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1-D100-19 マリヴェラ宴会中


 さてと。


 大豊作の鑑定祭りの後は、スパロー号の主だったる面子が揃っての会合である。

 宿の畳敷きの大広間での開催だ。

 会合が終わったら、そのまま夕食が運ばれてきて宴会に雪崩れ込む予定だ。


 午前中に開かれたワクワク王国の会議では、結局何も進まなかった。


 ユキの意向は決まっている。

 ユウカは姉に従う心積もりだ。


 しかし、それだけでは物事は動かない。

 明日の二度目の会議で全てを前に進ませる為には、他にも必要な事がある。

 と言うわけで、参加できる者は参加せよ。

 と、ロジャースが命じたのだ。


 服装は何でも良いらしい。

 先日より浴衣姿が多い。

 どうした事か、既に膳が運ばれつつある。

 あれ? 会合じゃなくて、初めから宴会なのか?

 会議や会合に相応しい、スーツっぽい服を着てきた俺はナンなの?

 席に座りつつ、俺は疑問に苛まれたが、ロジャースがポンポン、と手を打って宣言した。


「よし、じゃあ始めるぞ。

 もちろん、先ず話し合うべきは、我等がワクワク王国についてだ。

 まず、現状は以下の通りだ。

 新たな情報も入ってきている。

 ワクワク島、すなわちワクワク王国は全てポントスの勢力下にある。

 現在も、主だったる港町は、数隻ずつの船及び兵にて

 監視されている。

 何より、社長のフロイン及び数人の幹部については、

 一人でも相当の戦力と目される。

 かつ、その者たちの所在が把握できていない。

 ヴェネロ島の占領パターンから推測すると、今後落ち着いてきたら、

 生活物資の輸出入などは再開されるだろう。

 一番近いのはここアグイラだが、ポントスとの融和を図る勢力と、

 反対する勢力が拮抗していて、現状アグイラが

 ワクワク奪還に手を貸す可能性は無さそうだ」


 ロジャースの状況説明を、俺は頭の中で噛み締めた。


 もしワクワクの奪還を目指すなら、北の大国に頼るべきだ。

 俺とミツチヒメだけで何とかしようにも、ポントスもそんなに甘い対応はしてこないだろう。

 なんせ、次の目標を攻略する前にしっかりと準備をする組織らしいからだ。

 だから、奪還を目的とするなら、今はぶっちゃけ打つ手が無いのだ。


 もちろん、俺自身、ワクワクに対する忠誠心も愛着も無い事は隠しようもない。


 いずれにせよ、姉弟の親類は、北の王国内にいる。

 どうするかを決めるのは、腰を落ち着けてからでも遅くは無い。


 何人かが手を上げて質問したので、ロジャースが丁寧に答えた。


 ちょっと間が空いた。

 色々考え事をしていたので気づくのに時間がかかった。

 何事かと思ったら、全員が俺に注目している。


「マリヴェラ殿はどうお考えですか?」


 どうって。


「何をですか?」


「我々はどう進むべきでしょうか」


 俺はしばし動きを止め、そしてロジャース、ミツチヒメ、姉弟の順に視線を移した。


 そもそも、ワクワク王国乃至スパロー号での俺の立場ははっきりしていない。

 単に「ワクワク国で乙種登録」をしてあると言うだけで。

 後は流れでここまで来たいわば「まれびと」だ。

 国際事情もまだ何も解っていないに等しい。

 手元の情報だけでも分析の真似事はできるが、それだけだ。


 まあ、ここで意見を述べるべきであるなら、一つはっきりさせないといけない事が有る。


「皆さんにとって」


 俺が話し始めると、ユキがぴくっと動いてこっちを見た。


「皆さんにとって、私はどんな存在なのでしょう?」


 まあ、スパロー号に乗り込んでからたった数日なのに、どんなもこんなも無いのだが。


「わたくしのしもべだな」


 先ず、ユキの横で片膝立てて座っているミツチヒメが茶々を入れた。

 既に手酌で飲み始めている。


「恩人です」


 これはユウカだ。


「僕の弟子でもありますね」


 今度はメイナードだ。


「同郷人です」


 浴衣姿ですっかりリラックスしている八島だ。


「私の友人でもある」


 ロジャースは手にした杯を高くささげた。

 ミツチヒメだけではなく、皆、既にお酒が入っている。


「おう」


「そうですね」


「我らの友人だ」


「友人に乾杯」


「自分の未来の嫁です」


 え?


