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1-D100-27 マリヴェラ修行中


 フロインはホッとした表情を見せた。

 ただ、それは演技である可能性もある。


(女)

「ありがたい。宜しく頼む」


 二人が歩き、キャビンの扉を手ずから開けた。

 俺がキャビンを出て甲板上に上がると、フロインも後から上がってきた。

 スパロー号は船足を落とし、スループとごく近くで併走していた。


 フロインの女の子の方が、手を口に当て、スパロー号に向けて叫んだ。


(男)

「アレハンドロ、プランBの3番で契約成立だ!」


 アレハンドロが、ぬっと姿を現した。


「了解です、社長。ロジャース艦長にはお会いになられますか?」


(女)

「いや、止めておく。宜しく言っておいてくれ」


「了解です」


 アレハンドロが、ロジャースに何か言っている。

 俺はその間に、ご機嫌な様子のフロインに言った。


「そういえば、アグイラで、嵐山という人が来ました」


(男)

「ふむ? ウチの駐アグイラ大使だな。どうやら、君に世話になったようだが」


「ええ。胃癌を治療しましたが、スパロー号に宣戦布告してきましたよ」


「宣戦布告だとぉ?」


 急に、二人のフロインがハモり始めた。


「息子さんの敵とやらで……。辞表は本国に送付したそうです」


「あのジジイ……。通りで連絡がつかなく……」


 二人そろって頭を抱えている。


 アレハンドロが、こちらに手を振った。

 フロインが、(二人で)手を上げて応えた。

 二人がハモって話したのは、ここまでだった。


(女)

「すまないが、辞表を提出した上での事なら、我々では如何ともしがたい。そちらで処理してくれ」


「分かりました」


 フロインが、妙に明るい表情をした。

 それは見覚えがある。

 ミツチヒメが悪戯を思いついた時のような表情だ。 


(男)

「そうだ。おーい、アレハンドロ!」


「なんですかー?」


(女)

「お前、有給休暇を取って一度ブロイレッドに里帰りしたいと言っていたな」


「は? はあ、確かにそうですが」


(男)

「許可する。スパロー号に乗せて貰え」


「はぁぁぁ?」


「ええぇぇぇぇ?」


 俺もアレハンドロも、アレハンドロの傍からこちらを見ているロジャースも、開いた口がふさがらない。


(女)

「暫くは、大きな任務も無いからな。

 逆に、長期休暇を取れるのは今しかないぞ。

 条件は二つ。副官の白井を連れてゆくこと。

 もう一つ、何処まで同行できるかは分からないが、

 その間、このマリヴェラ君に近接戦闘のイロハを伝授する事!」


 何を仰っているのですかこの悪魔社長は。


 アレハンドロも頭を抱えている。

 だが、彼の故郷は北の亜人三国の一つ、ブロイレッド。

 それなら、行く方向は同じだ。


 階段の下から、薄物の白いローブを纏った女が上って来た。

 船酔いなのか、眼鏡をかけた顔が蒼白だ。


「社長、聞こえましたよ……」


 と、どんよりしている。


「何が悲しくて、あのエロハゲオヤジと二人旅を……。そもそも、たった今戦闘を交わしたばかりの船に乗せてもらうなんて、できるんですか?」


 それもそうだ。俺の一存では決められない。

 ロジャースの方を見た。すると彼は、親指を立てて見せた。

 俺は呆れた。

 あのあんちゃん、懐が広すぎだよな。


 それを見てフロインは、ロジャースに向けて会釈した。


(男)

「白井、お前も色々な場所へ行ってもっと見聞を広めるべきだ。部長のお守りだけではなく、貴重な経験も得られるはずだ」


「せめていい男と……」


(女)

「お前に関しては、これを業務と認める。お土産代も含めて全て経費でいい。仕事で旅行できるのだから、文句いうな」


「あ、それならば我慢します」


「聞こえたぞ副官! 我慢とは何だ、我慢とは」


 あのハゲ親父もかなりの地獄耳である。


(男)

「よし、白井。即刻準備しろ。と言っても、当初は長くて二日の航海だったからな。持つものもあるまい。路銀は……」


 とフロインが顔を巡らせて俺を見た。


(女)

「マリヴェラ君、次の寄港地は、アムニオン侯爵領ソレイェレだったな」


「はい。そう聞いています」


(男)

