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1-D100-66 マリヴェラ処刑中


 その知らせを受け取ったのは、五月に入ったばかりの頃だ


 内務省の治安を担当する部署からであった。


 俺は丁度、フロインに会いに行く為に、出港の準備を整えた所だった。

 フロインとは私的な面会の予定だ。

 ついでに、ヴェネロ共和国との国交と通商条約が交わされた事への御礼もするつもりだ。


 その知らせは、嵐山に関する事だった。

 嵐山。

 あの、元ヴェネロ共和国駐アグイラ大使の事だ。

 スパロー号とポントスの戦闘の際に亡くなった息子の復讐の為に、地位をなげうってスパロー号に対し個人で宣戦布告したあのジジイだ。

 彼の仕業と思われる計略で、スパロー号の三人の水兵が亡くなっている。

 

 実は、嵐山が春先に、何食わぬ顔でこのイルトゥリルに移住してきたのだ。

 俺も呆れて、直々に行っている審査面接の際に、嫌みを言った。


「おいおい爺さん、こんな辺鄙な所に何しに来たの? 墓を作るなら自前でね?」


 嵐山は痩せていた。体調が悪いのだろう。

 ペンをトントンと机で叩いている俺に向かい、彼は笑ってみせた。


「いや、もう何もできる事は有りませんのでな。

 そこで、あなた方の行く末をこの目に

 焼き付けてから死のうかと思いましてな」


「それは良いけど、もう邪魔はしないでよね」


「無論。それより、既に財産は使い果たしてしまったからな。

 聞く所によると、あなたの国では移住者に家を

 提供しているとの事。宜しく頼みますぞ」

 

 と、恭しく頭を下げたのだった。


「うわあ。そう来るの? しょうがないなあ。

 じゃあ、郊外の一軒家と市内の集合住宅、どっちがいい?」


「では、郊外で」


「はいはい。ようこそロンドール侯爵領へ。ハイ判子!」


 と言った感じであった。

 

 その嵐山が死んだ。

 自宅で死んでいた。


 死に様が異様だった。

 元々痩せてはいたのだが、それが文字通りマッチ棒の様に細く、縮んでいた。

 肉は元より、皮膚も極限まで薄くなり、まるで枯れ枝だった。


 彼が倒れていた部屋には大きな魔方陣が描かれていた。

 床だけではなく、壁にも、天井にもだ。

 これは、『疑似三次元魔方陣』なのだそうだ。

 高価であったであろう古い魔法書も見つかった。


 魔法に詳しい捜査員の説明によると、魔法使いが自身の能力をはるかに超えた強力な魔法を使おうとすると、こんな死に方になるんだそうだ。

 ただし、魂を全て魔力に変えた場合、とてつもなく威力のある魔法を一度だけ使えるのだとか。

 それを『魂招魔法』というのだとか。


 あーあ、それにしても……。

 と俺は部屋の中を見回した。

 これじゃ、事故物件もいい所だよな。


 ファーガソンも自ら現場にやってきて、現場検証を見守った。


「ファーガソンさん、コレ、何があったんでしょうね」


「……その魔法書の開いていた頁にあった魔法なんですが。

 メテオストライクと言う魔法をご存知ですか?」


 メテオストライク?

 TVゲームや「アンガーワールド」以外のTRPGなら有るかもしれないけ

ど……。


「この世界ではそれは無いんじゃないですか? 思念場のせいで。

 魔法は遠くなればなるほど威力が減るじゃないですか」


「ええ。普通ならそうです。しかし、極限の技術を駆使し、

 魂招魔法として命をも燃焼し尽くせば、

 可能性は出てきます。それは、1%も無いのでしょうが。

 現に、二百年前にこの大陸に落ちた隕石は、

 その魔法で呼び寄せられたとも言われています」


「マジすか」


「はい。可能性ですが。元々嵐山は優れた魔術師でしたから」


 俺は腕を組んだ。

 それはちらっと聞いた事が有る。

 クソ、最後まで迷惑をかけやがるな。


「じゃ、ファーガソンさんこの件は宜しくお願いします。俺はこの後出航ですんで」


「はい、お気をつけて」


「ああ、それと、グリーンさんにもこの件伝えて

 おいてください。彼自身世界有数の魔法使いですし、

 領地に隕石に詳しい人がいるんですよ。

 もしかしたら何か役に立つ情報を持っているかも」


「畏まりました。魔法書は魔法局に渡しておきますぞ」


「ええ。メイナードが喜びますよ。じゃ」


――――――――――――


 久しぶりの航海である。


 艦はミュリエル号。

 艦長は渋々で風間。


 ロジャースは勿論、みんな手が空いていなかったんだよね。

 風間は大喜びだ。

 抱きついてきそうな勢いである。


 当然今では、人前ではそのそぶりを見せない。

 だから許容できるんだけれどな。

 ていうか、抱きついてきたりなんかしたら〆るボコる。


 向かう先は一の島。

 アグイラを支配下に置いたポントスは、その後間髪入れずに二の島、一の島と落としていった。


 調略し、包囲する。


 戦闘はやはりほとんど起こらず、支配階級である王族などは概ね殺され、運のいい者はかろうじて亡命した。

 民衆は新たな支配者を直ぐに受け入れた。

 