「は?」


「何?」


 全員の顔がそっちを向いた。


 流れをぶった切ったのは……あの大怪我を直してやった風間だ。

 しかし至って真顔だ。冗談で言っているのではなさそうだ。


 噂では、治療後、俺を崇拝し始めたのだそうな。

 イタバシのおっさんに話した「ただ働きの冗談」を真に受けたのだろうか?

 それにしても、崇拝云々から一体どっからどうやって嫁って話になったんだろう。


「お、おう、頑張れよ」


 隣の水兵が受け流した。


「スパロー号の恩人に」


 ちょっと中断したが、次々に杯が捧げられる。

 あ、あれ? こんな事になるなんて。

 気づくと涙が流れていた。

 これは幾ら水属性値が高くても止めようがない。


「マリさんは……」


 最後にユキがゆっくりと話し出した。


「私の恩人であり、……兄のような存在なのだと思います」


 そしてふっと顔を上げた。


「今すぐにワクワクを奪還しようとするなら、

 必ずマリさんを戦力として当てにしなければなりません。

 それは私としては本意ではないのです。

 そもそも、父は軍備に力を裂きませんでした。

 家臣の意見にも耳を貸しませんでした。

 滅ぶのも当然だと思います。

 でも、私も死にたくは有りません。

 ユウカも死なせたく有りません。

 生き残る為に、精一杯の事をするつもりです」


 ユキの声がひときわ大きくなった。


「そこで、皆さんにも精一杯生きて欲しいのです。

 幸い、今の所、ポントス支配下で国民が苦しむ事は

 ないかもしれません。

 私は、状況を見守り続けようと思います。

 もちろん、主権を放棄する事はありません。

 ポントス軍の退去を求め続けます。

 それでも……」


 ユキが居住まいを正した。


「誠に勝手ながら、現時点では、奪還の活動はしないものと考えています」


 そう言うと、頭を下げた。


 大広間が騒然となった。


 ロジャースもあわててユキに頭を上げさせた。

 ユキが絞り出すように言葉を継いだ。


「もちろん、国民が苦しむような事になったなら、

 私は必ず立ち上がります。

 その時には、皆さんの命を私にください」


 皆、口々に「応」と叫ぶ。


 おお、淀みなく言い切ったよ。

 こういう所は、流石に王女様だと思う。

 これで針路は決まった。


 ユキは言いたい事を言い終えて、少し虚脱している。


 ロジャースが後を受けた。


「では次だ。先日、ワクワクに戻るなり、ここに残るなり、

 申し出るように言い渡したが、二十名の者が届け出てきた」


 二十名という数に、流石にどよめきが起こった。

 俺も内心驚いた。

 今の乗員数は、艦長含めて七十二名だからだ。

 もし五十二名で出航となると、航海だけするならともかく、戦闘要員が足りなくなる。


「もちろん、それを責める事は無い。

 個々の選択に正解は無いが、

 家族は何より大切だ。そうユキ様も仰っている。

 そこを考えて欲しい。財宝の分け前は、

 その二十名には護衛任務出発の前日に与える」


 ミツチヒメは、茶々を入れた以外は、何も言おうとしない。

 今を生きる者が決めるべき。

 そう見定めているのだ。


 となると、俺はどちらに属するのだろう。

 さっきはなし崩しになったが、結局俺は何も言っていない。

 ……やはり、言えるはずもない。


 食事とお酒が進み、各々ああだこうだと語り合っている。

 俺も八島とどうでも良い事を喋っている。

 どうやら、八島もなんだかんだ言ってついていく気の様だ。

 そのまま、なし崩し的にお開きとなった。


――――――――――――


 最後まで会場で粘ってちびちびと飲んでいると、宿の人が、俺宛に使者が来ていると取り次いできた。


 おっと。


 忘れてた。

 甲種討伐の賞金か。

 こんな夜に来るなんて。


 ロジャースにもその事を伝え、簡単に打ち合わせをし、一緒に宿のロビーまで行く事にした。

 ロビーでは、二人の男が待っていた。

 二人とも、いかにも役人と言ったパリッとした服装だ。


 俺が先ず挨拶をする。


「これはこれは、わざわざお越しいただき、大変恐縮です。

 私がマリヴェラ。こちらがワクワク王国スパロー号艦長、

 ロジャース殿。友人です」


 なるべく愛想よく振舞う。

 二人の役人も頭を下げた。

 それぞれ名刺を取り出し、俺たちに手渡した。

 背の高い方が浅井、低い方が月宮という名だ。


