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1-D100-36 マリヴェラ決闘中



 あーあ、ナンだよ。結局そうなるの?


 ミツチヒメが腕を伸ばして壁をよじ登り、観客席に移動した。

 いかにも楽し気に叫んだ。


「マリヴェラ! いい機会ではないか。今まで格下としかやってないだろう? 遊んでもらえ!」


「姫様! 全く、他人事だと思って! せめて応援位はしてくださいよ?」

「おお、応援はタダだしな。してやる、してやる」


「そうそう、マリヴェラよ。この闘技場は特殊な

 結界を張ることができる。壁の外には、

 いかなる物質、属性値の効果も通らない。

 安心して存分に暴れてもらってよい」


 グリーンはそう言うと、壁にある扉を開け、奥に消えた。

 程なく、微かな音がして、闘技場が丸い光のドームに包まれた。


グリーンが戻ってきて言った。


「これはな、カタリナが作った結界作動装置だよ。ウチのアレは、こういうのが得意なのだ」


 戻ってきたグリーンが何処と無く誇らしげに言う。


「さて、ミツチヒメ殿。何分にしようか?」


 ミツチヒメが懐から懐中時計を取り出した。


「そうだな。あまり長引いてもな……。では、三分としておこうか」


 三分。

 相手は多分……、この世界でも有数の魔法戦士だぞ。

 大丈夫なのか?


 大体、エルフってのは、自分の生命に関わるような事は基本的に避けるのが普通って設定なんだ。

 一体、グリーンはどんだけ自信があるんだか。


 俺は……怖いな。


 空間に溶け込んでしまえば、時間いっぱい使って逃げ続けられるかもしれないけどさ。

 カタリナだって冥系統は得意って言ってたし、グリーンも対策を心得ているかもしれない。

 出たとこ勝負だ。やってみないと分からないな。


 とりあえず、金の雨を降らせる。

 グリーンが、ちょっとだけ上を見上げた。

 そういえば、彼にはコレを見せた事が無い。

 雨は、綺麗に闘技場の結界に沿って、休憩に象った領域で降っている。


 ミツチヒメが声を張った。


「よーし、ではやるとするか。勝敗は、降参か、相手をぶちのめした段階で決する。つい殺してしまったら御免なさい、だ」


 俺は耳を疑った。御免なさいで済むのか? ソレ。


「では、開始!」


 ……。


 両者共に動かない。


 雨を目一杯に広げているのは、境界で作る結界が、グリーンほどの者に対しては無意味だと考えたからだ。

 雨の中でなら、相手の動きは目で見るよりも確実に分かる。そのメリットを取った。


 ただし。

 雨を展開していると言う事は、もしこの状況で火・日・風系で襲ってこられると、余計にダメージを受けてしまうと言う事だ。

 だが、ここは狭いので、威力の大きな魔法なんかでは、向こうも無事ではすまないと思われる。

 そんな場面が、何処かのシナリオであった気がする。

 どの道、マズいと思ったら、直ぐに雨を解除するつもりなのだ。

 

 ソレよりナニより、グリーンは風がオトモダチである。

 風系で代表的な攻撃法は、真空刃・電撃、だ。

 当然、威力が大きければ、彼自身にダメージを及ぼす。

 彼はどうするつもりだろうか。


 グリーンが首を傾けて言った。


「まずは君から来なさい」


 ふん。

 上級者の余裕って奴か。プロレスかよ。


 しかしどうする?

 影免やなづみを真面目に使うと、本当にカタリナに御免なさいしなくてはいけなくなるかもしれない。


 かといって……月で精神系攻撃?

 効くとは思えないんだよなあ。


 水で物理攻撃?

 あんまり水持って来てないんだよなあ。


 冥で空間系攻撃?

