。
このキャラメイク作業が当面続くことになる。
気になる事が有った。
何故さっき、「言霊」の「操作」が効かなかったのだろう?
一度目の種族決定時には、ちゃんと6のゾロ目が出たというのに。
目論見通りに全部が全部6のゾロ目にはならんのか?
俺はサイコロに手を伸ばし、掴んだ。
掌の中のサイコロの触感は、生暖かいガラスのようだ。
俺はギョッとした。
俺が見つめていた掌の横の空間に、文字が浮かんでいる。
『名称:マリヴェラ 種族:神族 系統:愛 性別:女』
勿論、その文字は現実に存在するのではなく、ホログラフィーのように、単に俺の視界に見えるだけ。
待て、それはどうでもいい。
これは「言霊」の1つ「知る」の効果が作用している状態だ。
前回取得して重宝した情報収集系「言霊」である。
今、俺が取得しているのは「操作」だけなはずだが?
「月」のカウントダウンが始まったので、止む無くサイコロを振る事にした。
しかし「操作」の「言霊」とは何なんだろう?
リプレイによると、賽の目を任意に操作できるチート級「言霊」なのである。
当たり前の話だが、その任意の場面で、サイコロによる成功判定が行われるとプレイヤーが知っていなければ発動しない。
だから不意打ちなんかの判定には使えないのだけれど。
そうだとしても、余りにチート過ぎたので、いつの間にか公式に制限が入ったのだろうか?
「操作」を使用する事についても成功判定が生じるようになったのだろうか??
カウントダウンは無情にも進んで行く。
訳わかんねえ!
もう気合いしかない。
「おりゃあああ! 6のゾロ目来い!!」
……結果。
5と4!
俺はがっくりと膝をついた。
うへぇぇ。
やっぱ効いてねえ。
でもさっきは確かに魂に刻まれたって言う感覚有ったのに。
刻む?
いけね。忘れてた。
俺は虚空に向けて叫んだ。
「『言霊』の『知る』と『つく』を魂に刻む!」
前回と同じルーティンだ。
……それなのに、今回は何も変化を感じられない。
再び自分の手を見ると「名称マリヴェラ以下略」だ。
……これはつまり、既に身についているってことか。
「言霊」は魂に刻むモノ。
つまり「言霊」はプレイヤーの分身たるキャラクターに付くものでは無く、この俺、プレイヤー本人である中の人、中村賢様の魂に刻まれているのだろうか?
もしそう仮定すると、「知る」「つく」の他に「なおす」「つくる」「螺旋」も俺は既に持っている筈だ。
んん?
しかしそれだと、「操作」も加わったら、神族が持てる最大「言霊」数5個を越えちまうぞ?
それとも、超えたが故に「操作」が無効になっているとか?
一番初めの6のゾロ目は単なる偶然だったとしたら?
カウントダウンが始まった。
今度は「日」の属性値決定である。
俺はもうガクブルであった。
「ろろろろ6のゾロ目になあれ!……」
と、震えながらサイコロを振っていった結果が以下の通りである。
月9
日11
火22
水12
風17
金11
土10
固17
流12
冥8
魔11
聖15
ボーナス6
御覧の通り、平均して数値がやたら高くなったのであった。
結局、6のゾロ目はかなりの回数が出現した。
幸運を呼ぶ「つく」が作用しただけではなさそうだ。
「操作」はある程度出目に影響を及ぼしていたのだ。
いやあ、一時はどうなる事かと……。
検証は必要だけどね。
では、ここに種族補正とボーナスポイントの割り振りをする。
するとこうなった。
月18
日16
火30
水18
風18
金7
土6
固18
流15
冥5
魔12
聖17
うん、素晴らしい。
やっぱりチートクラス。
前回に引き続いて高位神族様のご誕生である。
ハイ拍手。パチパチパチ。
とは言え、この属性値は、冥属性の塊であった「運命神マリヴェラ」と正反対の特徴を持つ。
正直、慣れるまで注意がいるだろう。
特に「冥化」が使えない。
例えば崖の上から岩が落ちてきて、「ナンだフフン。『冥化』でやり過ごしてやろう」
と考えると、ぷちっと潰れてゲームオーバーになるかもしれないのだ。
ま、ゲームオーバーってのは大げさではあるが。
この愛の神であるマリ……。
俺は再びがっくりと膝をついた。
思い出した。
愛の神。
貧乏神らが面白神族1軍レギュラーだとすると、愛の神は1.5軍か2軍レギュラーだ。
ちなみに面白種族1軍には「猫」「犬」とか「ゾンビ」がいる。
猫だぜ? 犬だぜ?
癒しをパーティにもたらすだけではなく、偵察や予備食料としても役に立つ優れた種族!
ゾンビだぜ?
臭いわ汁垂れるわ、どうすりゃいいんだよママン! と嘆きたくなる種族。
なお、ゾンビは「レア」「ミディアム」「ウェルダン」と三つの設定を……。
話を戻そう。
つまり愛の神は、
「愛という現象をある程度操れる」
かつ、
「愛と言う現象を強制的に引き起こす」
能力を持っている。
愛の神の居る所、常に修羅場が現出する。
少なくとも、かつて愛の神を取り扱ったシナリオはそうだった。
同性で構成されたパーティですら……。
……いや! やっぱ今は百合! 百合だよね!!
きっと何とかなる!
愛は勝つんだ!!
少し離れた場所に、仄かに赤く煌めく門が出現した。
「転生の門」だ。
これをくぐると、懐かしのあの世界へと戻れるんだ。
俺はため息をした。
何にせよ、行かなきゃな。
今度は空足を踏まないように、落ち着いて……。
さあ、落ち着いて。
皆さまご無沙汰でございます。
ワタクシ九路守、生きておりますw
もう一部終了から半年もたってしまいました。
なにやら「なろう」も仕様変更したりCOVID19で大変だったりしてますが、皆様いかがお過ごしでしょう?
今後は、ペースをゆる~く保ちながらやっていきます。
このシリーズだけではなく、あれもこれもやってるので、一体どうなるかは……ハッハッハ。
仕様としては、部構成を章として分けた上で、後々には各話の題名も変更しようかと思ってます。
当面は変更を行いませんので、体裁が取れていない状態が続きます。さながら「工事中」であります。
また、各話題名の変更では、通知が行くと思います。ご迷惑をおかけしますが、ご理解くださいませ。
あと、小説の題名そのモノも変更予定です。
では、第二部もゆるりとお楽しみください。




