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1-D100-58 マリヴェラ正座中

 

 ユウカとクーコ、それにミツチヒメは、ネルソンを艦長に据えたミュリエル号に乗り込んだ。

 そしてヴィオンで雇った船を率い、王都ホーブロ方面へ向かった。

 道々、食料等を買い集めるのだ。

 今年は豊作だったこともあり、価格が下落傾向にあったのは運が良かった。


 俺とロジャースはスパロー号でアグイラに向かった。


 こちらも運が良かった。


 アグイラとヴィオンをまっすぐ結ぶ航路上で、グリーンのドラゴニア号やミヤカのトライアンフ号が守る船団と行き会ったのだ。

 幸い、彼らは占領当日に即刻叩き出された訳ではなさそうだった。

 形の上では平和的に、時間を与えられた上で叩き出されたのだ。


 グリーンとお付きのルチアナはもちろん、あのアグイラ共和国内相のファーガソンも追い出されたクチだ。

 それに十数人の政治家や、有力者たち。


 一般市民の避難民も多い。

 彼らは一様に帝国を敵視している。

 ポントスは未だに帝国と同一視されていのだ。


 確かにその見方は間違っていない。

 悪魔社長が平和的世界征服を標榜しているとはいえ、その背後にあるモノの存在を否定する事はできない。


 スパロー号も船団の護衛に加わり、ヴィオンに引き返すことになった。

 船団は夜間には帆を下した。

 あの北行船団とは違い夜間航行はできない。

 計画も無く、大きさも違う船が入り混じっている集まりだったからだ。


 休息の間に、俺や姉弟はドラゴニア号から食事の招待を受けた。


 食事は豪華とまでは言えなかったが、質素でもない。

 ドラゴニア号のキャビンに招待されたのは、俺たちだけではなくて、アグイラの有力者も一緒だったからだ。

  

 俺がフォールスで別れた後の経緯を語ると、その場に居た人たちは言葉を失い、顔を見合わすばかりだった。

 まあ、海賊を退治して王都の甲種を封印し、ヴィオンで封爵されたなど、色々出来過ぎているからな。

 (なお、ペンティメンタルでの件には触れなかった)


 俺が封爵されたニュースを彼らは知らなかった。

 彼らは三日前にアグイラを出航している。

 ただ、俺が王都の甲種を封印した知らせは当然聞いていた。

 だから何らかの報酬を得られるのは必然だと考えていたらしい。

 グリーンの音頭で、乾杯がささげられた。


 食事会が進み、アルコールが回った所で、俺は少し調子に乗った。

 それとなくロンドールに来ないか、と同席しているファーガソン達を誘ったのだ。

 だが反応は芳しくない。

 ダメ元だったけどね。ま、そりゃそうだ。

 彼らは、特に閣僚経験者・有力者ともなればファーネ大陸に伝手もある。

 わざわざド新興の、おまけに流刑地みたいな場所に移住する理由は無い。


 ただ、ファーガソンだけは提案を受け入れた。


「妻も無く、身軽な身ですからな」


 だそうだ。


 ホントかよ爺さん!と叫びそうになった。

 百人力である。


 ヴィオンに到着する寸前に、嬉しい知らせもあった。

 グリーンの許可を得て、船団に乗り込んでいる一般避難民にロンドールへの移住を提案したところ、半数が手を上げてくれたのだった。


 は、は、半数だって?!

 その数、千人!!


 彼らは、俺がアグイラで甲種を退治したり医療ボランティアをした件を知っていて、だから応じる気になったのだという。


 くー、泣かせるね。


 でもその分責任がのしかかるな。

 これから真冬だってのに、イルトゥリルでは住居も足りなくなるんじゃないか?