 話を聞く限りでは、どうしてまあそんなに簡単に、とも思われる。

 しかし調略ってのは弱い所から掘り崩して行くのが基本であり、またポントスはそれが上手いのだ。


 悪魔社長の手腕だろうか。

 それとも軍師がいるのだろうか。


 ともあれ、フロインには聞いてみたい事が色々ある。

 俺の身体の中に封印してあるグレイグーの処理についてとか、「俺と言う存在」についてとか。

 身近では、恐らくフロインが最も答えの近くに居ると思われるのだ。

 判らなければそれはそれでいい。


 どの道、通商開始の御礼もしなきゃいけないし、あのワインの返礼もだ。

 今回のお土産は石灰と金の小粒少々である。

 金はお夏を通じてさらに分けてもらったのだ。


 とは言え……マジ粗品だけどな。

 でも無いよりはマシ。


 フロインは、現在一の島に居るらしい。

 らしい、というのは、手紙にははっきりとした居場所は書いていなかったからだ。

 ただ「今は新しい仕事に忙しい」という記述があったのみだ。

 普段フロインは、居場所を明らかにしないというが、新たに占領した島を采配するのに、現場に居て指揮をしていると言うのが自然だろう。


 俺も、ただ「伺います」と返事を書いた。


 大体、一の島まで片道千五百キロメートル。

 風や海流を加味しても、イルトゥリルからはそこそこ近い。


 艦が沖に出ると、風も波も強くなる。

 この感覚も久々だ。

 魔道装置は使わず、風の力だけで進む。

 ここは、内海でも比較的穏やかな海域なのである。


 波と風の感覚をひとしきり楽しみ、キャビンに戻ると風間がいた。

 彼は直ぐにコーヒーを自らの手で淹れ、出した。


「どうぞ」


「さんきゅ」


 前回この艦に乗ってからそんなに経っていないのに、随分懐かしい感じがする。

 壁に貼ってある海図や、安っぽい意匠のキャビネットなど、久しぶりだ。


 その海図は、内海全てを書き記している。

 何時か、船に乗って世界を回りたいんだけどな。

 ……無理かな?


 ユキやユウカを立派な君主に仕立て上げれば、こっそり脱走もできそうだけれど。

 いや、あいつらに悪いか。


 そんな事を考えていると、風間が何時になく真剣な目でこちらを見てるのに気づいた。


「なんだい?」


「いえ……。隊長、もしかして何処かお悪いのではないかと」


「? 別に何もないよ?」


 いつものように、

 「隊長お綺麗です」とか言い出すのかと思ったら。

 むしろ気味が悪い。


「そうですか。それならいいのですが」


 と、風間は黙ってしまった。


 今の風間はきちんとした士官服を着ている。

 馬子にも衣裳ってやつだ。

 最近は艦長として哨戒の任務をさせている。

 そのせいか、人間としていささか貫禄が出てきたようにも思える。


 スパロー号の副長だった暮井も昇格し、一艦の長となっている。

 ネルソンは旗艦であるスパロー号の副長だし、クロスビーはその一つ下で二等海尉だ。


 全体的に人が足りないので、有能な者はどんどん昇格させる。

 地位は人を作るっていうしな!

 ……なんて言ってるものの、昇進しても給料はあんまり上がんないから、ちょっと申し訳ないんだけれどな。


 コーヒーを半ば飲み終えた風間が、何か言いたそうにしていた。


「ナンだよ風間。言いたい事が有ったら言えよ。あんまり顔を合わせられないんだしさ」


「……隊長の中の甲種なんですが、本当に処理する方法は無いのでしょうか?」


「……無くはないよ。一つだけ、確実なのが」


 泣きそうな顔だった風間が、ガタっと立ち上がりかけた。


「そ、それじゃ」


 俺は風間を手で制した。


「他の奴には絶対に言うなよ?

 コレ、帝国なんかが知ったら全軍こぞって

 実行しに来るかもしれないからな。

 ……焼くんだよ」


 喜びかけていた風間の顔が再び曇った。


「は?」


「焼くんだ。あの甲種はどっちかっつーと火に弱い。

 松明の火程度じゃ効かないけどね。

 高位の魔法使いの上級炎属性魔法ならいけるかもしれない」


「しかし、隊長も火に弱いではありませんか」


「うん。だからそう言う事だ。炎の量が足りなくてもダメだ。

 それだと、俺が焼け死んで世界が滅びるだけさ」


 風間が天を仰いだ。


「ま、ソコん処は色々考えてるさ。心配するなって」


 俺は立ち上がって風間の肩を叩き、キャビンを退出した。


――――――――――――


 なんと。

 密航者がいた。

 超不覚。


 基本的に「知る」は常にON状態なのだが、出港時にミュリエル号全てをスキャンするのを忘れて居たのだ。

 この俺としたことが、半日もその存在に気づかなかった。

 何たる緩み。何たる平和ボケ。


 密航者は、水兵服を着て船倉に隠れていた。

 俺はその密航者を引きずり出し、長く伸ばした両手で拘束して、高く吊るし上げた。


「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 ユウカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

 こんな所でぇ何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん?」


 ユウカが俺の頭上でバタバタ暴れながら謝った。


「す、すみません!」


 風間がとりなした。


「ま、まあまあ隊長。自分が許可したのですから、責めは自分に……」


 俺は風間を睨みつけた。


「当たり前だ! お前もきっちり〆る!」


「違います、私が風間に無理やり……。 姉上にも言ってあります」


「それで俺が許すとでも? イルトゥリルでの仕事はどうするの?」


「そ、それは……」


 俺の両脇腹から、無数の腕が生えた。

 

「くすぐり三分の刑に処す」


「やっやめてくだsいぃぃぃゃうぉぁぁぁああぁぁgf」


2019/9/18 段落など修正。

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