1-D100-32 マリヴェラ会合中
と言う訳で女子会だ。
俺の部屋に、女子共がお菓子などを持って集まっている。
どうしてこんな事に?
そもそも、ドラゴニア号にいるルチアナが余りの退屈に音を上げて、遊びに来たいとユキに伝えたのが発端だったらしい。
今、この狭い部屋に、ミツチヒメ、ユキ、クーコ、ルチアナ。
ここまでは分かる。ここまではいい。
沙織とミキまでいるのは何故だ。
俺がアグイラで仕入れて取っておいたお菓子類がみるみる減ってゆく。
俺は素朴な疑問をミツチヒメにぶつけた。
「ねえ、姫様。なんで俺が女子に数えられているんですか」
「うん? お主もそろそろ諦めろ。もう十分女子だ」
沙織がとても嫌そうな顔をした。
「本当に男の生まれ変わりなんだね……。シンジランナイ」
と彼女は言うが、ブラックマンバの連中に贈った俺お手製の服を、ちゃっかり着てきてはいるのだ。
ミキも同様だ。
裸体でその辺をうろつかれても、綱紀上問題があるからな。
ミツチヒメだけチェストに座り、その他は上下の寝台にぎゅう詰めになっている。
下の寝台に居る俺の隣は、ユキとルチアナだ。
クーコと沙織とミキが上の寝台に居る。
とても可笑しそうに、ミツチヒメが続けた。
「大体、お主、水兵どもに結構人気だぞ?」
俺の脳裏に風間の顔が浮かんだ。
「姫様、やめて下さい」
「いやいや、ホントだよ? 中村クン」
「ユキさんまで」
「中村クン? マジ? きもーい! ぎゃはは!」
と、これは沙織だ。ミキも上の寝台で腹を捩じらせている。
ルチアナが抱きついてきた。
「えぇー、マリちゃんはあたしのだから! 誰にも渡さないから!」
「はいはいそうですね(棒)」
「なにちょっと。ええい! この航海中溜りに溜まったモノ全て! 今ここでマリちゃんにぶつけてやる!」
「やっやめれって! だからいきなり服に手ぇ突っ込むんじゃ!」
「実況上等! 覚悟!」
「うぎゃー、ユキさんもクーコさんも、このバカ止めて! お願い!」
いやはや、騒がしい。
上段にいるクーコが何か言い出した。
「ねえ、沙織さんのおっぱいって、大きくて綺麗ね」
「そう? 海中ならいいけど、陸上だと重くて肩凝るわよ」
「そうそう。肩きついよねー。寝崩れも気をつけなきゃだし」
同意するのは、俺の胸をむにむにと揉み続けているルチアナだ。
彼女は着やせするが、実は結構なサイズだ。
「良いではないか。わたくしなぞ、身体ごと縮んでしまったわ。身体が軽くて仕方がない」
相変わらず、ミツチヒメの自虐ネタは笑えばいいのか、突っ込んでいいのかどうなのかわからない。
ご愁傷様とでも言えばいいのか。
ちっちゃい方が可愛いですよと言えばいいのか。
いずれにせよひっぱたかれる気がしてならない。
全員無難にスルーした。
「ねえ、マリさんはどう思う? 男子から見ると、胸ってやっぱり大きい方がいい?」
クーコが上段の寝台から顔を覗かせている。
彼女はきつい冗談や皮肉を言う時に、真顔になる傾向がある。
無論、今俺を見下ろしている顔は真顔中の真顔である。
「そりゃあ……。好きな女の子だったら、小さくても大きくてもどっちでもいいよ」
ルチアナが耳元でささやいた。
「ねえマリちゃーん? 模範解答は期待していないんだけど」
……だろうな。俺は眉間を指でつまんだ。
「いやでもちょっと、あのさルーシ、言葉でいじるか胸をいじるかどっちかにしてもらえませんかね?」
「えー?」
「で、どっちなの?」
クーコが追い討ちをかけた。
結局、俺はどっちかを選ばないといけないらしい。
「うーん、水兵共は大きい胸が好きって奴が多いなあ。四六時中そんな話ばっかしてるし。俺は……そうだなぁ。どうしても選べというなら貧乳派で……」
「貧乳言うな!」
「ぐはっ!」
ボディーブローが飛んで来た。
隣に居た貧乳さんからだ。
やっぱりどつかれた。
そういう運命なのだろう。
ここで爆弾発言が飛び出した。
上に居るミキだ。
「男のアレは、大きい方が良いよな」
数秒間が空いた。
色んな思惑が交錯した様な気がした。
「そ、そうね。小さいよりはいいかな」
「余り大きすぎると痛いし疲れるだけだけどねー」
沙織とルチアナがそう言って消火した。
少し落ち着くと、話題の矛先はクローリスやロジャースらの評価に移った。
クローカー・クローリス。
ヴァンパイアの王国、クローリスクインタルの女王であるソフィア・クローカーの長子。
皇太子と定められていないのは、ヴァンパイアの寿命が長いせいだ。
パトリシアと言う妹がいる。
国が滅んだ時に、ソフィアは戦死した様だ。
妹の方は、混乱に紛れて行方不明となっているらしい。
となると、ユキやユウカと境遇が似ている事になる。
「渋いですよね」
「見た目怖いけど、クロ様、優しいのよ」
「そうね。相当不器用だけど」
「どーせ中村クンにはわからないでしょーね」
「いや、だからなんで俺に男の良し悪しを聞くのさ。俺は女の子が好きなの。大好きなの」
「のう、マリヴェラ、そろそろ切り替えないとだぞ?」
「いや姫様。俺、切り替える気無いですし」
「強情な奴だな」
ああもう。
「ロジャースさんはどうなの? 俺から見てもいい男に見えるけど?」
鉾先を変える為にロジャースの名前を出した。
ルチアナとクーコが上と下で顔を見合わせた。
「うん。そうね」
「かっこいいと思います」
「でもね。なのよね」
「そうなんです」
意味が分からない。
ミツチヒメもユキもよく分からないらしい。
残念って意味か?