「なら、アグイラ銀行の支店がある。白井、お前に小切手を渡しておくので、使え。食費などの当座の分は、借りて置け」


「分かりましたわ」


 という訳で、あれよあれよと決まってしまった。


 スパロー号に移乗する前に、顔色の悪い白井にスタビライズを掛けてやった。

 俺が彼女を背負っていくつもりなのだが、その時やらかしてもらっても困る。


「あ……有難う。ウチ、回復系できるヒト、少ないから……。脳筋ばかりで」


 ジルが横から言った。


「あら、アナタも大して変わりないじゃないですか」


 白井が言い返した。


「ジルさん程イケイケでは有りませんけど?」


 なんか、火花が散っているが、方向性が間違っている気もする。

 回復系魔法は、相手を直そうと言う気持ちが無いと殆ど効力を持たないのだそうだ。

 つまり、そう言う事なのだろう。


 白井の所有物が入った箱を、スループの水兵が用意した。


「ちょっと失礼」


 と俺が断り、中身を確認した。中身を記憶しておけば、冥化して持ち運べる。

 下着なども入っているので、白井は一瞬嫌な顔をしたが、俺が冥化して箱が姿を消すと、納得したようだ。


「では、フロインさん。またそのうち」


(女)

「ああ、契約は気にせず、遊びに来てもらっていいからな。本当は、もっと話がしたかった。もっとも、僕の居場所は基本的に秘密なんだが」


 そして、二人のフロインと三度目の握手をした。

 俺は白井を背負い、海面に向けてポンと飛び降り、スパロー号へ帰っていった。


――――――――――――


 航海は順調だった。

 アグイラからファーネ大陸南岸にあるアムニオン侯爵領ソレイェレまでは、約千二百キロメートル。

 目安として例を挙げると、東京から長崎、同じく小笠原諸島父島までが千キロメートル弱である。


 今の風なら、五日から七日程度で到着らしい。帆船にしては速い。

 いや、とても速い。

 それは船団としての速度なので、スパロー号単独ならばもっと速い。

 もちろん、上手くいい風が吹き続ければの話なので、もっと日数がかかってもおかしくない。

 ただ、比較的安定した海域らしく、ディレイラも余裕の表情だ。


 だが、艦長ロジャースは、今、硬い表情をしている。

 アレハンドロと白井が乗り込み、航海を再開した翌日、俺とロジャースと白井、そして姉弟の五人がキャビンに集まった。

 アレハンドロにも参加を打診したのだが、キャビンは窮屈だと言うので甲板に居る。


 まず初めに白井は


「私の意見は、部長の意見、ひいてはポントスの意見だと思っていただいて結構です」


 と言った。


「あの悪魔社長の考えが読めるのですか?」


 と俺が少々意地悪な質問をした。

 白井は首を振り、


「……それは無理です。ただ、組織としての方針、という意味です」


 と答えた。


 この集まりは、ロジャースがアレハンドロに提案した機会だった。


 敵。


 しかも、姉弟にとって親兄弟の仇が同じ船に乗っているのだ。

 ポントスの二人は涼しい顔をしているが、道中に偶発的でも争いに発展する可能性は十分にある。

 では、相手を理解しないままでいいのか?