 まだよくわかってねえしなあ。いや、方法は有っても「御免なさい」クラスだし……。


 魔や聖は、攻撃に使うと言うより、攻撃そのものに付与する類の性質なんだよねえ。


(なあ、オレサマにやらせて……)


「却下」


 しょうがない。

 体内から影免を引き抜いた。

 禍々しい黒い影が、刀身に纏いつく。

 打撃に月系効果を乗せてやってみよう。ダメでも、手足を斬り落とせば流石に終わるだろ。


「マリヴェラいきまーす」


 と、何処かで聞いたようなセリフを吐いて、土の地面につま先を食い込ませた。

 オレサマの真似をして、冥属性も利用し爆ぜた。


 音は後からついてきた。


 影免で斬りつける寸前、全身冥化して直角に逸れ、闘技場の壁に着地した。

 「冥化」しているから体重は殆ど無い。

 体重は攻撃直前に戻すつもりだった。


 だが攻撃は見送った。

 あのまま斬り付けていたら、影免は折られていたかもしれない。


 グリーンは鎧を纏っていた。

 一瞬の事だ。

 それは、青く淡く光る空気の鎧。


 とんでもなく圧縮した空気を、全身に纏っているのだ。

 ただ圧縮しているだけではなく、音速以上で循環もしているのだろう。

 微かな金属音が響き、周囲の空気が震えている。


 すげえなアレ。

 一体どうやって維持しているんだか。

 詠唱すらしなかったし、魔方陣すら見えなかったぞ?

 アレで動くのだとしたら高風属性云々どころか、いわゆる神業なんじゃないか?


 グリーンが振り返った。


「ふむ、気付いたか。随分良い剣と見えるが、無駄にしないでよかったな」


 と余裕を見せている。


 攻撃を受け付けない絶対の防御。


 影免で影を斬ればいい。

 その筈なのだが、やはり微妙だ。

 グリーンの影を斬ればグリーンに直接ダメージを与えられるのか、それとも、あの影を斬ると、鎧の上から斬った事になるのか、分からないからだ。

 ちぇ。検証しておけばよかった。


 俺は姿を消し、空間に溶け込んだ。

 影免はしまう。


 闘技場内を飛び回り、甲種討伐の時の異空間トラップをグリーンの周りに設置してゆく。

 グリーンは、見えているのか見えていないのか、動かない。


 設置し終わり、俺は彼の正面に突然出現。

 その顔にパンチをぶちかました。


 パンチをした右腕は肘の先から消散。

 だがグリーンも流石に後方に吹っ飛び、その後方にあるトラップに……。


 飛び込まなかった。

 バチン! 

 と物凄い音はした。


 が、音を立てたのは、グリーンでもその鎧でもなく、グリーンの召喚で現れ彼の背中とトラップに挟まれた風の精霊だった。


 ……精霊を身代わりにしやがった。

 ひでえ。

 オトモダチじゃねえのかよ!


 精霊は緑の光を散らして消えた。

 グリーンは体勢を崩しただけだった。


「ふむ、中々面白いが、こんなものか?」


 俺の消えた腕には光が集まり、直ぐに復活した。


「いやあ、やっぱりやめましょうよ」


「何故だ?」


「やる理由が無いです」


「そうかな? 私は君に興味があるし、私は委員会の一員だぞ。忘れたか?」


 雰囲気が変わった。


「君からは、私を間違って殺めないか心配しているような感じがするな。余り嘗めないでほしい」


 ……鎧の中だから表情はわかんないけど、怒ってるよな、アレ。


「ちなみに、君は既に委員会の中では危険人物視されている。賞金すら設定されているのだぞ?」


 グリーンはそう言うと、再び風の精霊を召喚し始めた。

 まあ、彼自身が賞金が欲しいとかは考えては居るまい。

 こういう機会を通じて俺に情報をくれているのだと好意的に解釈したいが。


 風の精霊はどんどん増えてゆく。

 かまいたちと呼ばれる形態。シルフと呼ばれる形態。


 やがて、結界のドーム内が精霊で満ちた。


 「冥化」できていなければ、身動きもできなかった。


 グリーンが呟いた。


「ライトニングストーム」


 え、


 ちょ。


 こんなトコで? アンタも無事では……。

 

 ジジジ! バァン!