 浅井が切り出す。


「夜更けにお邪魔して恐れ入ります。我々は

 アグイラ政府恩賞局の者です。

 先日は、甲種を早急に討伐していただき、

 国を代表して御礼を申し上げます」


 月宮が続ける。


「お聞き及びかもしれませんが、規定に基づき、

 ここに二億円を褒賞としてお持ちいたしました。

 ぜひ、受け取っていただきたい」


 そう言って、金貨の詰まったカバンと一通の書類を取り出した。


「では、この受け取り確認書にサインをお願いします」


 俺がサインをして、手続きは終わった。


 二人は直ぐに立ち去ろうとしたが、ロジャースが声をかけた。


「明日、お礼に伺おうと思うのですが……」


 月宮が笑って、手を振った。


「いやいや、何度でもお礼を言いたいのはこちらですよ。

 我々もここに家族が居ますからね」


 俺が笑顔で言う。


「ちょっとお聞きしたいのですが、これ、

 全て被災地の為に寄付したいのですが、

 どうすればよろしいでしょうか?」


「寄付ですって?」


 浅井と月宮が顔を見合わせた。

 月宮が、少し声を震わせながら言った。


「なんとまあ……。あなた方の噂は多少聞いていましたが……」


 月宮は浅井を見ると、浅井が頷いた。


「分かりました。段取りは私達にお任せ下さい。

 ひとまずその報奨金はお持ちになってください。ロジャース艦長?」


「はい」


「明日は何時頃にお時間を取れますか?」


「そうですね……。午前中は会議とその準備です。昼食後、一時過ぎからなら恐らく大丈夫です」


「分かりました。二億のご寄付、貴重なお時間、

 決して無駄には致しません。

 会議前に段取りをお知らせする使者を寄越します」


「宜しくお願いいたします」


 そしてそれぞれ握手を交わし、二人は帰っていった。


 見送り終わり、宴会場に戻ると、既に大半の者が居なかった。


「なんだ、つれないな」


 それでも、主な面子は残っていた。


「褒賞の二億、被災地に寄付する事にしたから」


「へえ」


 とか、


「ふうん」


 と言う者は居たが、「もったいない」などという不届き者は居なかった。


「それでさ、この寄付、ユキさんかユウカさんが提案したって事にしようよ」


 俺の思い付きに、ミツチヒメが皮肉げに言った。


「打算的だのう」


「別に打算的でもいいじゃないですか。どうせ寄付するなら、有効に使わなきゃ。ね?」


「賛成です!」


 手を上げたのは赤ら顔のネルソンだった。


「効率ですよね! 持っているカードは少ないですから。

 少しでも我らに有利になるように考えるべきです!」


 どうも、お酒が入ると饒舌になるらしい。


 暮井がネルソンの背中をぽんと叩いた。


「それで、ネルソン君はどうお考えですかな?」


「それは、ロジャース艦長が色々考えてくださいます!」


 聞いた全員がずっこけた。

 ロジャースも苦笑した。


 暮井が言い聞かせた。


「お前な、普段から、自分がもっと上の立場だったらどうするかを、

 少しずつでいいから考えるんだ。

 どうもお前は、艦長に依存する所があるよな。

 この際言っておくぞ」


 ネルソンはちょっと口をあけていたが、むっとしたように黙り込んだ。


 ミツチヒメが立ち上がった。


「さて、ユキを寝床に放り込んで来るか。クーコ、手伝え」


「はい」


 ユキはアルコールが回ってふにゃふにゃになっている。

 ずっとつき合わされていたユウカがほっとした顔をしている。

 この子、結構損な役回りなんじゃないのかな。


「じゃ、私も引き上げますよ」


 と、俺も部屋に下がったのだった。


遂に、というよりあっという間に第二十話の投稿となりました。

既に書いてある部分なのですから当然ですがw

それでも、あれだけ何度も見直していた物を、なお直前にかなり手を入れています。

まだ投稿開始から日が経っていないので、腕が上がったとかではないと思うのですが。

もしかしたら作品を人様にお目にかける投稿と言う行為を通じて、ただ執筆するだけの状態とは意識が変わってきているのかもしれません。

皆様、これからもよろしくお願いします。

2019/7/31 ナンバリング追加。本文微修正。

2019/9/3 段落調整。

2019/9/18 微修正。

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