 白井は、答えられる事は答えるという。

 アイスコーヒーの入ったマグが全員に配られた。

 ここで得られた情報は、士官や水兵にはロジャースが。ミツチヒメとクーコには俺が伝える事になっている。


 ロジャースが、ポンと手を叩いた。


「よし、ではまず初めに、マリさん」


「はい」


「昨日の社長との会見、どのような内容でしたか? もちろん、話せる範囲で結構です」


「んー。特に隠す事もないですけど、ユキさんとユウカさんには心の準備をお願いしますね」


 聞くに堪えない、心を重くするような事を聞かなくてはいけないかもしれないからだ。

 二人が頷いた。


 ユキの今日の服装は、涼やかな麻地の白いワンピースである。どうやら彼女は、白系の服が好きなようであった。

 反対にユウカは士官用の服である。

 普段は結構水兵服を着ていることも多いのだが、今回は士官服を選んだのだった。

 どうも彼は、どちらかと言うと私服より制服の方を好むらしい。


「私とポントス社長が交わした契約の内容から話します。取引しました。今後、ポントスはユキさんとユウカさんの命を狙う事はありません」


 誰も、身動きしない。

 波が舳先に当たるリズミカルな音が妙に響く。


「引き換えたのは、将来何時かどこかで、一作戦の間だけ、私が社長に協力する事、です」


 ロジャースが、意外な物を見たかのように、俺の目を見た。


「それだけですか?」


「もちろん、こちらがポントスに敵対行動はしない条件ですが。それに、口頭だけで文書にはしていません」


 白井が口を挟んだ。


「それは、口頭だけでも大丈夫です。ああ見えて、社長の持つ唯一知られている『言霊』が、『約束』なんです。意外に誠実なんですよ」


「ホントですか?」


 「約束」の「言霊」か。

 となると、例えば、約束に到るまでのアイデアを思いつきやすい、約束の成功率アップなどの効果が考えられる。

 確証は無いが、俺も影響されたのかもしれない。


「そんな事、口外してもいいのですか?」


「ええ。社長、あんな見た目ですし、中々信用されませんので。公言はしませんけど。そこそこ知られていると思ったのですが、ご存じなかったですか?」


 ロジャースは顔を振って言った。


「我々も知りませんでした」


 俺は続けた。


「あの、嵐山元大使については、既にポントスの一員ではないので、こちらで処理してくれ、との事です。大体、内容は以上です」


 これには、ユキがため息をついた。


「処理、ですか」


 白井が、表情を変えずに言う。


「彼に関して、私が知りうる事は航海中に報告書にしてロジャース艦長にお渡ししておきますわ。運賃の一部ととってください」


「分かりました。お願いします」


 と、ロジャースが頭を下げた。

 世界征服については、口外するなとの事なので、言わなかった。

 知られたくないのは恐らく、手持ちの戦力の多くがフォルカーサからの借り物だからだろう。

 フロインとは路線が違うとは言え、覇権国家を目指すフォルカーサにしてみれば、いわば子会社の社長が世界征服などと言っているのは問題だろう。

 ただ、国民を不幸せにしない世界征服が目標だとするなら、フロインの行動原理が分かりやすく、すっきりする。


 これで一段落。各々、マグを手にとり一服する。

 契約の内容は、なるべく早くはっきりさせた方がよかった。

 どうも、俺が裏切るのではないか、などと勘ぐる水兵もいるようだったからだ。

 それも、俺が自ら言うより、ロジャースやユキの口から伝えてくれる方が良い。


 マグを両掌で抱えていたユキが、口を開いた。


「白井さん、ワクワクの状況は、どうなっていますか?」


 白井は、一瞬目を瞑り、微笑んだ。


「私が居たのは一日だけでしたので、詳しくはわかりません。アグイラの新聞の内容とさほど変わらないかも知れません。それでよろしければ」


 ユキが頷いた。


「では。王都は平静でした。戒厳令下ではありますが、

 封鎖などはされていません。

 上陸時に抵抗があったのは、

 ミツチヒメ様の社の他、数箇所だけでした。

 直前に、ミツチヒメ様が亡くなられたとの情報が

 流れていたとの事です」


「そうそうある経験では無かったって言ってますよ」


 白井は肩をすくめた。


「私も、経験したくは無いですね。……失礼しました。

 ……海軍の抵抗は有りませんでした。

 我々は予想していましたし、

 そうなるようにしていましたから。

 ただ、ロジャース艦長と数人の中堅軍人については、

 抗戦すると予測できましたので、

 それぞれ手を打っていたと聞きました」


 ロジャースが苦い表情を表に出した。

 白井の情報は、すなわち、上層部が買収されていたと言う意味だからだ。