それなら、確かに少々そんな所があると思う。
「あーあー、そうか。そうね。そーいう意味ね」
これは沙織だ。
沙織たちも、先日ロジャースに招待されて、クローリスと共に食事をしている。
「なに? どういう事?」
ミキも話についてこれてない。
「うん。ミキ、帰ったら教えてあげる」
「ふーん?」
不完全燃焼である。
その後、スパロー号の士官連中も俎上に上がったが、ロジャースとクロ様とは格が違うとの事だった。
残念だったな。
特にネルソン君にクロスビー君。
彼らは意外にそういう話を気にするのだった。
俺は親切だから、ここはちゃんと結果を教えてあげないとな。
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女子会があるなら、男子会なんてのもある。
と言ってもこれはいつもの事だ。
非直の水兵共が取って置きのネタを披露しあうだけなのだ。
総員呼集のかかりにくい天候のいい日に、僅かに支給されるお酒を片手にワイワイやるのである。
大体はシモネタかアホ話なのだが、たまに遭遇した怪物や不思議な話をする者もいるので侮れない。
まずは、ジョーンズと言う名の大柄な水兵だ。
少々困り顔をして言った。
「内海じゃ見かけないとは言え、人魚ちゃんもセイレーンも、隣の船に乗ってるからなあ」
別の水兵が頷く。
「そうだな。陸者のお姉ちゃんに話すにはもってこいだが、ここでは面白くも無いから難しいよな」
「だけどさ、誰も見たことのない怪異なら話してもいいよな」
「ふうん。結構珍しいお方もここにいらっしゃるけどな」
と、全員が輪に混じっている俺を見た。
「いやいや。俺だってこないだまで人間様だったんだから。話してみてよ」
「そうですかい。では……。わっしがアレを見たのは、
まだ若い頃、商船に乗っていたときでさ。
アグイラとフォルカーサの帝都メリッサを
往復する契約で乗ったのですがね。
その往路での事でさ。その海域は、
嵐の時以外は至って平穏でして。
非直の時はのんびり釣りをしたり賭けをしたり
してたんですわ。所が、ある地点で、見張りが
何かを見つけたってんで、騒ぎ出して。
総員甲板へってんでわっしらも呼び出されたわけでさ。
皆が見ている方をみると、海の上を裸の女が歩いてましたんで」
と、ここで再び全員の視線が俺に集まった。
「別に珍しくないよな」
「おいジョン、オチはあるんだろうな?」
ジョーンズが顔を赤らめた。
「いやいや、そりゃ、姫様や姐さんがいるから珍しくないけどさ、お二人以外に見た事あるのか? そういうの」
「……ない、かな」
「それでどうなんだ? その女を抱いたとでも言うのか!」
「そりゃないけどさ。まあ聞けよ。
別に襲い掛かってくるという訳でも無さそうだし、
乙種じゃないのか? と船長も言うので、
減帆して声をかけたのさ。近くで見ると、
引きずるほどに長い水色の髪を持った美人でさ。
船長が帽子を取って挨拶すると、向こうも頭を下げたのさ。
こりゃ脈があるんじゃないのかなんて、
他の船員がヒソヒソ話してたけど、
わっしはそんな下品な事は考えず、ただ見とれてたんでさ」
他の水兵が茶々を入れた。
「お前、その子に惚れたんじゃないのか? そういやあ、港に入っても、飲むだけで女を抱きに……姐さん、失礼。行かないのはそのせいか?」
「いやっそんな事無い!」
ジョーンズは首を振っているが、嘘をつくのは苦手な様だ。
俺が話しの続きを話すよう促した。
「それでどうなったの?」
「ええ。それで、船長は彼女が乙種だと考えたんで。
ただ、そこで乗せるとメリッサに行かなきゃなんねえですから。
そうなると帝国に奪われちまいますやな。
だもんで、船長は事情を話して、
復路で乗せますから、この辺りで待っていてくださいよ、
と言ったのさ。あの娘は頷いたけど、
