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1-D100-64 マリヴェラ憤怒中


 ガルーダが高度を下げ始めたのは、それからすぐだった。

 ガルーダには馬のように鞍が取り付けられており、軽装の兵士が一人乗っていた。


 いきなりの急降下ではなく、風に乗りクルクルと旋回しつつ降下している。


 少し心配になった。

 俺か、それともユキたちが見つかったのだろうか?


 地上から百メートルほどの高度まで降りて来たガルーダは、しばし行軍を止めていた狩猟団の上でくるりと廻り、再び上昇した。

 その時、ガルーダの上に載っていた兵が、何か包みのような物を落とした。


 何だ?

 補給?

 それにしちゃ拳程度のモノに見えたけどな。

 雰囲気からして、俺たちが見つかったわけではなさそうだ。


 っていうか、あいつらグルか。


 ホーブロの貴族御一行様が、帝国のガルーダ兵とこんな所で何していらっしゃるのでしょうね?


 そういや、西側同盟のお歴々はポントスと繋がっているって、ファーガソンが言ってたっけ。

 帝国そのものとも繋がっているのか?

 それってヤバくない?


 狩猟団は再出発し、ガルーダ兵は山の向こうへと消えていった。


 そして一日が過ぎた。


――――――――――――


 狩猟団は迷うことなく高原を突っ切り、ある山の麓に陣取った。

 その山は全く木が生えていない岩山で、山脈を構成する岩山の列からは、若干外れた場所に聳えていた。

 この高原は平均して七・八百メートルほどの標高に有る。

 岩山はそこを基準に考えると、更に五百メートルほどの高さがあるだろうか。


 狩猟団は麓に展開し、まるで陣地のような宿営地を設営した後、そこからいくつかの小隊を繰り出した。

 小隊はそれぞれ、山の四隅に配置され、何か杭のような物を地面に突き刺した。


 彼らは……武装している。

 剣と長弓、短弓は勿論、猟銃を抱えた者もいる。

 銃は箱に入れられて運ばれてきたのだ。


 火器はホーブロでは生産されていない。

 恐らく、フォルカーサから持ち込まれたのだ。

 ガルーダの件と言い、狩猟団が帝国と手を結んでいるのは確実となった。


 魔法使いもいる。

 陣地は魔法か魔法道具による結界で覆われて、日の光を浴びて微かに煌めいていた。


 しかし何故?


 俺は少し離れた岩山の頂上付近から彼らを見下ろしている。

 「冥化」して岩の中に溶け込んでいるので、余程の事が無ければ見つからない。


 日が落ちるまでまだ間がある。

 一体何が起こるのだろうか。

 俺がシナリオを描くなら、どんな厄介ごとを用意するだろう?


 そう自問自答していると、さっそく厄介ごとが発生した。


 ユキとルンドの姿が、遥か向こうの高原の岩場の影にちらりと見えたのだ。

 あの分だと、待機の「お願い」を我慢できたのは、たった半日程度だったのだろう。

 それにすっかり忘れて居た。

 彼女は俺の居場所がわかるのだった。


 二人は流石にそれ以上は前進しようとはしなかった。

 半ば予想通りの彼らの行動に、俺は苦笑いするほかなかった。


 まあいいさ。

 何かあったら、彼らが出てくる前に終わらせてやれ。


――――――――――――


 狩猟団にも動きがあった。


 彼らの本陣がざわつき、食事をとっていた者も慌てて武器を取ったのだ。


 いつの間にか、陣地の目の前に白い小袖を着た女が出現していたのだ。

 陣地からはライエら数人がそれに対応し、言葉によるやり取りをしている。


 残念ながらこちらは風上なので、彼らが何を話しているのかがわからない。

 優秀な「マリヴェラアイ」でも、今一つ良く見えない。

 発見されるリスクは有るものの、もっと近づく事にした。


 しかし急転した。


 いきなり女の姿が五つに分裂し、陣地の周辺の大小の石が宙に浮いた。

 石は生き物のように飛び、兵たちを襲いだした。


 ライエらは慌てて陣に引っ込み、猟銃を構えた兵が五つに分身した女をそれぞれ射撃した。

 同時に魔法使いと思しき男が手を上げ、陣地を離れていた小隊が応えた。


 途端に、地中が強烈な振動で満たされた。

 俺は思わず耳をふさいだ。


「うざっ」


 振動? 音? 超音波?

 なんだかそういう感じだ。


 すると、かの陣地の周辺で、十人ほどのノームが地面から次々にボコボコ飛び出した。

 手に持つ弓を射る間もなく、彼らも射撃された。

 まるでモグラ叩きだ。


 視界の隅では、ユキがルンドの制止を聞かずに岩陰から飛び出た。

 物凄いスピードである。

 草原を、文字通り疾駆している。


(母上!)


 またしてもユキの言葉が聞こえたような気がした。


 母上?


 いや、今はそれは置いていこう。

 山の斜面にも何人かのノームが現れ、銃の的になっている。


 こうなっては俺も姿を隠していられない。

 この場を収めないと。

 「冥化」を解き、出来うる限り広範囲に金の雨を降らせた。


 しかし陣地まではまだ距離があった。

 ユキには届いた。

 俺は「なんちゃって瞬間移動」で彼女の横に形をとった。


「おいバカ止まれ!」


「バカって何よ!」


 俺はユキの姿を見て驚いた。

 いつの間にか彼女の頭上にケモミミが生えている。

 マジ?

 そんな事ができるなんて、憑依した事のある俺ですら知らなかった!


 か、可愛い!


 これは……胸が張り裂けそうだ!