 アグイラへの往復も、その日程は仕組まれたものだったようだ。


 ユキが搾り出すように言った。


「あの、父上と弟は……」


 ユキの父はもちろん国王だ。

 弟の方は、ユウカではなく、ユウカの兄でありユキの腹違いの弟の事だ。彼は皇太子だったのだ。


「王家の皆様は、宮殿を脱出し、王都近くの小城に立てこもった後、包囲され、……それぞれご自害された、との事です。ご遺体は、その小城の一画に葬られたそうです」


 白井の話を全て信じられる訳ではないが、新聞では、全員処刑だったと書いてあったのだ。

 ユキの目から、ぽろっと涙が落ちた。


「白井さん、有難うございます」


 ユウカは何も言わず、じっと机の上で組んだ自分の両手を見つめている。

 白井が一礼した。


 彼女はここで退出した。


 暫くして、ロジャースが俺に聞いた。


「どう思われます?」


 かなり漠然とした問いだったが、俺は思うことを話した。


「あの凸凹二人組みなら、余り裏表は無い気がします」


 ハンカチを目に当てていたユキも頷いた。


「こちらに乗る事になった経緯も、あの悪魔社長の思いつきのようでしたし。そもそもあの襲撃自体、本気でこちらを沈めようとしていて、私を……」


 ここまで言いかけた時、ユキとロジャースが同時に「マリさん」と言った。

 二人はお互いびっくりしたように顔を見合わせた。


「失礼しました。どうぞ、ユキ様」


「……マリさん、ルーシとは素で喋ってるみたいじゃないですか」


 ロジャースも頷いた。


「私も、それを言おうとしたのです。マリさんは、どうも、変に他人行儀になることが多いですね」


 そうかな?

 人付き合いが上手ではないのは確かだけど。


「うーん? じゃ、まあ、了解です。

 で、あいつら、こっちを沈めようとしたのは確かだと思うな。

 でもプランBがあって、途中で俺との交渉に切り替えたんだと思う。

 あのデカ物のオッサンも、うちの連中をワザと殺さないようにしてたし」


「それは私も感じました」


「その切り替えの速さと、準備の周到さから言って、

 ぶっちゃけ付け入る隙は無いと思うなあ。

 今回はこれで済んだけれど、もし本気でこの艦を

 沈めようって気で来ていたら守れ切れてないし。

 あいつら強いぜ? 強いて弱点と言えば、

 自社の兵力が少なくて、フォルカーサと傭兵に

 依存している点かな。

 まあ、現状では彼らを上手く使う事だねえ」


 ユキが呟いた。


「私はちょっと割り切れないかな」


 そりゃそうだ。


 ずっと黙っていたユウカも口を開いた。


「マリさん。納得いきません」


 おや。

 ユウカの顔を見ると、酷く傷ついたような表情をしている。


「どうぞ。言いたい事が有ったら言ってね」


「なぜ私たち姉弟の為にマリさんがそんな契約を

 しないといけないのですか?

 私たちの事は私達がするべきではないのですか?

 私にとってポントスは敵です」


「まあね」


「ならそんな契約なんて必要ないではないですか」


「俺は部外者かい?」


「違うんですか?」


 ストレートな物言いに思わず苦笑した。

 若いっていいなあ。


 よし。じゃあ仕方がない。

 俺はいきなり金の光になり、なんちゃって瞬間移動発動。

 並んで座っている姉弟の真ん中に立った。

 そして二人の肩に腕を置いて引き寄せた。


「じゃあこうしよう。色々上手くいった暁には、二人のうちどちらかを貰い受ける。それでどう? 対価が有ればいいんだろ?」


 ユウカは絶句した。


 もちろん冗談である。

 ロジャースも笑いをこらえている。

 元々、俺は俺で動機がある。

 俺には寝る場所が必要であり、それはここに居る人たちと居るのが今の所好ましいと判断しているのである。


 それにもう一つ大きな理由が。


 俺がそうしたいからだ。


 こんなに大きな動機は無い。

 そもそも、自分がそうしたい時にそうできるってのは自由の最たるものである。

 もし俺が丙種として扉をくぐっていたら、そもそもあんな契約なんてできなかったのだから。

 ……と言う話は、全てでは無いがロジャースにはしてあったし、ユキにも示唆はしてある。

 というか彼女の場合、勝手に人の心を読むんだけどな。

 「言霊」の気配を感じてレジストレベルを何度上げた事か。

 ただ、今はその話をユウカにするべきではない。


「よし、異議は無いみたいだからキマリな」


 ユウカが慌てて反論しようとしたのを止めた。


「大体さ、逃げてはいけないって心理は間違ってんだよね。信長だって秀吉だって家康だって、逃げなきゃいけない時にはさっさと逃げたしな」


「ノブナガ?」


「ああ、俺の世界の歴史はこっちに伝わっていないのかな?

