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1-D100-74 マリヴェラ回想中


 俺は自宅で机に向かって万年筆を手にしている。

 以前ロジャースから贈られたものだ。

 なぜ万年筆かというと、海上ではとても揺れるので、インク瓶が使えない。

 そこで、航海日誌などを書く際には、主に万年筆が使われるのだ。

 だから、ロジャースが俺に贈るにふさわしい物なのだ。


 書いているのは、その航海日誌に模した日記である。


 この世界に足を踏み入れて、ちょうど明日で一年になる。

 イルトゥリルに来てからもかなり経つ。

 日誌の日付は、ここに来た初日から始まっていた。


 大したことは書いていない。

 日記というより、雑記帳だ。

 その日あった出来事だけではなく、思いついた小説のネタまで書いてある。


 だが、今書いているのは遺書にも等しい内容だ。

 なんせ、明日に迫ったXデーで、俺は死ぬかもしれないからだ。


 ……いや、「かもしれない」ではなく、生きて帰るイメージが全く湧かない。

 ユキにはあんな事を言ったモノの、勝算はどう考えても低い。

 イメージが無いというのは、思念場が存在するこの世界においては、良い事では無い。


 もっとも、明日死ぬという実感も、不思議と無い。


 やれることはすべてやった。

 その為の「言霊」を新たに取得した。

 ミツチヒメの真似をし、目の前の海を俺の波動で染め上げた。

 上手くいけば、イベントが終わった後に、俺の残りカスが集まり形をとり、復活できるだろう。

 直ぐに、ではないかもしれないのだが。


 他に何かできるとしたら、神頼み程度だ。


――――――――――――


 先日、ユウカとオレサマに、最後の別れをさせた。

 二十四時間ほぼ一杯使い切るまで。

 時間切れになってしまうと、オレサマが消滅してしまう。

 それでは明日の成功率が下がってしまうので、だから多少の時間は残してある。


 本人には言っていないが、オレサマについては俺に一つ考えがあるしな。


 つらつらと、事務的な引継ぎなんかを書き連ね、筆はやがて一人ひとりに向けた言葉を記し始めた。

 しかし、この日誌はユキとユウカ以外には見せないように、と但し書きがしてある。

 だから結構適当ではある。 


――――――――――――


 色々あったよな。

 まずスパロー号に拾われて。


 一番初めの、暮井の大きな手の感触は忘れない。

 意外に街の娘や主婦に人気だというのは、本人は知っているのだろうか?


 ロジャースの女たらしっぷりも笑っちゃったし。

 それでいて、女に弱いらしいことも段々わかって来た。

 いい加減身を固めてしまえと思うのだけれど……。


 ネルソンは険が取れてきて、段々成長している気がする。


 クロスビーは相変わらず影が薄い。無能ではないのだが、もうちょっと押しが欲しい所だ。


 八島やロランは元気だろうか。

 手紙のやり取りは有るが、実際には苦労してはいないだろうか。


 他のスパロー号の連中も、ワクワクから家族を呼び寄せる事ができたりしてるんで、いい顔になって来たよな。


 その点、クーコもロジャースと同様、そろそろ誰かいい男が見つかるといいんだけれど。

 今は仕事に根を詰め過ぎている。

 本人にはそれも必要な事なんだろうけれど、いつかどこかで気を緩めてほしい。


 風間だってそうだ。

 俺なんか忘れて結婚しちまえばいいんだ。

 いい加減正気に戻って、その能力を十分に生かしてほしい。


 逆にルチアナは相変わらず遊んでいるようだな。

 あの子はそれでいいのかもしれないな。


 メイナードは最近魔道局に引きこもってるよなあ。

 研究ばかりしていて、殆ど誰とも会っていないらしい。

 もう一回海洋魔導師に戻した方がいいのかもしれない。


 我が女王陛下、コンスタンツァ。それに、ヴォルシヴォ公爵ベルトラン。

 俺なんかが何か言っても余計でしょうが、お世話になりました。

 まだ恩を返していないのが心残りです。


 そうそう、カミラもいたな。

 もう行きたい所に行っていいぞ。

 って言ってもここが一番安全だけれどな。


 シャロンは、引き取ってくれる家が見つかったので、お世話になる事になった。

 言葉も相当操れるようになったし、もう大丈夫だろう。

 大体、一日置かずにユキの元に遊びに来ているのだから、これまでと大差はない。


 クローリス達も、何れ落ち着いたら里帰りさせてやりたいが、その日は来るのだろうか。

 ああ、そうそう。

 沙織。

 フグ女! ばーかwww


 アレハンドロと白井。

 先生たちもお元気で。

 丈夫な子が無事生まれますように。


 フロインは……。

 言うだけ野暮という物か。

 これから約二年、ロンドールを頼みます。


 ミツチヒメ。

 ドSで我儘な海神さま。

 散々悪戯されて来たけれど、遂に悪戯返しする機会が無かった。

 もし戻ってきたら、絶対に泣かせてやる。

 でも、あなたがいたからここまでこれた。

 有難う。


 ユウカ。

 少年だと思っていたら、結構大人になりやがって。

 おまけに深い縁まで結んじまった。

 もっと自信を持て。

 お前なら大丈夫。

 これからもやっていける。

 何かあったら、そばにいる人たちの言う事を聞くように。


 ユキ。

 人の前では常に前向きでいようとしたお前の強さには、感心させられる。

 俺は必ず戻るが、万一何かあっても、俺はお前の中に生きている。

 だから俺の分まで兎に角生きろ。

 俺は……。


 ……そこまで書いて、ペンを置いた。

 泣いた。

 涙がこぼれ、紙の上にシミを作った。


 うん、やっぱ死にたくない。

 だって、そうだろう?


二部の体裁、及びこの一部の形をどうしようか、やっぱり迷っています。

題名その物の変更までありうるかもしれません。

一部は一旦完結扱いにするか?

それとも章にて区切るのか。

経験不足がここにきて足かせとなっています。

色々難しいですが、勉強でもあります。


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