 クローリス達だって呼び寄せなきゃならない。


 頭も体もフル回転させなきゃだし、ああだこうだと議論しなきゃいけない。

 「やる事リスト」がどんどん長くなってゆく。


――――――――――――


 船団と共に一旦ヴィオンに戻り、コンスタンツァにあいさつした。


「たまには遊びに来い」


 と、彼女はごく軽いノリだ。

 軽いが、かなりの量の金品を下賜してもらっている。

 あの「ザ・ハート」の価値にも匹敵する程の量だ。


 それとは別に、ヴォルシヴォ公爵ベルトランにも御礼の品々と感謝をささげた。


「色々お世話になりました」


「いや、こちらこそ。今回は、運命というモノを肌に感じましたぞ」


「向こうに着いたら手紙を書きます」


「ああ、楽しみにしておりますよ」


 二人にはとても良くしてもらった。

 単に大きな功績を上げたからとも言えようが、それ以上の恩を受けた気がする。

 いつかその恩を返そうと、心に誓ったのであった。


――――――――――――


 ノックが鳴った。


「マリさん居ます?」


 ユキだ。

 今ここはスパロー号の客室。

 一番お偉い俺は、本来ならキャビンを居室として使えるのだが、こちらを使っている。

 なんでか、狭い方が落ち着くんだよね。 


「どうぞ」


 ユキは部屋に一歩入って怪訝な顔をした。


「マリさん、何やっているんですか?」


 怪訝な顔をされても当然である。

 目の前の寝台に、フォールスで買った女型のホムンクルスを寝かせているのだ。

 いやいや、別にいかがわしい目的じゃないってば。

 俺はなるべく怪しい顔にならないようにユキに笑顔を向けた。


「え? いやさ、こんな身分になるんだったら、従者の一人も欲しいじゃん? 実験実験!」


「従者って、風間さんは?」


「あー、あいつ、俺の身分が高くなり過ぎだって

 落ち込んでいたな。俺を嫁にできないじゃないかってな。

 ホント馬鹿だよな。ま、あいつは、従者と言うより

 主力の艦長とか、末は提督とかになってほしいしな」


「じゃあこれはどういう……」


「だから実験だって。ま、見てれって」


 ホムンクルスは、保存液から出して軽く乾かしてある。

 そして取りい出しましたるもう一つのブツは……。

 『思念石』。

 カミナリライオンのアレだ。


 いやさ、あの魚雷の時に、結界に対して思念石が生き物と同じ反応を起こすって知ってさ。

 もしかしてこの思念石ってのは、甲種や乙種の『核』かなんかじゃないかって思ってさ。

 有りがちでしょ? こういった話ではさ。

 だから、暇な時には常にこの思念石を弄りながら、「つくる」「なおす」を合わせて「つくりなおす」の「言霊」をかけていたのさ。


 それにほら、「つくる」は「魔創造(つく)る」、「なおす」って「魔改造(なお)す」とも書くじゃん?


 「お約束」なんだから効くに決まってる!


 そんな事をユキに説明しつつ、摘まんだ琥珀の様な思念石をホムンクルスの心臓の上に置き、指で軽く押した。


 石はゆっくりと沈み込んでいった。

 ユキがごくりとつばを飲み込んだ。


 変化が生じた。

 皮膚の質感が変わった。

 見る見るうちにホムンクルスの肌に体毛が生え、全身を覆ってゆく。

 骨格までもが変わってゆく。


「ねえマリさん?」


「なんだい?」


「もしかして、これ甲種になるんじゃ?」


「なるかもね?」


「え? 大丈夫なの?」


「多分……」


 一応教育はしたつもりだ。

 つもりではあるが、実際にされたかどうかは確認していない。

 ホムンクルスの身体……いや、今はカミナリライオンの身体か?

 ビクンと大きく弾けた。

 ユキが思わず身構えた。


 そこに居るのは、普通の人間の女性ではない。

 ライオンの獣人の女性に近いかもしれない。

 クーコのバトルモードにも似ている。


 全身が毛におおわれ、猫耳ができ、尻尾も生えた。

 そいつは手を動かし、顔をごしごしこすった。

 首を振ってから上半身をゆっくりと起こした。

 そして俺を見つけ、睨んだ。


「おい。クソマリヴェラ。オレはオスだ。知っているだろう。どうしてメスの身体なんだ?」


 成功だ。

 いや。

 大 成 功 だ。


 俺は満面の笑みで答えた。


「ああ、気に入ったか? 中々美人じゃん。どうしてって? だって面白そうだったからさ」


 カミナリライオンは飛びかかって来た。


 しかも言うに事欠いて、


「このマグロ女め!」


 はあぁぁぁ??