有難う、でもお構いなく、
と言ってそのまま海の上を歩いて行ってしまったのさ」
と言ったきり、ジョーンズは黙ってしまった。
「……おいジョーンズ、それからどうした? 後日嵐のときに助けてくれたとか、あるんだろう?」
「無い」
「まさか終わりなのか?」
ジョーンズが頷いた。
「姐さん。点数をつけてやってください」
「100点中……10点!」
「辛いっすね?」
「だってさ、起承転結は無いとね?」
「うへえ、ハードル高いなあ」
興味深い話ではあったけど、こういう時には、少し盛って風呂敷を広げなきゃさ。
例えば、悪い奴らの乗った船に追っかけられてたんで、わっしがその船に乗り込んでやっつけてやった! とかさ。
次はあのマツムラの番だった。
よく日焼けしているとは言え、何処かしら弱気な表情を何時も見せている。
「えー、それでは、このロンドール海峡に纏わる話を。何年か前の夏に、オレもホーブロからカッパーフェクツを往復する商船に乗り込んだ事があるんだ」
「へえ、結構給料のいい航路じゃないか」
「うん。まあ、例によって塩や穀物を北へ、
毛織物や金属製品、木材を南に、って奴さ。
でな、怖いのはロンドール海峡から北での
嵐なんだがな。運悪く、逢っちまったのさ。
丁度この辺りだな。海峡をもう少しで抜けようって頃だ。
どうにも南風が強くって、そうすると北海との境目は波が立つ。
ちょっとどうしようもないので、
帆をたたんで我慢したんだが、
どんどん北へ流されて行く始末さ。
所がだ。北へ流れている筈なのに、
雨と靄に覆われた行く手に陸地が見えるじゃないか」
「陸地だとう? コロネル岬でも見間違ったんじゃないのか?」
コロネル岬とは、ロンドール海峡の西側北に位置する岬の名だ。
ロンドリア大陸の最北東端でもある。
その逆側、海峡の東側北にあるファーネ大陸際北西端の岬は、グリン岬だ。
船団はこのグリン岬をぐるりと回って、東へと針路を変える。
マツムラが手を振った。
「いやいや、そうじゃなかったんだよ。
その時も、羅針盤は壊れてなかったしな。
こりゃやばいってんで、何とかしようって
錨を下ろしたりしたんだが、ダメだった。
そのまま、海岸にどしあげておじゃんかと思ったんだがな、
おかしなことに、どしあげなかった。
陸地は、延々と崖が伸びていて、
平地など一切無く垂直に海に落ち込んでいたんだ。
崖は岩だらけで、海草に覆われていて海鳥もいなかった。
妙なことに、下ろしていた錨は着底しなかった。
船は崖に風で吹きつけられているのに、だ。
幸い、直後に風が弱まって、なんとか離岸できたんだ。
そして暫くして後ろを振り返ると……。
その陸地は動き始めて、北海の方へ消えてしまったんだ」
マツムラが話し終えても、誰も茶化さない。水兵の一人が俺にボソッと言った。
「姐さん。得点を」
「60点」
「やっぱり辛いっすね?」
うむ。
ちょうどこの辺りでの話って言うのが点数高かったが、そこは「上陸した」とかないと。眺めるだけじゃダメさ。
少し青ざめた顔でジョーンズが言った。
「それさ、リヴァイアサンじゃないのか?」
マツムラが頷いた。
「多分な」
他の水兵も口を挟んだ。
「そういえば、同じような話を噂で聞いた事があるぜ。それによると、体がでかすぎて、海峡を越せないんだって」
「へえ」
おっかないな。
この海峡の北に広がる北海との境目は、浅瀬が広がる危険地帯だ。
それでも、そこそこの深さと広さがあるはずなのに、どれだけでかいのやら。
ミツチヒメは五千メートルとか一万メートルとか言ってたけど。
丁度そこで上から鐘と号笛の音がした。
「うええー、なんだってんだよ」
「呼集かあぁ」
と皆ブツブツ言いながら、甲板へ上がって行った。
水夫の与太話は実際に結構有ったそうです。
2019/9/18 段落など修正。