 いや! いや、待て。

 今は風間の真似をしている場合ではない。

 俺はケモミミのユキを説得した。


「ありゃあ軍隊だ。狩猟団じゃねえ。いいからここで待ってろ!」


「でも……」


 銃弾が足元にいくつか着弾した。

 狙撃兵がこちらに気づいたらしい。


 ユキがようやく止まり、近くの岩陰に身を伏せて隠れた。


 俺は彼女の頭をポンと叩き、


「任せろ」


 と言った。


 俺は次に陣地前に出現した。


 金の雨は、陣地の内部には入り込めなかった。

 やはり何か高度な結界が使われている。


 女が足元に倒れている。

 お夏だ。

 五つに分かれていたのだが、またもいつの間にか一人に戻っている。

 そして、彼女にもユキと同じようにケモミミが……。


 こうしてみると、確かにユキとお夏は似ているが、種族自体違う。

 お夏はお稲荷様をステレオタイプに擬人化した感じなのだ。

 ああ、もしかしてこれが収斂進化ってやつだろうか?


 お夏に止めを刺しに来た兵を、俺が蹴り飛ばした。

 そこで銃弾がいくつかとんできた。

 銃弾は魔法処理をしてあった。

 とは言え、金の雨の結界は通り抜けたが、次元断層結界までは抜けないらしい。


 俺は全ての者を、「ヒール」と「なおす」で治療した。

 対象は、倒れているノーム全員と、ノーム達の反撃で負傷した兵士、そしてお夏。


 ノームの内数人は既にこと切れていた。

 銃弾を頭部に受けていてはもう治療も何もあったものではない。

 いや、受けて数秒以内なら何とかなるかもしれないが……。


「ロンドール侯マリヴェラである! 全員動くな!」


 叫んだ。


 金の雨の中に居たなら、そこに居る者すべて、耳元で怒鳴られたのと同じだったはずだ。


 ぴたりとその場が収まった。


 一人だけ収まらない者がいた。

 ライエだ。

 相変わらず高価そうな装備を身に着けている。

 彼は陣地の結界の中から叫んだ。


「またアンタか! 邪魔をするな!」


 俺はため息をついてそれを無視し、意識を取り戻したお夏に手を差し伸べた。


「無茶しないでください。ハチの巣だったじゃないですか」


「む……すまぬ」


「向こうにユキがいますので、少し下がっていてください」


 お夏は絞り出すように答えた。


「頼む」


 ライエが地団太を踏んでいる。


「無視するな! こちらはアンタの許可を得てやっているんだ!」


 俺は怒鳴り返した。


「許可だとぉ? てめえ、動物と魔獣を狩る許可は出した覚えはあるが、ノームを狩るなんざ聞いちゃいねえ!」


 ライエがさらに言い募ろうとした時、背の高い男がそれを制し、前に出た。

 

 「知る」によると、名前は『フレック』という。


「マリヴェラ卿、お初にお目にかかります。

 クエスタ子爵ジャクソン・フレックと申します。

 イルトゥリルではご挨拶に伺えず、

 申し訳ありませんでした」


 彼は朗々と口上を述べた。

 どこか、芝居がかった仕草である。


「少々法について申し上げなくてはいけないようですな。

 マリヴェラ卿はご存知ではないようですが、

 内海諸国の法では、戸籍を持たない亜人は

 動物と同じ扱いとなっております」


「あ?」


「失礼ながら、そもそも卿は、

 イルトゥリル地区以外のロンドール各地の

 平定をまだ終えていないご様子。

 我々は、聖国と称して卿に反抗している

 連中を討つ手助けをしておるのですぞ」


 と、澱む事無く言う。

 もしかしたら、弁護士の資格でも持っているのかもしれない。

 記憶によれば、彼も西側同盟の一員で、ショーブ伯爵やライエの父親であるアムニオン侯爵と近いんだったな。


 それにしても。 


 法か。

 法ね。


 そういやそう言う法も有るって聞いたっけな。

 登録されていない乙種が討伐される可能性があるってのと似ている。

 

 こんな事も耳にしている。

 その法の存在が、一つのビジネスを成り立たせていると。

 内海の戸籍を持たない西の大陸の亜人を、攫ってきては奴隷にするというものだ。

 奴隷は主に農奴や貴族の護衛、又は性的な奉仕をさせられる。


 内海の亜人や乙種は、各国にとり重宝する存在ではあるのだが、事もあれば虐げられたリもする。

 そういう歴史の流れがあるとはいえ、現状、その法の存在が差別を助長しているのは間違いないのだ。


 クーコは泣いたもんな。

 俺は許せない。

 

 クローリスも、奴隷船から解放した部下を思って胸を痛めていたよな。

 俺も胸が痛い。


 カーネッドのソウスケ達もそうだ。

 結局、彼らはあの地を追われ、ガレーに乗ってイルトゥリルにやって来たのだった。


 俺が黙ったので、フレックは勝ったと思ったようだ。


「反抗する動物を狩り、有効活用するのです。

 卿にとっても一石二鳥ではありませんか。

 では、その女をこちらにお渡しください」


 と、手を差し出した。


 動物だ?

 冗談じゃない。

 こいつらは、俺だ。


 これは合法ってか?

 有効活用ってなんだ。

 ふざけんな。

 

 色々考えれば考えるほど、ムカついてきた。

 面倒くさくなってきた。


 こいつら。


 全員。


 殺すか?


 証拠も残さねえ。


 笑顔が顔に貼りついたままのフレックが一歩下がった。

 俺も一歩前に出た。


 金の雨は、いつの間にか土砂降りと化していた。

 

ユキさんがケモミミ娘である。

開始から30万字以上経ってから発覚した衝撃の事実。

あっ石を投げないでっ!!

2019/9/18 段落など修正。

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