 まあいいや、兎に角、逃げるのが恥だとは思わない事。

 成功した武将だって逃げた事の無い武将は居ないのさ」


 ユウカが頷いた。

 やっぱり偉人の武勇伝なんかは好きなのかもしれない。


「それに、ウチとポントスの現有戦力の差って、十倍じゃきかないでしょ?」


 ロジャースも頷いた。

 開戦前にワクワク海軍が集めていた情報と、撤退後にアグイラでも情報を集めて検討して出した結論だ。

 表向きの戦力だけでそれで、乙種などを加味するとそれ所ではなくなるのだ。

 例え俺が十人いてもまだ足りない。


 ユキがユウカの太ももを掴んだ。


「じゃあユウカ、頑張って男を磨いてマリさんに選んでもらえるようにしなきゃね」


 ……おいおい。


 本気にしたらどうすんだ。


 その時。甲板が騒がしくなった。

 じっと耳を澄ませたロジャースが、苦笑いをした。


「早速、この機会を『利用』してやろうとする者がいるようです」


――――――――――――


 外に出ると、主甲板の一番広い場所で、アレハンドロとネルソンが剣を構えて対峙していた。

 水兵が遠巻きにしている。

 アレハンドロは余裕の表情で、白井も艦尾甲板の前手摺の所に腰を降ろして見物している。


 ロジャースが叫んだ。


「おい、誰か、訓練用の木刀を持ってこい!」


 ネルソンが振り返った。形相が必死だ。


「艦長! 後生ですから!」


「命令だ! 稽古をつけてもらえ! 怪我したらマリさんに治してもらえばいい。とは言え、アレハンドロ殿、どうかお手柔らかに頼みますよ」


「承知」


 アレハンドロは、剣を預け木刀を受け取ると、二・三度振った。

 そして、にやりと笑った。


「では、食事前に一汗かくとしよう。食事の後はマリヴェラ殿と御一手願おうか」


 硬直した俺の肩をユキが両手で揉んだ。


「利用しなきゃね?」


――――――――――――


 ……アレハンドロは強かった。

 見た目とは相違して、力ではなく何より技に優れていた。

 俺も、影免に頼っていられない場面も来ようと、木刀を手に取ったが、チンチンにされてしまう。

 どんなに速く動いたつもりでも、先を読まれ、ぶったたかれてしまうのだ。なんちゃって瞬間移動を使っても、ダメなのだ。

 もうそういう物なんだと思う他ない。

 ま、ハゲ親父が「先読み」とかの「言霊」を持っている可能性はあるけどな。


 合い間には白井との魔法戦実戦稽古もあるので、毎日へとへとだ。

 体が疲労しているのではなく、精神的な疲労だ。


 ネルソンも寝る間を惜しんで挑むが、軽くあしらわれる。

 負けず嫌いの彼が、歯軋りしながら何度も向かったが、どうにもならない。

 他にも何人かが挑戦したが、稽古というより巨大な壁を体験しただけで終わった。


 ミツチヒメやユキも、退屈な時に見物しに来るだけに、余計にネルソンは口惜しがっている。


 ユウカは何故か木刀は手にせず、魔法の修練だけを選択した。

 合い間にはアグイラで購入した書物を読んで時間を潰している。


 剣の稽古はきつかったが、魔法は楽しかった。

 例の金の雨の結界も、色々分かってきた。

 敵である白井に見せるのもリスクがあったが、自分の事を知るメリットには勝らない。


 メイナードは魔法バカで、実戦や属性の知識なんかはイマイチだったりするが、白井は叩き上げの傭兵魔道師で、年齢や容貌に似合わない程の経験があった。

 二人がその経験や知識を出し惜しみしないので、俺にはありがたかった。

 メイナードも対抗意識を燃やして色々俺に教えようとするが……。


「ねえ師匠。四次元魔法式なんて憶えられないんですってば」


「え? そ、そうかなあ……」


 という有様だ。


 こうして楽しく(?)日々が過ぎていった。


 そして一番初めの目的地、アムニオン侯爵領主都ソレイェレに到着した。



2019/8/5 ナンバリング追加。本文一部修正。

副題、「ハゲ親父教練中」でも良かったですネ。

2019/9/18 段落など修正中。


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