 変な事まで学習しやがって!

 例によってオレサマが即応して取っ組み合った。

 ユキは急いで上の寝台に避難している。

 暫くしてカミナリライオンは両肩で息をして寝台に戻り、仰向けに寝転がった。


「クソ、非力すぎる! 全然力が入らない。キサマ、残酷なことしやがる。しかもなんでオレはこの世界の言葉を話せるんだ?」


 俺はニヤニヤしている。


「そりゃ、そうしたから、もしくはそういう事になっているからさ」


「……訳わからねえ。オレはキサマに従わなきゃならないのか?」


「いやならいいさ。何でもいいよ。でもその体に相応しい食事をしないといけないし、何より石ころのままで居るより良いだろ?」


「まあな……。それに、オレの居た世界では、弱い者は強い者に従うのが道理だ。不満は無い。無いが……」


「なら良いだろ。たまには喧嘩もしてやるから。ほれ、服着ろ」


 と、用意してあった服を差し出した。

 どうせ体の線が変わるだろうと予想していたので、多少なら融通が利くポンチョ型のロングワンピである。


「お前、名前は?」


「名前なんかない」


「じゃあ、カミナリライオンを略してカミラってのはどうだ?」


「好きにしろ」


「じゃあカミラさん、よろしくね」


 と降りて来たユキが差し出した手を、カミラはため息をしながらポンと叩いた。


――――――――――――


 突然現れた美しい獣人に、スパロー号は色めき立った。


 当然カミラは、自分が人間の男から見ると「ナイスバディでかなり色っぽい存在」だなんて思っていない。

 物珍しそうにマストの上に登ったり色々しているのだが、フワフワのスカートである。

 油断しまくりなのが面白かったので放置していたら、ロジャースに怒られた。


 正座させられて怒られたのは、俺もカミラもである。


「何言ってるんだ? オレはオスだ!」


 なんて、初めの頃の俺のようなセリフを連発しているが、まあ、アレだ。

 すぐ慣れるよ。

 

 なお、身体のスペックは通常の獣人よりも上だ。

 半神獣人のユキと同程度である。


 属性を操る能力はユキよりも遥かに優れている。

 とは言え、今の所はその能力を使いこなそうとすると、恐らく肉体が持たないだろうと思われる。

 だからカッとして能力を開放したりしないように、良く言い聞かせてある。


――――――――――――


 お説教が終わり、俺はスパロー号の艦尾から後方を眺めた。


 頭上には俺の紋章「舵輪にウロボロス・城壁冠」通称『フォルトゥナ紋章』が入った旗と、まだワクワクの海軍旗が一緒に翻っている。

 海軍旗については、ワクワクの物をそのまま使ってもいいかなと思っている。


 このロンドール行きの船団は十隻ほどである。

 その中で「ウチの船」と呼べるのは、スパロー号とトライアンフ号だけだ。

 後はアグイラの住民、元ワクワクの住民の持ち船である。

 俺の自由にはできない。


 その他に、ミュリエル号がいる。

 ミュリエル号は買い出しをしつつ、やはりイルトゥリルへ向かっているはずだ。


 途中立ち寄ったソレイェレでは、アムニオン侯爵に挨拶状と音物を出した。

 ザマアミロな事に、もはや形の上では同格なのである。

 侯爵からは当たり障りのない返事と贈り物が返って来た。

 当然、ライエからは何も言ってこない。


 そして波の高い難所ロンドール海峡を越え、北西に時に間切りながら進み、ロンドール侯爵領主都イルトゥリル沖に到着した。




2019/9/18 段落など修正。

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