1-D100-69 マリヴェラ○○中
外が白み始めた。
スズメはもう起きて鳴いている。
ユウカは自分の部屋に戻って行った。
裸の俺は、ベッドに仰向けで大の字だ。
俺がユウカを説教しようとした直後に、いきなりオレサマが出てきたのだ。
俺は体の自由を失った。
そしてオレサマとユウカは、今の今まで「くんずほぐれつ」取っ組み合っていたのであった。
「ヒール」や「なおす」まで使って、タップリ思う存分にヤりましたとさ。
冗談じゃない。
オレサマは自律行動すると二十四時間で消滅するってのに、今夜だけで四時間も費やしやがった。
それほどヤりたかったってか?
お陰様で、体中ドロドロのガビガビだ。
さあて。ご本人に感想をお聞きしよう。
「あのー、オレサマ大先生。これは一体ナンたる有様でありましょうか?」
バツの悪そうなオレサマの声が聞こえた。
(あー、いやー、ユウカって結構かわいいじゃん。
気になっていたんだけどさ、
ああ迫られてムラムラっとしちゃってさあ。
でもいいじゃねえか。お前だって満更でも無かったろ?)
……それは認める。
キモチ良かったよ?
でもソレとコレとは話が別だ。
大体、エッチをしてハイおしまいでは済まないのだ。
「どうすんだよ。あいつが恋人気分になっちゃったら」
(いいじゃねえか)
「いいわけねえだろ。俺の立場はどうすんだ。俺はあいつを身内だと思ってはいるけど、単に弟分でしかないぞ」
(でもさ、ヤル前にオレサマからも『今夜だけだ』って念を押したから大丈夫じゃねえの?)
「いや、あの年頃じゃ無理じゃね?」
(ふうん。そういうもんかね)
「普通はね。所でさ。訊こう訊こうと思ってたんだけど……。
オレサマ大先生ってさ、正確に言うと俺じゃないよね?」
数秒間が空いた。
(何の事だ?)
……とぼけやがった。
俺は語気を強めた。
「『オレサマはお前だ』って言ってたけど、そうじゃないよね?」
(……すまねえ。嘘つくつもりは無くってさ。あの時はホントにそう思ってたんだよ)
「事情を教えてもらえませんかね?」
また間があいた。
かなり答えにくそうだ。
(……多分、なんだけどな。このマリヴェラと
言う神族は運命神なわけなんだが、
お前が転生してこなかったら、
別の存在としての運命神として世に生まれてきていたんだ)
「あー……。つまり、生まれるはずの運命神、つまりアンタと言う存在に、俺がマリヴェラって名前で乗っかっちゃったわけだ」
(そう。ソレ。そうなんだ。
何がどういう事でってのは分かんねえよ。
でも最近何となくそんな感じがしてねえ。
たった二十四時間で消えたく無くなったんだ。
少なくとも何か生きた証が欲しくなったんだよ)
「生きた証ねえ」
まあ、それは分からないでもない。同情すべき点ではある。
俺はここである一つの噂を思い出した。
「ん? そうか。たまに耳にする、乙種がその種族の本性に飲まれるってのは、コレか?」
(転生者の人格が消えてしまうって現象か? 猫に転生した人間が、そのうち本当の猫のようにしか振る舞わなくるってアレか?)
「うん。何となくそんな気がしないか?」
(どうかな……。オレサマが二十四時間しか居られねえってのは間違いねえからなあ)
「そうなんだ」
俺はゆっくりと体を起こし、立ち上がった。
洗面器に水を張り、タオルを浸す。
ユウカの舌が体中を這った記憶。
その感覚をなぞるように、身体を拭った。
ピュリファイで綺麗にしてもよかったのだが、俺はタオルを使った。
どうする? 「なおす」で俺自身の記憶を消すか?
自問自答したが、それはちょっと違うような気もする。
本当に、ため息しか出ない。
オレサマに訊いた。
「で、どうすんだ? ユウカと付き合うのか?」
時間制限があるのだから、それは仮初だ。
だが、決めるのは二人であって、俺ではない。
(え、いいのかよ?)
「そうしたけりゃすれば良いだろ」
(『今回だけ』って約束したしな……)
「ま、どっかで話し合いな。いいな?」
(すまねえ。恩に着る)
――――――――――――
「おう、ユウカ。おはよう」
「お早うございます」
数時間後、寝不足のユウカを従えて、郊外の農村や生産施設を見て回った。
ユウカの様子は特に変わらなかった。
まとわりついてきたりしたら、今度こそガチで説教するつもりだったが杞憂だった。
見学ツアーには男性のガイドがついた。
これが大物で、顔合わせの時に開口一番、
「素敵なお嬢さん、お忘れかもしれませんが前世から好きでした。結婚してください」
と言っちゃうようなアッパラパーだった。
「はあ? やだよバカ。どっかのマンガじゃねえんだからよ」
と言い返したら本気でがっくりしていたな。
見送りに来ていたフロインが笑った。
(男)
「面白い青年だろ。彼はね、皇帝陛下の二十男でトシカゲ殿と言うんだ。
軍に所属しているんだが、ポントスに出向しているのさ。
ちなみにさっきのは彼の持ちネタなのだよ。
月に数回は見るぞ。だから適当に返してあげればいい」
トシカゲが言い返した。
「何を仰いますか社長。たまに命中するコトもあるんですよ。すぐ振られますけど」
なんとまあ。驚いた。コイツ、皇子様か。
なんつうか、二十男ってある意味すげえな。
まあ、今の皇帝は位にある事かれこれ五十年以上になるんだからあり得る。
二十男なのだから、皇子と言っても権力は欠片ほども持たされていないはずだ。
フォルカーサの皇帝一家の姓は「サイトー」だったと記憶している。
だからフルネームは「サイトートシカゲ」だろう。
よく見ると、結構イケメンで服装もいい。
しゃべんなきゃいい男ってやつだ。
「じゃ、言いなおします」
俺は女の子らしい口調で改めてこう言った。
「あら、素敵な殿方ですわ。ご提案の件、宜しければフォルカーサ帝国を丸ごと頂けるのでしたら考えさせていただきます」
……等と冗談を言ってはみたモノの、トシカゲが「うーん」などと悩んでいるのを見て不安になった。
こいつ、本気で考えてないよな?
な?
フラグ?
フラグなのか?
イヤイヤまさかね??
「分かりましたお嬢さん。その暁にはお迎えに上がります。……所で社長。このお美しいお方はどなた様で?」
(女)
「ああ、ロンドールの太守殿だ」
「な……」
トシカゲが真顔になった。
「では、そうできるよう頑張ります」
……うわあ。
俺、モテ期なのか?
女の子にモテたいんだけど?
後でちゃんと、俺の中の人はおっさんだって言っとこう。
そうしよう。
ワタクシもモテたい! (*´Д`)
2019/9/18 段落など修正。