 と電撃の音が溢れ、世界が吹き飛んだかと思えた。


 俺は「冥化」していたにもかかわらず、ついつい忘れて金の雨を展開していたままだったので、いわば直撃を食らったようなものだった。


 巨大な電子レンジで焼かれた気分である。

 HP半減ってトコだ。


 姿を現して地面に四つんばいになっている所へ、グリーンが歩いてきた。

 当然、彼は無傷だ。

 召喚した精霊を、自分の周囲を除いて生贄とし、電撃の嵐を呼び寄せたのだ。

 自身は自らの属性の高さと身を包む精霊の加護により、護られたのだろう。

 

 グリーンはゆっくり剣を掲げ、振り下ろした。

 俺は唐竹割りにされた。

 ミツチヒメが思わず立ち上がった。


 真っ二つになってしまった俺は、光を発して散っていった。


 跡に残されたのは、半分に斬られた一枚の紙だ。


 バシン!

 

 グリーンの体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 剣を持っていた腕だけが、地面に転がった。


 唐竹割りになったのは、アグイラで買った式神だったのだ。

 ライトニングストームのさ中、俺は式神を使った。

 そして一か八かで多次元の隙間に溶け込んで、雷撃が収まるのを待ったのだった。

 ダメージを受けていたのは本当だったので、式神の動きは真に迫っていたに違いない。  


 そして、グリーンの背後に出現し、なづみで一閃。

 このなづみは刀身が無いので、折れる心配も無い。

 なづみで斬られたグリーンの身体は、なづみそのもので斬られて飛んだのではなく、急にその動きを止められた圧縮空気の鎧のせいで吹き飛んだのだ。


「そこまで」


 ミツチヒメが言った。


「マリヴェラ、治してやれ」


「はい」


 闘技場の結界も消えた。

 スイッチのある扉から、カタリナが出てきた。

 扇を広げて口元を隠しつつ、笑っている。


「素直に負けを認めたらいいのに」


 彼女は、グリーンの治療を開始した俺の横に並んだ。どこかで見ていたのだろう。


「この子、戦い方を覚えれば、私より上よ?」


「ふん、分かっている」


 カタリナを見上げているグリーンが、明らかに不貞腐れている。

 この感じは……なんだ。アレだ。

 姉さん女房? かかあ天下?


「ごめんなさいね、マリヴェラさん」


「いえいえ。はい、終わりました」


「まあ、若い子は速いのね」


「何の話ですか?」


 まあ、治療が速いのは確かだと思う。

 「ヒール」も「なおす」も「つく」もレベルアップしていて、転生直後とはもう比べ物にならない。

 グリーンの腕の破断面は荒れてはいたものの、持ち歩いていたホムンクルスの腕の肉をちょっとばかし千切って使い、解決させた。


 なんとなく、まだら模様に紫色って言うか緑色って言うか……。

 ……ま、まあ、いいよね?


 グリーンが立ち上がった。


「マリヴェラ君。君の勝ちだ。私では君の本気を引き出す事はできなかったようだな。残念だ」


「そんな事ありません」


「まあよい。カタリナがこの後、君に冥魔法を教えたいと言っている。ついていきなさい」


 おお。

 ルチアナがお願いしてくれたのか。


 グリーンはミツチヒメと連れ立って出て行った。


「私の部屋に行きましょう」


 とカタリナが言い、俺は彼女の後ろをついて歩いた。

 闘技場の外にはルチアナがいた。

 通り過ぎざま、俺はその頭をポンと叩く。

 ルチアナはお返しにとばかりに、俺のケツを撫で上げた。


「うひっ」


 カタリナが振り向いた。

 俺は思わず頭を下げた。


「あ、何でも有りません。すみません」


 ルチアナは、済ました顔をして俺の後ろにいる。


 見なくてもわかる。

 こいつ、ぺろりと舌を出しやがった。

 絶対、その内に必ずや、間違いなくセクハラ返ししてやるぞ、と心に誓ったのであった。 


お読みいただきまして有難うございます。

評価とご感想も心よりお待ちしております。

「カタルシスが少ない」「戦闘をもっと増やせ、掘り下げろ」「恋愛要素が足りないぞゴルァ」

等、何でも言っていただけると、ワタクシの今後の肥やしになりますので、どうぞどうぞ、よろしくお願い致します。

2019/9/18 段落など修正。


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